世界トップの成功を味わうスイスの香料メーカー

香りや風味が造り出される場所。チューリヒ州デューベンドルフにあるジボダンの研究室 Keystone

世界の2大香料メーカー、スイスのジボダン(Givaudan)とフィルメニッヒ(Firmenich)のマーケットシェアは、全世界の3割から4割を占めると推計される。両社の成功の秘密はどこにあるのだろうか?

このコンテンツは 2012/06/06 11:00
ソフィー・ドゥーズ

ジボダンとフィルメニッヒの両社は、私たちが食べる食品の風味(食品香料)、香水やオーデコロンの芳香、洗剤の香りなど(香粧品香料)を製造している。両社はともに1895年、チューリヒとジュネーブにそれぞれ設立された。

不景気知らず

しかし両社の共通点はこれだけだ。一連の買収で成長したジボダンは株式を公開している上場企業だが、一方のフィルメニッヒは自社の事業拡大で成長した株式非公開のオーナー企業だ。

昨年はスイスフラン高にもかかわらず、ジボダンは39億フラン(約3155億5700万円)、フィルメニッヒは27.8億フラン(約2249億3600万円)の売上高を計上した。

チューリヒ州ヴィンタートゥール(Winterthur)のコンサルタント会社モンブラン・ビューティー・コンセプツ(Mont Blanc Beauty Concepts)で香料業界のコンサルタントを長年務めるマルク・ロスティ氏によると、「両社とも多額の予算を研究開発に充てている」。同氏はさらに「両社はノーベル賞受賞者を雇い入れ、精力的な研究を成長の基盤にしてきた。この点が両社のスイスネス、つまりスイスらしさであり強みだ」と評価する。

ジボダンの投資家向け広報部の責任者ペーター・ヴルシュレガー氏は「人間は食べる、飲む、体を洗う、そして掃除をする。それらの活動の8割が当社のビジネスだ。景況に左右されるのは高級香料の製造部門だけだ。つまり、不景気が大きな問題になったことはない」

研究開発

昨年ジボダンは売上高の7.5%に当たる2億9400万フラン(約237億8800万円)を研究開発に投入した。一方フィルメニッヒは正確な数字を公開していないが、売上高の1割を研究開発に充てている。ジボダンはチューリヒ郊外のデューベンドルフ(Dübendorf)に、フィルメニッヒはジュネーブに研究所を構え、主要な研究開発をスイス国内で行っている。

香料メーカーのルジィ社(Luzi)で安全管理責任者を務め、スイス香料業界協会の会長でもあるコルネリウス・ヌスボウメール氏によると、スイスの企業が新しい香料の開発で優位性を維持できるのは、香料業界が連邦工科大学チューリヒ校(ETHZ/EPFZ)のような学究機関と連携し、「新しい香りの分子構造の解明と合成」に力を入れているためだ。

カルバン・クラインの「カルバンクライン シーケー ワン/CALVIN KLEIN CK1」やケンゾーの「フラワー・バイ・ケンゾー(FLOWER BY KENZO)」などデザイナーフレグランスのヒット商品を調香したフィルメニッヒのアルベルト・モリラ氏は「原料が最高の天然抽出物であれ、非常に独創的な分子の合成物であれ、重要なのはその品質だ」と語り、それらの原料の中には、企業秘密の物質もあると明かす。

ジボダンとフィルメニッヒの主要事業は大きく二つに分けられる。まず両社は食品や化粧品などのメーカーに対し、製品製造の原材料としての香料分子を製造販売している。さらに、両社は香料の製造を芸術の域に押し上げ、特定の顧客から特別注文を受けた香料製品の開発も行っている。

コンサルタントのロスティ氏は、フィルメニッヒが開発した化合物のアロマ「ヘディオン(hedione)」を例に挙げる。これはフィルメニッヒが香りのさわやかさを高めるために開発したもので、コティ(Coty Inc.)の委託でフィルメニッヒが開発したカルバンクライン シーケー ワンにも含まれている。

「ヘディオンは単独では香らないが、シトラス系の香料と合わせるとフレッシュな香りを高めることができるため、数多くの香料に使われている。カルバンクライン シーケー ワンにはこの成分がたっぷり含まれている。フィルメニッヒはこの特許権を所要しているため、これで大成功した」

しかしロスティ氏は一方で、両社とも食品香料部門と化粧品などに使用される香粧品香料の部門を分けているため、チャンスを逃しているとも指摘する。

「この二つの部門の間には連携が存在しないが、境界線があいまいな領域もあり、フレーバリスト(食品用香料の調香師)とパフューマー(香水の調香師)が協力すれば、これまでなかったような新しい香料を作り出すことができる。だが現在のところこのような新しい動きはない。自然化粧品などのビジネスは、大手企業にとってあまりにも小さな隙間分野なのかもしれない」

緊密に結びついた香料業界

研究開発は重要だが、ジボダンとフィルメニッヒにとっては懸案事項の一つに過ぎない。これまで両社は世界的な企業になることに力を注いできた。ジボダンは45カ国に、フィルメニッヒは64カ国に支社を設立している。

「実のところ香料メーカー各社は競合相手であると同時に互いの顧客でもあるというのが香料業界の現状だ。各メーカーが独自の得意分野を持っているため、同業他社が緊密に結びついた業界となっている」とロスティ氏は語る。

さらにロスティ氏は「世界的に展開している香料メーカーでなければプロクター&ギャンブル(Procter & Gamble)、ユニリーバ(Unilever)、ネスレ(Nestlé)、ダノン(Danone)など大企業の取引先にはなれない。大手香料メーカーは、主な市場のすべてに開発と製造の拠点を持ち、販売とマーケティングのスタッフを揃えている」と語る。

またジボダンの広報責任者ヴルシュレガー氏は自社について、顧客である大手多国籍企業との「ネットワークが非常に発達した」企業と説明する。また、ジボダンがそれらの顧客とともに新興市場でベンチャー企業への投資を通して、国際的なネットワークを拡大してきたと語る。

「ジボダンは、新興市場に進出した顧客の多国籍企業とともに国際的なビジネスの環境を築き上げてきた。ネスレは中国市場へ、プロクター&ギャンブルはラテンアメリカへの進出を望んでいた。風味や香りに対する嗜好はその土地に特有なものであるため、我が社はそれらの多国籍企業とともに現地へ進出した。例えば、中国の消費者向けにインスタントの粉末緑茶をスイスで作ることはできない。これは中国でやる必要がある」

スイスフランと芳香

ロスティ氏は、ジボダンが昨年製造工場をチューリヒ郊外からハンガリーに移転したのは、スイスフラン高に伴うコストの上昇が原因だと指摘する。しかしジボダンのヴルシュレガー氏は、これは同社が東ヨーロッパ市場に参入するために、老朽化した工場を閉鎖し、新しい工場を建設するという戦略に従った結果だと説明する。

その一方で、ヴルシュレガー氏はまた、スイスに新しい工場を建設するのは「コストが高すぎるうえ、戦略的に適切な場所ではない。製造は他所でもやれる」ことも認める。

「スイスフラン高の問題を軽視することはできない。スイスフランでみると大きな損失が出ているのは明らかだが、これは単なる会計上の見方の問題だ。スイス国内における生産量は非常に少ないため、取引上では問題ない」とヴルシュレガー氏は説明する。

「ジボダンの生産拠点は世界中にある。そのため世界全体で見れば、費用と収益は互いに作用しあっており、利益に影響が出ることはない。つまり、スイスフラン高によって我が社の競争力が損われることはない」

ジボダン(Givaudan)

1895年ジュネーブに設立。

2011年の総売上高:39億フラン(約3155億5700万円)

2011年の香粧品香料売上高合計:18.3億フラン(約1400億6900万円)

2011年の食品香料売上高合計:20.8億フラン(約1682億9700万円円)

地域別販売比率:ヨーロッパ、アフリカ、中東:40%、アジア太平洋:26%、北米:22%、中南米12%。

社員総数8913人:スイス17%、スイスを除くヨーロッパ、アフリカ、中東:29%、北米21%、アジア太平洋:21%、中南米12%。

海外拠点82:45カ国に支店、香粧品香料開発センター27カ所、食品香料開発センター36カ所、製造工場33カ所

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フィルメニッヒ(Firmenich)

1895年ジュネーブに設立

2011年総売上高(年度末は6月):27.8億フラン(約2249億3600万円)

世界市場占有率:14%

社員総数:約6000人

海外拠点:64カ国、支店数45、製造工場数26

研究開発センター数:3(ジュネーブ、プリンストン、上海)

有効専売特許数:約1850

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2011年の売上額別香粧品香料と食品香料メーカー上位10社

ジボダン(Givaudan SA)、スイス:39億フラン(約3155億5700万円)

フィルメニッヒ(Firmenich SA)、スイス:27.8億フラン(約2249億3600万円)

IFF(International Flavors & Fragrances Inc.)、アメリカ:27.8億ドル(約2172億1800万円)

シムライズ(Symrise AG)、ドイツ:15.8億ユーロ(約1535億3000万円)

高砂香料工業株式会社、日本:1130億円

ヴェ・マン・フィス香料(V. Mane Fils SA)、フランス:5億7000万ユーロ(約553億8700万円)

センシエント・テクノロジー(Sensient Technologies Corp)、アメリカ:6億197万ドル(約484億2100万円)

長谷川香料株式会社、日本:440億円

フルタロム(Frutarom Ltd.)、アメリカ:5億184億ドル(約405億1000万円)

ロベルトSA(Robertet SA)、フランス:3億733億ユーロ(約362億7200万円)

(出典:レフィングウェル&アソシエイツ/Leffingwell& Associates)

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