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バーゼルワールド 世界が注目する時計・宝飾見本市

「不況から脱出し、飛躍へ向けての1歩を踏み出す見本市」と主催者側の期待がかかる Reuters

経済危機による打撃はいまだに時計業界に影を落としている。バーゼルで毎春開催される国際時計・宝飾見本市「バーセルワールド」も2008年をピークに、出展者数はやや減少傾向だ。

それでも「バーゼルワールドは満員状態。不況だからこそ企業はここに力を入れている。これが、この見本市の地位を強めた」と見本市責任者のシルヴィー・リッター氏は胸を張る。

不況の影響と今後

 スイス時計業界は、世界に流通する時計ブランドの7割がスイス製で、貿易額も世界の約5割を占めるリーダー的存在だ。しかし2009年は、輸出額が前年比でマイナス22.3%となり123億フラン ( 約1兆500億フラン ) にとどまった。また、個数も2170万個でと前年より440万個減少し、ピークの2008年から2006年のレベルにまで戻った。

 今年1月には、輸出額が9億7580万フラン ( 約817億円 ) と前年同期比でやっと2.7%プラスに転じた。スイス時計協会 ( FH ) のフランソワ・ティボ氏は3月17日の記者会見で、
「15カ月間の不況からプラスに転じた。昨年11月から上昇基調にあったが、1月はその傾向を確認する業績となった。2月の業績も期待している」
 と言う。もっとも消費者の購買力を考えると
「時計はいま必要な必需品ではない。後回しにできるものだ。時計に投資すれば確実であると思うようになるまでにはなっていない」
 また、企業も設備投資をするまでに至っていないという。

 一方、3月11日に2009年の業績を発表したスイス最大手スウォッチグループ (Swatch ) は、前年比で純利益が8.9%縮小したにもかかわらず、今年1月の業績から2008年のレベルまで戻るであろうと楽観視している。

 バーゼルワールドの出展者を代表するジャック・ドュシェン会長はしかし、業績の低迷ばかりではなく、業界が培ってきたノウハウが、徐々に失われて行いくことを嘆き、早急に楽観的になることを警戒した。そして
「本物、伝統、手でつかめるものへ戻ることから始めるべきだ。消費者は熟慮するようになっている。一流で誠実な企業が大切にされるべき消費動向だ」
 とバーゼルワールドの記者会見で語った。

伝統かイノベーションか

 時計協会のティボ氏によると、こうした状況下では有名ブランドの重要性が増しているという。過熱気味だった業界が今年は腰を落ち着けるかのように、今年のデザイントレンドはクラシカルデザインだ。バンドはメタルが多くなった一方、大きさは小型化し、フェミニンなデザインが流行だという。

 伝統がそのアピールポイントであるスイス時計がある一方、2008年から再びバーゼルワールドに出展しているカシオ計算機株式会社の時計事業部長、増田裕一氏は6年間のブランクについて、カシオのスタイルがバーゼルワールドにはそぐわないと考え、出展を控えていたという。

 「スイス時計業界は伝統を重んじるが、カシオは進化を重んじる」と語り、業界の不振の理由は、時計そのものに魅力がなくなってきていることだと指摘する。一方、世界が不況にあってもiPhoneの人気は高いことを挙げ
「時計を楽しいものにしたい。ユーザーの興味を時計に向けることで、時計業界全体を活性化していかなければならない。そのための提案を世界に発するためには、バーゼルワールドしかない」
 と語った。時計自体をしなくなっている昨今、競争は業界内というより、ほかの業種との戦いになっているのだ。

宝飾の注目度

 バーゼルワールドには宝飾業界も積極的に参加している。今年は、2008年に続き特にダイヤモンドが注目され、香港の「デーラーズ社 ( Dehres ) 」は「まれにみる大きさの純正なダイヤモンド」を展示した。200社以上のダイヤモンド関連企業のほか、宝飾関連の出展者は759と全体の約4割を占め、時計の30.9%を上回っている。

 日本貿易振興機構 ( ジェトロ ) は今年初めて、中小の宝飾関連企業10社をまとめナショナルブースに出展した。このうち7社は真珠を扱う企業だ。ブース前のホールには、無数の真珠を縫い込んだ打掛け ( 8キログラム ) が展示され人目を引く。ジェトロの海外見本市課長、安藤雅巳氏は
「日本の宝飾関連業界は、不況で国内市場には限りがある。これまでの香港市場から、今後はヨーロッパへという動きがある。時計で有名な見本市だが、宝飾も重視していることから、ぜひ出展したいという希望があった」
 と語った。

 世界から報道関係者、バイヤーが数多く集まるバーゼルワールドは3月18日、モリッツ・ロイエンベルガー交通担当相によって開幕し、25日まで開催されている。

バーゼルにて、佐藤夕美 ( さとうゆうみ ) 、swissinfo.ch

1917年、スイス見本市の中で、時計部門が展示され、その後時計部門が独立「スイス時計見本市」が1931年に始まった。1972年にヨーロッパ諸国からの参加が始まり、1995年には「Basel 95 – The World Watch, Clock and Jewelry Show」と名称を変更。「バーゼルワールド」となったのは、2003年から。
2010年の参加者数
時計部門 592社 30.9%
宝飾部門 759社 39.6%
関連部門 564社 29.5%
合計 1915社 (2009年は1952社 )
地域別
ヨーロッパ 1221社 63.8%
アジア 525社 27.4%
北アメリカ 89社 4.6%
その他 80社 4.2%
スイスの参加企業時計部門 292社
宝飾部門 40社
関連部門 124社 
合計 456社

2009年の時計輸出額
2009年の輸出額 123億フラン ( 約1兆500億フラン ) 前年比マイナス22.3%
輸出個数 2170万個と前年より440万個減少
2010年1月2月の時計輸出額
1月
9億758万フラン ( 前年同期比+2.7%)
腕時計 170万個 9億850万フラン( 同+19.5% ) 
輸出先
香港 +25.9%
アメリカ-34.4%
中国+87.2%
シンガポール +142.5%
2月
12億フラン ( 前年同期比+14.2% )
腕時計 180万個 11億450万フラン ( 同+15.6% )
輸出先
香港+17.1%
アメリカ+18.7%
中国49.5%
シンガポール+42.3%

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SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

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