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「もの申す」 スイスの株主

「利害関係からはなれた公的機関の年金ファンドだからこそ、大企業に意見を言える」と語る、エトスのビーダーマン氏

(Keystone)

スイスの大手企業の経営陣の「法外な報酬」を声高に批判したり、経営方針に積極的に意見を述べる機関投資家、「エトス基金 ( Ethos )」が、今話題になっている。

75の公務員年金ファンドを中心とした資金20億フラン ( 約2000億円 ) を運営しながら、スイスの大手企業の経営改革に挑むのは、ドミニク・ビーダーマン氏だ。

 スイス株式市場の取引総額1兆2000億フラン ( 約116兆円 ) の0.1%の資金で、スイスの大企業に「持続的な経営」を求めるエトスの仕組みを探る。

まずは信頼を得ること

 エトスは1997年、ジュネーブに設立された。当時、ビーダーマン氏はジュネーブ州公務員の年金ファンドを運営していた。投資先の選考の際、環境問題に取り組み、社会的責任を果たそうとする企業に投資することが、長期的に株主の利益につながると考えた。

 しかし、大手企業25社が取引総額の大部分を占めるスイス株式市場では、大手企業への投資は避けて通れない。株主としての権利を積極的に行使し、企業の経営方針に影響を与えながら年金ファンドを運用する道しかスイスにはない。

 10年前にこのような観点から年金ファンドを運用することに、運用を任せようとした大手銀行から理解が得られなかった。そこで、ビーダーマン氏はエトス基金を自ら立ち上げ、自分の戦略を公的機関の年金ファンドに説明して歩いた。

 現在、75のファンドのすべてもしくは一部を運営する。昨年から、ドイツの民間企業の年金ファンドや、フランスの国民年金、公務員年金など2つのファンドの運用の一部を任されるまでエトスは有名になった。しかし「ファンドマネージャーの信頼を得ること、投資先の企業に認めてもらうことに、多くの時間と忍耐が必要でした」とビーダーマン氏は振り返る。

エトスのパワー

 エトスの運用総額はスイス株式取引総額の0.1%にとどまる。しかし、エトスに一部の運用のみを任せている年金ファンドでも、所有する株主としての権利はすべてエトスに任せている。「権利は株数のおよそ10倍。また、株主総会に出席する株主は全体の3分の1ですから、エトスの実力はスイスの株式取引総額の3%に当たります」とビーダーマン氏は説明する。

 さらに、エトスが大手企業の経営陣と総会以外の場で経営方針について話し合う、「エンゲージメントプール」も作った。これは8つのファンドから構成され、企業との話し合いの委託をエトスが受けている。もちろん話し合いの内容はエトスのコンセプトに従ったもの。「大企業の経営陣も、エトスの背後には年金を支払う多くの人たちや納税者がいることがだんだんと分かってきたようです」とビーダーマン氏は言う。

 このほかエトスは、世界大手500社に対し、環境問題取り組みについての質問状を出す「カーボン・ディスクロージャ・プロジェクト ( carbon disclosure project )」に出資している。スイスの対象企業数を、これまでの11社から今年は50社に増やした。質問状を出された企業は答える義務はないが、インターネット上ですべてが公開されるため、メディアの注目度も高い。

委託者資本主義

 スイス証券市場の3分の2は機関投資家だ。ビーダーマン氏1人が彼の信念を投資先の企業に訴えても、誰も聞く耳を持たないであろう。

 しかし、現在、スイスも「フィディシャリー・キャピタリズム ( 委託者資本主義 )」の時代を迎えようとしている。プロの機関投資家に個人投資家が株主の権利の施行を委託するのがこれからのスタイルである。エトスは、年金加入者の意向である環境保護や社会的な責任を果たす経営を企業に要求する、スイスでは唯一の機関投資家だ。

 2005年、ネスレの株主総会でエトスはこれまで取引のなかった年金ファンドと掛け合い、ペーター・ブラベック氏の会長と最高経営責任者 ( CEO ) としての兼任問題を総会の議題として取り上げられるよう工作した。総会では36%の支持を得た。その後、ブラベック氏は次回の役員選挙では、会長には立候補しないと宣言。結局、エトスの要求が聞き入れられるという快挙を遂げた。

メディアを利用

 今年は医薬品大手ノバルティスのトップ、ダニエル・ヴァセラ氏の報酬額440万フラン ( 約4260億円 ) と会社が買収され経営陣が解任された場合の退職金 ( ゴールデン・パラシュート ) について、株主総会で意見を述べたことが、大きくメディアで報道された。エトスの要求に応じヴァセラ氏は、ゴールデン・パラシュートは辞退すると答えた。

 「企業との直接の話し合いで解決するのが目標です。ネスレもノバルティスも、話し合いが決裂したので総会で発言しなければなりませんでした」。総会で発言すればマスコミにも取り上げられる。投資先の企業が否定的に報道されることは株主にとっても良いことではない。しかし、ビーダーマン氏はマスコミを通して世論を動員し、経営陣を動かすこともある。「総会後の現在、ネスレとはとてもよい関係にあります」と、今後は話し合いが充実すると同氏は期待する。

 エトスは現在、30の日本企業にも投資している。「大手の株主総会がすべておよそ1週間に集中しています。これでは、プロとして業務内容を深く調べ、総会に向けて準備することはできません」と日本企業に対しても積極的に意見を述べる姿勢にあることを明かした。

swissinfo、佐藤夕美 ( さとう ゆうみ )

キーワード

エトス基金
創立1997年
運営資金 およそ20億フラン
スイスとヨーロッパの75の年金ファンドを運営
運営責任者 ドミニク・ビーダーマン
本拠地 ジュネーブ

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