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COPでなければ温暖化問題は解決しない

国連の気候会議は巨大イベントだ。2007年インドネシアで行われたバリ会議(写真)には約1万人が集まった。今回のダーバン会議には約1万5000人が参加予定 Keystone

温暖化防止対策を取り決める国際会議「国連気候変動枠組み条約第17回締約国会議(COP17)」が11月28日から2週間、南アのダーバン(Durban)で開催されている。

国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP)は例年約1万人が参加する大規模な国際会議だ。しかし、今まで効果的な温暖化対策が取られたためしがないと感じる人は少なくないだろう。

 だが、スイス代表団のフランツ・ペレ団長はCOPでなければ温暖化は止められないと主張する。ただ、参加者は今後減らすべきだと考えている。

 毎年開かれるCOPだが、特に前回2010年のカンクン会議や2009年のコペンハーゲン会議ではほとんど進展が見られなかったと批判の声が上がっている。経費は膨大に掛かる上、議論は長いだけで先が見えない。飛行機でやってくる参加者は数万飛行時間分もの二酸化炭素(CO2)を排出する。こんな大規模な国際会議を行う意義は一体どこにあるのだろうか?

 「本来、あれほど大勢の人が会議に出席する必要はない」。今回のダーバン会議でスイス代表団団長を務め、連邦環境省環境局(BAFU/OFEV)の国際課で環境大使の任務に就くペレ氏は言う。スイス代表団は約20人で構成されており、規模としては小さい。代表団のトップに立つのはドリス・ロイタルド環境相だ。

 ペレ氏によると、会議の参加者のうち交渉の場に出席するのはほんの一握りだ。大半の参加者はNGOなどのメンバーで、会議で取り決められる枠組みに対し批判を行う。「しかし、(民間団体が参加することで)会議の参加者が増えれば、世間の注目を集める。そうなれば、気候問題の解決を求める政治的圧力も強まる」

消耗戦は交渉戦略

 COPには本会議に向けた準備会合が年5回ほど開かれており、今回のダーバン会議も例外ではない。ところで、Eメールなど電子媒体を駆使すれば、この準備会合だけでも環境にやさしい交渉ができたのではないだろうか。交渉がEメールなどで済めば飛行機を使う必要はなく、余計なCO2を排出しなくて済む。

 「我々にとって電子媒体は『使うか、使わないか』ではない。いつもできるだけテレビ会議や電話会議を行っているし、見解を書面でまとめるときはEメールを使っている」。ペレ氏は一方で、電子媒体でのやりとりがうまくいくのは共通の土台を持った少人数グループだけだとも付け加える。

 ペレ氏と同じ意見なのは、世界自然保護基金(WWF)スイス支部で気候・エネルギー部門の部長を務め、スイス代表団のメンバーでもあるパトリック・ホーフシュテッター氏だ。同氏は、約60の団体から成る「責任ある気候政策のための同盟(Allianz für eine verantwortungsvolle Klimapolitik)」やその他のスイスの環境団体を代表してダーバン会議に臨む。

 ホーフシュテッター氏は言う。「新しい情報媒体は情報を交換したり広めたりするのには有効だが、交渉には向いていない」。相手が疲れるまで議論を引っ張り、譲歩させる戦略が交渉には有効だったが、電子媒体ではそのような戦略は使い物にならないという。

グローバルに交渉するしかない

 これまでCOPは15回以上開催された。しかしCO2排出量は増え続け、気温も上昇している。だがペレ氏は、それでもなおCOPの信頼と必要性は変わらないと力説する。「温暖化対策で前進するには、この気候会議が唯一の道だ。温室効果ガスを減らすための体制を整えたとしても、世界各国が参加する形でなければ機能しないからだ」

 ただ、はたから見ればこの会議のプロセスは分かりにくいかもしれないと、ペレ氏は認めてもいる。

京都議定書には成功も

 こうしたなか、これまで各国が歩んできた道のりは間違っていなかったとペレ氏は主張する。「京都議定書の枠組みがあるから、スイスを含む欧州各国で気候を守る取り組みが行われてきた。全体的にみれば、京都議定書で掲げられた目標は基本的に達成されている」

 「京都体制」が成し遂げたことはほかにもある。コペンハーゲン会議やカンクン会議以降、中国などさまざまな国が自主的に温室効果ガス削減対策に取り組み始めたことだ。

 これにはWWFスイス支部のホーフシュテッター氏も同意する。「温室効果ガス削減に賛同した40カ国から50カ国の国々では、実際、(削減達成のための)法改正が行われている。とにかく何らかの動きはあるということだ」

 スイス代表団はダーバン会議で、各国が発表する削減量を測定する際、厳しく審査すべきとの提案を行う予定だ。

世界通貨として苦しいスタートを切ったCO2

 ペレ氏は、国際的な気候保護がなかなか進展しない理由として、パラダイムシフトが達成されていない点を挙げる。「第1段階として、先進諸国がまず先頭を切った。次の第2段階に行くにはアメリカや新興国を含むほかのすべての国が排出量削減義務を負う必要がある」。もしこうした国々が削減義務を負ってもいいという方向に交渉が進めば万々歳だと、ペレ氏は言う。

 一方ホーフシュテッター氏は、問題は人が排出する温室効果ガスで最も重要なCO2排出権が新しい世界通貨になるかという点だと指摘する。CO2排出権の世界的取引きが始まったのは京都議定書が採択された約15年前からだが、この取引きは非常に複雑だ。

 ホーフシュテッター氏は語る。「どこからCO2が排出されているのか、194カ国すべがが把握していないといけないし、どうすれば排出を防げるのか分かっていないといけない。また、CO2は自分たちで減らせるものだし、減らしたいものだと各国が認識しなければならない。そのためには非常に高度なコミュニケーション能力が必要だ」

 こうしたことから、COPは「能力形成(Capacity building)」と呼ばれるような知識の場、参加者の決定力を高める場として利用されるべきだとホーフシュテッター氏は提唱する。ただ、COPがこのような能力形成の場として最適かどうか、時折り疑問に思うことはあると言う。「だが冷静に考えてみても、温暖化問題を多くの人に呼び掛けるには、やはりこうした演出は必要だと思う」

 ペレ氏は、たとえダーバンでポスト京都議定書が採択されなくとも世界は破滅しないと考える。「大事なのは、目標を今よりも高く、対策も強化した決議だ。その決議の名前がポスト京都議定書かそうでないかは重要ではない」

世界気象機関(WMO)によると、2010年の温室効果ガス排出量は過去最多を記録。

さらに、多くの国が有害物質削減の努力を行っているものの、排出量の増加は加速している。

大気中の二酸化炭素(CO2)濃度は2010年で389ppm(39%)だが、1750年の産業革命以前は平均280ppmだった。

また、メタン(CH4)と亜酸化窒素(N2O)も過去最高を記録した。

ダーバン会議では、2050年までに気温上昇を1850年比で最高2度に抑えるとした目標に向け議論が行われている。

だが、WMOは最近の傾向から今世紀末までに世界の平均気温は3度から6度上昇すると予測。

理由として化石燃料の消費が続いたり、世界規模で森林面積が縮小していること、また化学肥料が使用されていることを挙げている。

国連機関の一部「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」が最近発表した研究によると、熱波や干ばつが増加している理由のほぼ100%は人間に起因するという。

人間が原因となって豪雨、洪水、地滑りが発生する確率は66~100%。

2011年の国連気候変動枠組み条約第17回締約国会議(COP17)は11月28日から12月9日まで南アのダーバンで開催されている。

国連気候変動枠組み条約は1992年に採択、1994年に発効。現在194カ国および欧州連合(EU)が締結している。

京都議定書(2005年発効)が1997年に採択されて以降、今回の国連会議は7回目。

会議では温暖化防止に関するさまざまな決定が下され、決議が採択される。ここで決められた対策はその後各国が実行に移す。

(独語からの翻訳・編集、鹿島田芙美)

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