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投票に気乗りしない、スイス出身のアメリカ人たち

AFP

ついにきょうは米大統領選の前日5日。しかし今回の選挙は「アメリカ史上、(投票者の熱意において)最悪の選挙の一つ」というのが多くの見方だ。「選挙のカギを握る」といわれる接戦州に住むスイス出身のアメリカ人たちも同じ感想を持つ。

 民主党のバラク・オバマ大統領と共和党のミット・ロムニー前マサチューセッツ州知事による、第1回のアメリカ大統領選討論会がテレビで中継された後、ペンシルバニア州はどちらの候補者が勝つか判断が難しい接戦州となった。

 同州の西部、ピッツバーグに住むアンヌマリ・フリックさんは、2008年と同様オバマ氏に投票するつもりだ。だが、政治好きなフリックさんさえ、オバマ氏に対する熱意は少し冷めている。そして、スイスのザンクト・ガレン州出身の、この語学の先生はこう話す。

 「前回オバマ氏を支持した多くの人と同じように、現大統領に少しがっかりしている。しかし大統領に大きなことができるわけでもなかった。優れた政策を出しても共和党がことごとく反対したからだ。オバマ氏が共和党とうまくやっていけなかったのは残念。また民主党が議会の多数派だった最初の2年間でさえ、党内部から支持が得られなかったことも残念だ」

経済危機が要

 2007年以降アメリカも、失業、不動産の差し押さえ、公・私的な累積赤字など、経済危機の波にもまれている。大統領選の投票者にとっても経済が一番の関心事だ。

 たとえピッツバーグのように、「経済的にゆとりのある」都市でさえ、状況は変わらない。「経済が私にとっても、多くの知人にとっても一番」とフリックさんは言う。

 大統領選では、各州で投票数が集計された後、1票の差であれ勝った方の候補者が、各州に割り当てられた「選挙人」といわれる数(各州に3~55人。合計538人)を勝ち取ることになる。その結果、選挙人の合計で次期大統領が選出されるのだが、この選挙人の割り振られた数が29人と、一番多いのがフロリダ州だ。

 このフロリダ州の町ボカ・ラトン(Boca Raton)。ここに住むロルフ・マーティーさんは「失業と抵当処分される不動産が一番の問題になっている」と語る。このチューリヒ出身の退職者は次のように続ける。

 「誰もがブッシュ前大統領の政治が悪かったと言う。しかしオバマ氏は4年もの間大統領の職にあった。また、少なくとも最初の2年間は議会の民主党議員を自分の支配下に置いていた(従って改革をやろうと思えばできたはずだ)。オバマ氏は、黒人であり演説力に優れていたから大統領になれたに過ぎない」。

 マーティーさんは、ロムニー氏に1票を投じるつもりだ。

政治にうんざり

やはり接戦州で失業者が最も多い州、ネバダ。スイスのエッギスヴィール(Eggiswil)出身のクルト・シュテットラーさんは、このネバダ州のスパークス(Sparks)に、娘と住む。シュテットラーさん一家は、次期大統領の支持で意見が分かれる。

 父親のクルトさんはロムニー氏を支持。「オバマ氏は、民間企業で働いた経験がない。それがネック。オバマ氏が行った政策は全て結局、行政担当官によって行われたに過ぎない」。「確かにロムニー氏がビジネスで行ったこと全てに賛成してはいない。しかしロムニー氏の方がオバマ氏よりはよいと思う。それに、あと4年も同じ人物が大統領を続けることに賛成ではない」

 娘のアネットさんは、オバマ氏に1票を投じるつもりだ。しかし2008年に比べ熱意に乏しい。最近、ネバダの州職員のポストを失いかけ、給料が激減。しかしオバマ氏を責める気はない。「オバマ氏は再選されれば失業と戦っていくと約束した。彼は苦しむ人々を救おうとしている」

 ただ、こうも付け加える。「政治にはうんざりしているところもある。オバマ氏を支持するのは、ロムニー氏を当選させないためというところがある。ロムニー氏は、(富裕層を理解していても)中産階級を全く分かっていない」

みんな一緒に働くもの

 もう一つの接戦州バージニアで、スイス企業の支社を経営する、シャンタル・アエシュバッハさんはオバマ氏を強く支持する。

 「オバマ氏に落胆していない。たった4年では大した改革はできないからだ。さらに、ブッシュ前大統領の残したものの中で、奇跡的なことは行うのは難しいからだ」と、ジュネーブ出身のアエシュバッハさん。

 3人の子どもの母親でもあるアエシュバッハさんは、多くの失業者を周りで見ている。「子どもたちに、(社会では)みんな一緒に働くものだと教えなければならない。ところが、政治家たちはこの単純なことを忘れている」と、政治家たちを批判する。そのため、「オバマ氏は敵対する党と協力する努力をすべきだった」と強調する。

 いずれにせよ、オバマ氏を支持する以外の道は考えられない。「ロムニー氏は正直ではないし、信頼が置けない。また女性として、(ロムニー氏当選時の副大統領候補の)ポール・ライアン氏のいくつかの過激な意見には賛成できない」

 これに対し、ロムニー氏の出身州ウィスコンシンで商店を経営するトニー・ツグラゲンさんは、「ライアン氏は過激ではない。彼の、負債を削減する計画を支持している」と言う。ツグラゲンさんは、スイスのエルストフェルト(Erstfeld)出身だ。

 経済危機は、民主党にも共和党にも賛成しない人々をも襲った。ツグラゲンさんは、このいわゆる無党派層に属する。しかし、今回は共和党に投票しようと考えている。「2008年にはオバマ氏に投票した。しかしオバマ氏は、社会保障に多額の資金を投資しすぎた。必死で働く層は(支援が必要なく)みな金持ちだと考えているらしい。オバマ氏はまた、雇用を作り出さなかった。経済を理解していないし、国がうまく機能していないことが分かってないらしい」

気乗りしないが

 ノースカロライナ州で共和党の副プレジデントを務めるハンス・モゼールさん。しかし、共和党の今回の大統領・副大統領の組み合わせ「ロムニー/ライアン・チケット」を支持する熱意がもう一つ湧かないと告白する。

 この2人に「気乗りしない」のは、ロムニー氏がモルモン教徒だからではないと否定しながら、「モルモン教徒は完全で自然なキリスト教徒ではない。彼らは、自分たち独自のキリスト教を作り上げた。そのためすっきりと支持はできない。しかし、ロムニー氏は我々と同じ考えを共有してはいる。例えば、創造主を最高の存在と考えているからだ。中絶に対する考えにも同じものを持っている」と、スイスとアメリカの二重国籍を持つ、このベルン人は言う。

 「ただ、ロムニー氏が私にとって問題なのは、さまざまな政治課題に対し意見を変えて行ったことだ」とモゼールさん。しかし、モゼールさんは次の二つの理由でやはりロムニー氏に投票すると言う。「ロムニー氏以外に選択肢がないこと。またイスラエルは我々のような福音主義者にとって非常に重要。そしてイスラエルと我々は、ロムニー氏が一番の大統領候補だと考えているからだ」

アメリカには、スイス生まれのアメリカ人、ないしはスイスにルーツを持つアメリカ人が約120万人いる。

 

2011年の統計では、およそ7万5637人のスイス国籍保有者がアメリカに居住している。また5万2093人がスイスとアメリカの二重国籍を持つ。

一方、世界160カ国に住む600万人のアメリカ人のうち、約3万人がスイスに住んでいる

(仏語からの翻訳・編集 里信邦子)

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