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シリア難民危機 祖国に帰れない難民の再定住

シリアを逃れた難民は140万人以上に上る。中でも恵まれない境遇にある難民が欧米の国に再定住できる確率は宝くじに当たるほど低い。スイスが受け入れている難民もごくわずか。その門戸をさらに広く開くには数々の障害がある。

 「戦争でイラクから逃れ、今度は別の戦争のせいでシリアから逃げてきた。将来がどうなるのかも、自分たちがどうなるのかもわからない」

 レバノンの首都ベイルートの国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)で、48歳の女性レイラさん(仮名)はこみ上げてくる涙に話を続けられなくなった。その突き刺すような目は、語られざる恐怖を物語っていた。

 3児の母であるレイラさんは、イラクでは少数派のキリスト教徒。2007年にイラクの爆撃や戦闘を逃れて難民となった数千人のうちの一人だ。そして今回、シリアのアレッポで再び同じ危険にさらされることになったのだ。

 2012年末の時点で、レイラさんとその家族と同様に7千人以上のイラク人が国境を越えてレバノンに逃れ、UNHCRに登録されている。シリア国内には登録済みのイラク人難民6万5千人が、今も紛争から逃れられずにいると推定されている。

 迫害と危険を恐れて祖国イラクにもシリアにも戻れず、特に助けと保護を必要としているレイラさんのような人々にとって、第三国への再定住は頼みの綱だ。

 職もなく、物価の高いベイルートで家族を養うことに必死のレイラさんは、いつか一家がアメリカに再定住できるのではという希望にすがって生きている。

再定住

国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)が支援する再定住プログラムには、難民の選抜と、彼らが保護を求めた国から永住権を持つ難民として受け入れられる第三国への移動が含まれる。

世界中でUNHCRの関与する難民1050万人のうち、同事務所が再定住を第三国に依頼するのはわずか1%程度。

選抜基準は厳しい。例えば、法的および・または身体的に保護を受ける必要があること、拷問および・または暴力から逃れてきたこと、治療を受ける必要があること、危険にさらされている女性や少女、家族と再会するため、危険にさらされている子ども、それ以外に持続的な解決策がないことなどの条件がある。

UNHCRは、2013年に再定住が必要な難民は18万1千人ほどになると見積もっている。しかし現在各国が受け入れを予定しているのは合計8万1千人ほど。

国籍別に見ると、2011年に再定住プログラムの恩恵を受けた主な国は、ミャンマー(2万1300人)、イラク(2万人)、ソマリア(1万5700人)、ブータン(1万3千人)。

再定住プログラムに定期的に参加している国はわずか26カ国。再定住地としてはアメリカが世界一、続くオーストラリア、カナダ、北欧諸国も毎年かなりの数を受け入れている。近年、ヨーロッパやラテンアメリカで再定住に関わる国が増えている。

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アメリカン・ドリーム

 2007〜2013年にUNHCRに再定住を申請したイラク人の数は11万9843人。そのうち8割が、再定住者を世界で最も多く受け入れているアメリカへ行く。

 レイラさんの家族はシリアに暮らしていた2007年に複雑な再定住手続きを開始したが、社会の混乱と激変のため、昨年再び一からやり直さなければならなくなった。一家は現在、アメリカ大使館との面接を不安な思いで待っている。

 イラク人の場合、プログラムに受け入れられる可能性は他国出身者よりも高いとはいえ、宝くじの比喩は大きく間違ってはいない。再定住は権利ではなく、国家には再定住希望者を受け入れる義務はない。

 現在身を寄せている社会に溶け込むことが不可能で、近い将来の自発的帰還が不可能な場合は、長期的な解決策として再定住しか道がないこともある。特に、難民状態が長引いている場合はそうだ。しかし難民には厳しい条件が課せられており(フリーフォーム参照)、再定住受け入れ数は世界全体で年間8万人ほどにしかならない。

 UNHCRは毎年、連携協定を結んでいる国々と受け入れ人数を交渉する。アメリカ、カナダ、オーストラリア、北欧諸国が約9割を受け入れている。しかし、人数を増やすよう政治的な見直しを行う余地や柔軟性はないことが多く、緊急受け入れを承諾する国は多くない。

再定住先としてのスイス

 スイスはUNHCRの再定住計画に1950年代から参加しているが、1998年に割当政策を廃止、2005年以降同事務所の要請に応じて特に弱い立場にある難民を少数受け入れているだけだ。シモネッタ・ソマルガ司法警察相は一度につき100人までの受け入れを承認する権限を持つが、それ以上は内閣に決定を委ねることになる。

 この3月、スイスは7家族に特別保護を提供した。イラク出身の6家族とパレスチナ出身の1家族で、イラクの武力闘争を逃れて難民としてシリアに滞在していた10人の女性と14人の子どもが含まれていた。2012年9月にはシリア出身の数家族からなるほぼ同じ人数のグループも迎え入れられている。

 また2011年の年初以来、2401人のシリア人が個人的にスイスに難民を申請し、そのうち342人が正式に受け入れられた。残りの人々は、送還できないため一時的滞在が認められた。

 スイス難民援助機関は、近年の再定住受け入れ状況はお笑い草であり、スイスの標榜する「人道主義」にふさわしくないと批判する。

 「お話にならないほど少ない」とベアト・マイナー会長は嘆く。「1990年代のバルカン戦争の際には、スイスは約10万人のボスニア人やコソボ人に一時的保護を与えた。10万人のシリア人を受け入れろとまでは言わないが、もっと協力できるはずだ」

スイスの立場

なぜスイスはもっとシリア危機の難民を受け入れないのか?(連邦司法警察省移民局からの書面による回答)

- 「シリア危機の勃発以来、スイスはUNHCRより、シリア難民の集団の受け入れ要請を2度受けた。スイスはいずれの場合も肯定的な回答をし、昨秋より39人の子どもを含む73人を受け入れた」

- 「2013年の基本方針のもと、スイス政府は世界的難民再定住戦略を承認した。これは、目標を定めて計画的にスイスに難民を迎える、複数年にわたる強化政策であり、州や基礎自治体と協力して難民の迅速な社会融和を保証する。受け入れ数は未定。迎え入れる難民の選定にはUNHCRとの緊密な連携が必須」

- 「紛争地域でのスイスの支援も優先課題。スイスは毎年UNHCRに3400万フラン(約36億円)を拠出している上、人道援助への3千万フランの提供も開始した」

- 「難民申請者は人道的な理由から3カ月の滞在ビザを受けることができる。ゆえに、生命あるいは健康が脅かされている人は難民申請のためにスイスに来ることができる。そのためには申請者が直接深刻な危機にさらされていることをスイス当局が確信しなければならない。差し迫った危険にさらされている人のみ、スイス在外公館が発行する『人道ビザ』を入手することができる。スイス国内のシリア難民との家族の再会も、配偶者と子どもの場合は可能」

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対応に苦慮

 スイス難民援助機関はより大勢の難民を受け入れる政策の再導入を何度も政府に呼びかけているが、実現できていない。また、スイスに親戚のいるシリア人難民のビザ発行手続きを簡略化するよう政府に要請してもいる。

 しかし一方でマイナー会長は、今のスイスの厳しい難民環境を考えると、左派の社会民主党所属のソマルガ氏にとって、他の大臣、議員たちを説得して受け入れ難民の数を増やすのは難しいことも認めている。

 「現在ソマルガ大臣は多くの難民収容所関連の問題に直面しており、スイスの難民制度を抜本的に改革しようとしている。そのため、新しい難民を大勢受け入れてこれ以上議論の種を増やしたくないのだ」

 UNHCRの再定住調整官ヨハネス・ファン・デア・クラウエ氏もスイスの立場を擁護する。

 「スイスは今のところ個別に対応しているが、再定住に関しては、UNHCRの要請に応えて特に中東からの難民を何グループか受け入れ、柔軟に支援してくれている。ソマルガ氏はまた、定期的な再定住プログラムを採択したいという希望を表明している。そうなれば予測可能性と持続可能性が高まるため、UNHCRはこれを全面的に支持する」

悪化の一途

 一方、シリア国内および難民を受け入れている各国の状況は悪化する一方のようだ。UNHCRは、2013年の末にはシリアからの難民が350万人に達すると予想している。

 仕事の量に圧倒され、資金不足に悩みながらも、同事務所は目下の人道的危機に焦点を合わせつつ、イラクやパレスチナ、ソマリア、アフガニスタン、スーダンといった国からの難民の再定住にも取り組んでいる。シリア人難民の大規模再定住は「優先事項ではない」という。

 「今シリア人は、再定住について考えてはいない。祖国に帰りたがっている」とある職員は話す。「ヨルダンやレバノンは状況を懸念し、負担を分かち合おうとしている。これらの国は非常に積極的だが、パレスチナ難民の問題がネックになっている。それがきっかけとなってパレスチナから難民が押し寄せてくることを恐れているのだ。そのため、再定住は戦略的に進める必要がある」

 UNHCRは、イラクやエチオピアの難民危機の過去の経験と、今回の難民の数、人の動き、宗派間問題を考慮すると、このままでは大規模な再定住プログラムが必要になることはほぼ避けられないとみている。

 中東および北アフリカ地域の再定住部門を率いるウィリアム・リプシット氏は次のように話す。「UNHCRが呼びかければ、世界各国は多国間再定住プログラムを作り、ヨルダン、レバノン、トルコといった現在の難民受け入れ国と問題を分かち合おうとするだろう」


(英語からの翻訳 西田英恵), swissinfo.ch


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