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スイスにはシリアの大統領の隠し資産は無い?

テレスクラフ氏はアサド大統領と不正資産の直接的なつながりを証明するのは困難だと言う。 Keystone

バーゼル統治研究所の金融犯罪専門家ダニエル・テレスクラフ氏は、シリアのバッシャール・アル・アサド大統領がスイスの銀行に資産を隠匿しているかどうかは非常に疑わしいと言う。

5月24日、欧州連合 ( EU ) とアメリカに続き、スイスはシリアに対し、スイスへの渡航禁止やアサド大統領と政府高官9人の資産凍結など制裁を強化すると発表した。

 スイスにとってシリアの資産凍結は今年5番目のケースになる。スイス政府は今年1月に、チュニジアの独裁者ジン・アル・アビディン・ベンアリ前大統領とその一族の隠し資産約6000万フラン ( 約57億円 ) を凍結した。

 また、エジプトのホスニー・ムバラク前大統領とその側近の資産約4億フラン ( 約380億円 ) 、リビアのムアンマル・ガダフィ大佐とその一族の資産約3億6000万フラン ( 約340億円 ) の存在を突き止めた。また、コートジボワールのローラン・バグボ前大統領とその側近の資産約7000億フラン ( 約67億円 ) も凍結済みだ。

 バーゼル統治研究所 ( Basel Institute on Governance ) の事務局長テレスクラフ氏は、このほどスイス政府代表団のエジプトとチュニジア訪問に随行し、スイスの銀行に預託されている不正資金の返還についての話し合いに独立したオブザーバーとして参加した。

swissinfo.ch : アサド大統領とその一族は不正資産をスイスの銀行に隠しているのでしょうか。

テレスクラフ : 彼が資産をスイスに預けているとしたら驚きだ。そういう印象はほとんどない。

隠し資産の額については全く見当がつかない。アサド大統領と隠し資産の直接的なつながりが見つかったらこれも驚くべきことだ。彼の ( 資産の流れを ) 追跡調査しても痕跡が見つからないのはよく知られている。

さらにアメリカ政府は過去にシリアの銀行に制裁を加えた上、おそらく以前にシリア人の顧客に対する調査を強化している。スイスの銀行はこの事実を考慮したに違いない。

swissinfo.ch : チュニジアとエジプトの新政権は、凍結された資産の返還手続きを始めるようスイスに求めましたが、請求内容が不完全だという理由で拒否されました。これらの不正資産はいつ返還されるのでしょうか。

テレスクラフ : それら両国から初めて要請が来たのはごく初期の段階だ。資産追及に対する意欲を示す強い政治的なシグナルだった。もちろんそうした初期段階での要請は不完全であり、このような結果になって当然だ。しかしその要請を正式に拒否したわけでもない。

その後スイスは両国と連絡を取り、ほかの情報が必要であることを通知した。両国ともそれらの情報提供に向けて準備しているはずだ。これは通常の手続きだ。

しかし一旦不正資産の所有者が確認され、口座が凍結されても、書類を整えて資産を押収する前に、口座の所有者が告訴する可能性もある。所有者はそれを合法的に得た資産だと主張するだろう。 ( シリア ) 本国には ( 基本的な法概念としての ) 適正な法手続きは存在せず、 ( 国民の ) 人権は侵害されている。彼らはあらゆる反論をするだろう。従って現実的には、それらの資産が返還されるまで数年はかかることになる。

swissinfo.ch : スイスでは独裁者の不正資産を返還する新しい法律が2月に成立しました。法の抜け穴はすべて閉じられたのでしょうか。

テレスクラフ : 新法の究極的な目的は、ハイチのベベ・ドクことジャン・クロード・デュバリエ元大統領が関与する約600万フラン ( 約5億7千万円 )の資産問題を解決し、ハイチへ返還することだ。新法の下でこれは十分可能なはずだ。

しかしこの新法によって、不正資産の捜索と回収が被害者である当事国にとって容易になるわけではない。これはスイスだけでなく、ほかの主要な金融中心地や途上国にとっても依然として重要な問題だ。

swissinfo.ch : しかしスイス当局は、資産捜索の大成功は世界で最も厳しいスイスの顧客規制によるものだと主張しています。

テレスクラフ : この仕事に就いて以来これまで約10カ国と仕事をしてきたが、それぞれが自国の規制が最も厳しいと主張している。

スイスのシステムは適正だが、世界最高ではないと思う。さらに、犯罪者の資産隠匿技術がより巧妙になってきたため、 ( 銀行が ) システムを常に改善しているかどうか調べなければならない。

swissinfo.ch : 確かに、厳しい規制にもかかわらず、ベンアリ、ムバラク、カダフィ、その他の独裁者が巨額の資産を隠匿してきました。

テレスクラフ : 独裁者は資産の出所を隠すために必要なあらゆるサポートや専門家のアドバイスを受けている。従ってスイスでは今後も将来スイスで不正資産が見つかると想定する方が現実的だ。しかし、資産が発見され返還されたという事実は、実際システムが機能しているというポジティブなサインだ。

スイス金融市場監督局  ( Finma ) が捜査を開始し、銀行が現行の規制を実施しているかどうか個々のケースを調査しているのは非常に良い決断だと思う。

もし多くの銀行が規制に従っていないことが明らかになったら、われわれは規制が適正に施行されてきたかどうかを調べる必要がある。これまでの数年間、監督局がこの問題に注目することはほとんどなかった。書類上ではすべて問題はなかったが、最近の金融危機の結果、より注意深くなった。

1月19日、チュニジアのジン・アビディン・ベンアリ前大統領が失脚して1週間もたたないうちに、スイス政府はベンアリ前大統領と側近40人の関与が疑われる資産を凍結した。

スイス当局は、チュニジア政府高官が約6億2000万ドル ( 約500億円 ) をスイスの銀行口座に預けたと推定する。

また、スイス当局は今年2月にエジプトのホスニー・ムバラク前大統領と側近の資産を凍結した。ムバラク前大統領の資産規模は依然不明だが、前大統領と息子らが、最高700億ドル( 約5兆7000億円)を蓄えていたという疑惑で抗議運動が起き、政権の座を追われた。

いずれの資産も3年間凍結される。それらの資産の違法性が3年以内に証明された場合、スイスとエジプト、およびチュニジアの当局は返還方法を規定しなければならない。

もし犯罪法の枠組みやスイスとの刑事事件の法的手続きの中で違法性を証明できない場合は、資産を凍結することはできない。

チュニジアやエジプトが刑事訴訟を適正に遂行できない場合、またスイスと刑事事件の法的手続きを進められない場合は、スイス連邦評議会は今年2月に施行した不正資産回収についての新法を適用できる。

( 英語からの翻訳、笠原浩美 )

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