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金融バブルの定説を覆す実験

学問の世界の一般的な経済理論によると、バブル経済は手遅れになるまで特定できない Reuters

スイスの研究チームが金融バブルを予測する方法を発見したと発表した。しかし、経済の過熱と破綻を引き起こす原動力はまだ解明されていない。

このコンテンツは 2010/05/13 15:30

連邦工科大学チューリヒ校 ( ETHZ ) の「金融危機研究所 ( FCO ) 」所長ディディエ・ソルネット氏は、最近の世界的な金融危機の結果、今回の発見が大きな意味を持ち得ると語る。

予測可能

地震から株式市場の暴落まで異種の危機の予測を長年研究してきたソルネット氏は、今回の研究結果はパラダイム ( 理論的枠組み ) が変化するきっかけになる可能性が高いと言う。
「金融危機は予測不可能なため、誰かが非難されるものではないと考えられてきました。多くの人々がこの定説で納得してきましたが、わたしたちの理論が正しければ、経済の教科書を書き直さなければなりません」

ソルネット氏のチームの研究プロジェクト「金融バブル実験」の結果は、プロジェクトの開始から半年後にメディアに発表された。

一般的に金融バブルは、製品・資産の売買価格の暴騰と定義されている。そして価格の暴騰が起きている最中は、それを金融バブルだと識別することができない。しかし研究チームは、金融バブルが崩壊する前にそれと識別することは可能であり、その崩壊の時期も予測することができるという仮説を研究してきた。

その後の予測

ソルネット氏は、金融バブルが発生していることを示す兆候の主なものとして、経済成長の著しい速度、楽観的な投資家による「前向きな反応」、そしてその結果生じる価格の暴騰を挙げている。

ソルネット氏の研究では、まずブラジルのボベスパ指数、メリルリンチの債券指数、金のスポット価格、綿花の先物取引価格など、プロジェクト開始から6カ月以内に金融バブルの発生が現れると予想される4種類の指標が選ばれた。そして景気の急拡大の後に、景気減退または不況 ( あるいはその逆 ) が起こる「景気の状態 ( レジーム ) の交替」が、それらの4種類の指標に表れる時期を予測した。

研究チームは、景気の状態の交替が起きると予測をした期間内または予測期間の少し前に、4種類の指標に景気の状態の交替が明らかに現れたことを発見した。ソルネット氏は、これによって金融市場の原動力には識別可能な構造が存在することが証明されたと述べ、金融バブルの成長中にそれが金融バブルかどうかを判断できると発表した。

またソルネット氏は、予測の精度にはいくらか差が出るものの、金融バブルが崩壊する時期も予測可能だと言う。しかし同氏は
「金融バブルが起きている間にそれを判断することが出来るなら、そして金融バブルに対処するつもりならば、最終的な終了時期がいつになるのかを知ることはあまり重要ではありません」
と付け加えた。来週研究チームは、金融バブルの発生予想7件を発表する予定だ。現在金融バブルの識別法を改良するための追加テストが行われている。

一方、アメリカの前連邦準備制度理事会 ( FRB ) 議長アラン・グリーンスパン氏は、経済バブルの存在は崩壊して初めて分かると2002年に発言している。こうした従来の説を唱える経済学派は、経済・金融バブルのメカニズムを研究するのではなく、その影響、損害、デフレ政策を実施できるか、または実施すべきかについて議論を続けている。

誇張した主張?

バーゼル大学で経済学を教えるシルビオ・ボルナール氏は
「ソルネット氏は非常に良い点に着目しています。特に、すべては全く無作為に起きるという従来の定説の欠点を突いています。( 最近の金融 ) 危機とそれについての経済理論の破綻は、そうした理論や見方が適切でないことを証明しています」
と語る。しかしソルネット氏の実験結果の解釈は行き過ぎだと批評する。
「一方、ソルネット氏の主張は非常に大胆で、慎重性に欠けています。教科書を書き直すべきだというのは少々行きすぎです」

ボルナール氏は、重要なのは景気の状態の交替がいつ起きるのかを正確に判定することだと言う。
「もし金融バブルが起きていることを知っていても、金融商品を売却して市場から撤退するのが早すぎた場合、全てを失うこともあります。金融バブルを正確に予測することができるならば、大学教授にならずに世界一の金持ちになることを勧めます」

困難な戦い

ソルネット氏が自説をテストしたのはこれが初めてではない。1999年に日経インデックスは年末までに回復すると予測し、正しいことが証明された。しかし2002年に発表した2003年から2004年のアメリカ株式市場の傾向予測は外れた。

ソルネット氏は、金融産業や予測に関する多種の研究についての著書を出版している。1992年からは金融市場の変動に焦点を当て、それについての実験証拠の開発を推進してきた。チューリヒの金融危機研究所では、科学的な手法を用いて金融市場の予測可能性をテストしている。

「問題は、一般的なアプローチが事実や科学に基づいておらず、従来の経済論に基づいたものになっている点です。つまり、実際にそれがどういうものであるかということよりも、どうあるべきかという点だけに関心を持っていることが問題なのです。一方わたしたちの研究は、金融バブルに内在するメカニズムを明らかにしようとしているのです」
とソルネット氏は根本的な問題点を指摘し
「従来の経済学的なアプローチを捨てるべきだと言っているのではありません。それは非常に面白いのです。しかし、幅が狭すぎるのです」
と語った。

ジェシカ・ダシー 、swissinfo.ch、
( 英語からの翻訳、笠原浩美 )

歴史的なバブル経済とその崩壊

1636~1637年:チューリップ・バブル ( オランダ )
1719年:ミシシッピ・バブル ( フランス )
1719~1720年:南海バブル ( イギリス )
1840年代:鉄道バブル( イギリス )
1920年代:株式市場バブル ( アメリカ )
1995~2000年:ドット・コム・バブル ( アメリカ )
2004~2008 年:石油・原油バブル

住宅・不動産バブル
日本 ( 1980年代後半 ) 、イギリス ( 2006年) 、アメリカ( 2003~2006年 ) 、中国 ( 2007~2008年 )

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ディディエ・ソルネット 氏 ( Didier Sornette ) 略歴

生物細胞膜・界面のモデルに対する統計物理学的アプローチの研究で博士号取得 ( 1979~1985年 ) 。
科学者としてフランスで軍務に就き、音響・カオス・流体力学乱流の研究を行う。
フランス国立科学研究センターの研究部長を務め、量子カオス、自己組織臨界性、自己組織性についての研究を行う。
金融オプション価格付け・ヘッジ取引に対する機能統合化についての画期的な論文を共著出版 ( 1994年 ) 。
現在の職責は、スイス連邦工科大学の金融学教授 ( 企業家リスクを教授 ) 、「社会経済システムにおける危機対応のための対策センター ( The Competence Center for Coping with Crises in Socio-Economic Systems ) 」の共同設立者、物理学部の物理学教授、地球科学部の地球物理学教授。

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