フランス人銀行家のアルベール・カーン(1860~1940年)はユダヤ人で慈善家、また平和主義者でユートピアンでもあった。今からちょうど100年前、第1次世界大戦が始まる少し前に、カーンは写真家を雇って世界のあらゆる場所へと派遣し、そこに住む人々や風景、モニュメントなどを記録させた。それらの貴重な写真が今回、スイスで初めて展示される。
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カーンは写真家の派遣という壮大なプロジェクトを通じて、世界の平和に貢献したいと考えていた。哲学者でノーベル文学賞受賞者のアンリ・ルイ・ベルクソンの思想に影響を受け、世界の文化を知ることが人々の平和共存につながると信じ、相手を理解し敬う人間が、戦争を起こすことはないと考えたのだ。
写真家たちはヨーロッパ、アジア、アフリカ、そしてアメリカを旅して回り、当時では最先端技術だったカラーで撮影した。旅する写真家たちに与えられた課題は、いろいろな地域の日常風景や、その土地特有の服装や制服に身を包んだ人々の姿、そして街並みや有名なモニュメントを写真に捉えることだった。
オートクローム方式でガラス乾板に写された7万2千点の写真は長い間忘れ去られていたものの、今日ではドキュメント写真の歴史を刻む貴重なものとして高く評価されている。
写真展「Welt in Farbe. Farbfotografie vor 1915(色づいた世界 1915年以前のカラー写真)」はチューリヒのリートベルク美術館外部リンクで2015年9月27日まで開催。
(写真・Musée Albert Kahn、Boulogne-Billancourt、Paris 文・Andreas Keiser、swissinfo.ch)
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戦争のない戦争
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スイス人写真家マインラッド・シャーデさんは、戦争の前後に争いのあった場所周辺へと向かい、その傷跡を記録した。新しく出版された写真集「Krieg ohne Krieg(戦争のない戦争)」の作品は現在、ヴィンタートゥールにあるスイス写真基金の展覧会でも公開中だ。
戦争は土地に爪痕を残し、人々の心に傷を残し、その傷は後世に語り継がれていく。その記憶の多くはあいまいだが、そこにシャーデさんが探し求めるものがある。戦地へ行かない戦争写真家。シャーデさんは自身をそう名乗る。
2003年からシャーデさんはソビエト崩壊後に独立した国々の、戦争と平和の間で揺れるもろく壊れやすい日常生活を記録し続けた。チェチェン共和国の破壊された建物、イングーシ共和国で暮らす故郷を追われた人々、カザフスタンの核実験がもたらした被害、そしてナゴルノ・カラバフでの境界線をめぐる対立や、ロシアとウクライナでの追悼式やパレードを写真に収めた。
少なくとも最後の2作品を鑑賞する頃には、この写真集のテーマが現在でも重要性を帯びているとわかる。人物、道路、風景の写真は「対」になっていたり、連続して並べられたりしている。そうすることで未解決の争いがもたらす影響がはっきりと浮き上がる。
シャーデさんは、「もう写真が大きな影響力を持っているとは思っていない。だが、ずいぶん前に終わったと言われていても、そこにはまだ戦争の影響があり続けていること。またいかにして、人々がすぐに再び戦争状態に陥ってしまえるかということ。これらのことを、私の写真を見た人々が気づいてくれれば、それで十分だ」とインタビューに答えている。
(写真・Meinrad Schade 文・Thomas Kern、swissinfo.ch)
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