スイスの視点を10言語で

住宅市場 土台は崩れず

高級不動産市場は過熱気味 Keystone

スイスの住宅不動産業界は、わずかに下降するものの2010年も安定を続け、スイス経済の強力な支えとしてのステータスを維持すると見込まれている。

この明るい見通しは、バブルがはじけて死滅状態にある国が多い中、もともと足場がしっかりしているスイスの住宅市場にとっては吉報だ。

堅強なスイスの不動産市場

 アメリカ、イギリス、スペインなどで住宅価格が暴落する傍ら、スイスの不動産市場は過去の4四半期の平均を上回る業績となった。不動産会社「ヴュスト・アンド・パートナー ( Wuest and Partner ) 」の計算によると、一戸建ての価格は2008年9月から2009年9月の間に6%上昇、賃貸マンションもやはり5%上昇している。

 世界的な景気後退の影響はもちろんスイスにも及んでいる。にもかかわらず、チューリヒ市とジュネーブ市の不動産価格の上昇率は著しい。世界中の不動産価格を暴落させた大混乱からスイスの不動産市場を守った要素はいくつかある。

慎重な姿勢

 第一に、スイスは1990年代の住宅市場崩壊から多くを学んだことが挙げられる。当時は、銀行のルーズな貸し付け政策が市場をオーバーヒートさせ、崩壊させた。このときの経験が、2年前にアメリカを不意打ちしたバブルからスイス市場を守った。

 スイス第2大手銀行「クレディ・スイス ( Credit Suisse ) 」の不動産専門家であるフレディ・ハーゼンマイレ氏は
「貸し手は今回とても慎重になり、ブームに沸いたときですら分別ある管理を忘れませんでした」
 と語る。

 また、スイスはこの間、記録的な数の移民を受け入れてきた。大半が近隣のヨーロッパ諸国出身の高収入層で、彼らが住宅の需要をつり上げ続けた。新たにスイスへ移り住んだ人の数は、2008年だけでも10万人以上に上った。

 そして最後に、1年前の利子は実質ゼロに近く、住宅ローンの需要がキープされたことが挙げられる。クレディ・スイスは、2009年9月の住宅ローンの借り入れ総計金額を前年同月比5.1%の増加と見積もっている。

 だが、この2カ月間で不景気や賃金凍結、失業などの影響がゆっくりと、しかし明白に住宅価格に現れ出した。ヴュスト・アンド・パートナーは、2010年の住宅価格はほとんど変動がなく、人気エリア外では多少下落する可能性もあるとみている。
「不動産価格は実体経済のあとをかなり遅れて追っています。追いつくのは12カ月先くらいでしょう」
 と分析するのは、ヴュスト・アンド・パートナーで広報を担当するウルス・ハウスマン氏だ。

別荘に打撃

 専門家の目は、移民率が高く、不動産価格が平均以上に上昇しているチューリヒとジュネーブに集まるだろう。特に高級不動産市場からは目が離せない。チューリヒ市では州に続き、2月に外国人の富裕居住者に対する税金の優遇措置の廃止を求める市民投票が行われる。ハンスマン氏は、たとえ優遇措置が廃止されることになっても市の不動産価格に影響は出ないとみている。
「この制度を利用している人はごくわずか。打撃を与えるには数が少なすぎます」

 しかし、チューリヒにある「スイスエクイティ・リアルエステイト・デイ ( Swiss Equity Real Estate Day ) 」社は2009年11月、イギリスとアメリカの顧客の反応が鈍くなったと報告しており、リゾート地に別荘を持ちたいと思っている外国の富裕層が減少しているという。ヴュスト・アンド・パートナーも、2008年から2009年にかけてヴェルビエ ( Verbier ) で10%、ツェルマット ( Zermatt ) で7%の減少を確認している。

衝撃は軽い

 2010年になって不動産価格がどの程度下落するかということについては、意見が分かれる。クレディ・スイスは、建築工事や建築計画が減速すると指摘する。スイスへ移住してくる人々の数も減少の傾向にあるが、相場を健康に保ち、需要をこれまで通り安定させるだけの流入はあるとみている。また、新規物件の空家率の上昇も予想しているが、最近の報告書では「価格の暴落はない」と査定している。

 ヴュスト・アンド・パートナーも不動産の暴落はないとみているが、2010年には新規物件が過剰供給になると懸念しており、最近の報告書で次のように発表している。
「集合住宅セクターでの建築にブレーキがかからない限り、大都市でも新築マンションの供給が過熱する」

 しかし、専門家はいずれも、2010年は多少下り坂にはなるが、スイスの住宅市場のしっかりした基盤が揺らぐことはないだろうという見方で一致している。

マシュー・アレン、swissinfo.ch
( 英語からの翻訳、小山千早 )

スイスの不動産市場は1990年代半ばの大暴落から立ち直った。当時、銀行は420億フラン ( 約3兆7000万円 ) の負担を強いられた。

新築住宅は2005年、過去10年で最高の4万7000軒に達した。2009年末までに約4万軒が新築される見込み。2010年は3%減少するとみられている。

これまでのところは新築住宅の需要と供給が一致しており、空室となっていた物件の数は2007年の1.07%から2008年には0.97%に下がった。

この先の2年間で需要はわずかに下がると予想されている。

しかし、スイスにはマイホーム所有者は少なく、持ち家率は1990年の31%から現在約37%に上昇したのみにとどまる。2010年には39%まで上昇するとクレディ・スイスは予想している。

2000年の各国の持ち家率は、スイスが34.6%、ドイツが45%、フランスが54%、イギリスとアメリカが69%、スペインが81%だった。

swissinfo.chの記者との意見交換は、こちらからアクセスしてください。

他のトピックを議論したい、あるいは記事の誤記に関しては、japanese@swissinfo.ch までご連絡ください。

SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部