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スイスのサステナブル・ファイナンスは世界をリードできるか

風力発電
「サステナブル・ファイナンス(持続可能な金融)」の普遍的な定義と、業界を監視するための仕組みが求められる Keystone / Guillaume Horcajuelo

スイスの金融業界はESG投資を開拓しているが、非政府組織(NGO)は銀行が地球を救うよりもお金に換えることの方に関心があると警戒する。必要なのは、「サステナブル・ファイナンス(持続可能な金融)」の普遍的な定義と、業界を監視するための仕組みだ。

サステナブル・ファイナンスは国連の持続可能な開発目標(SDGs)や気候変動に関するパリ協定外部リンクに盛り込まれた環境、社会、ガバナンス(企業統治)の目標に沿った投資だ。その目的は世界の貧困、不平等、紛争、環境悪化の根絶を支えることにある。

スイス銀行協会(SBA)はサステナブル・ファイナンスを成長分野として「最優先事項」に位置付ける。「スイスの金融業界はサステナブル・ファイナンスの先駆者であり、この分野で最も優れた国際ハブになる」と強調する。

これを裏付ける統計もある。業界団体スイス・サステナブル・ファイナンスが先月発表した報告書外部リンクによると、サステナブル投資はこの10年で406億フランから1兆1600億フランに成長。2019年だけでも62%伸びた。

一方でスイス国立銀行(中央銀行、SNB)や金融業界は、環境的・社会的に悪影響のあるプロジェクトに投資したとしてNGOから繰り返し非難を受けている。環境団体の「スイス気候連盟」と「Artisans de la Transition」が4月に発表した報告書外部リンクは特に辛らつだ。

「希望的観測」

報告書では、SNBは他の中銀と比べ、気候変動のリスク評価において「非常に弱い位置にいる」と批判した。化石燃料への投資を通じて、SNBが年4330万トンの二酸化炭素(CO2)排出に加担しており、この数字は近年ほとんど減っていないという。

スイス気候連盟のイヴァン・メイラード・アルデンティ氏は、swissinfo.chに「SNBは金融業界全体のロールモデルだ。だがサステナブル志向に切り替えられず、業界を誘導できずにいる」と語った。

報告書はクレディ・スイスやUBSも責任があると指摘する。積極的にサステナブル・ファイナンスを宣言しているが、これまで長年にわたり化石燃料プロジェクトに投資してきた歴史があるとする。またスイスの年金基金トップ60団体のうち約4分の3は気候変動に関する方針を立てていないことも明かした。

金融業界が打ち出す宣言と、それに対する圧力団体の受け止め方には食い違いがある。NGOが唱える不満は2つ。第一に、一部の銀行がサステナブル投資につぎ込むお金と少なくとも同じ額が環境汚染投資や反社会的投資にも投じられている。第二に、銀行が販売するサステナブルファンドの一部は、その名前を関していることで手数料が上乗せされるだけの投資内容だ。

メイラード・アルデンティ氏は、武器製造に投資しないファンドを立ち上げるだけでは不十分だと指摘する。「いくつかの小銀行を除けば、スイスでサステナブル・ファイナンスが急成長するというのは今のところ希望的観測に過ぎない」

グローバルな課題

スイス政府はサステナブル・ファイナンスが経済成長やレピュテーションリスク(評判を落とす危険)の回避に資すると認識している。財務省が先月発表した報告書外部リンクでは、いくつかの分野で前進がみられると分析した。投資家により明確な情報が提供され、化石燃料への投資など持続不能な活動のリスクをより深く査定するようになったという。

財務省は声明で「世界的な課題を考慮して、スイスの金融業界の利益と国際的な競争力を守り、さらに拡大するためのさらなる努力が必要だ」と強調した。

政府は同時に、銀行が独自に業界の基準を作成できるハンズオフ規制を採用した。基準作成に当たっては世界的なベストプラクティスに沿っている必要がある。

スイスの金融規制当局は、基準が「投資商品では例えば『グリーン』資産をうたって誇張や誤解を招く表現に騙されないよう、消費者を保護する」のに資すると考える。

また「透明性と市場規律を改善するため、主な金融機関が環境リスクの開示方法を改善する」ことを求める。つまり銀行は持続不能なプロジェクトへの投資によって生じる経済的・評判的損害のリスクを適切に計算する必要がある。

尾を引く批判

だがグリーンピース・スイス支部は、政府がサステナブル・ファイナンスに関して明確で拘束力のあるルールを決める機会を逸したと指摘。政府が自主規制を望む銀行の言葉をうのみにし、業界は独自にルールを決めたうえで、後からルールを有利に変えるという常とう手段だとする。

国際会計事務所KPMGは最近のレポートで、投資家に確実性をもたらす唯一の方法は、国際的に認められたサステナブル・ファイナンスのベンチマークや基準を確立することだと指摘した。「拘束力のある統一された基準はまだない。そのために金融機関で生じる問題への対処が場当たり的になり、投資家にとっての透明性がなくなる」

報告書は、一部の銀行は内部でも銀行の発する戦略的メッセージに混乱しているようだ、と指摘する。これにより、特にソーシャルメディアで懸念を発信したがる新世代の投資家の間で、深刻なレピュテーションリスクが生じる可能性がある。

KPMGは、スイス当局には法的拘束力のある基準を設定する意欲があまりなく、問題を解決するのは欧州連合(EU)など国際機関になる、と結論付ける。

(英語からの翻訳・ムートゥ朋子)

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