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スイス国家の力強いカミングアウト

ベルナーオーバーラント地方のアルプスを歩く男性カップル。彼らも同性婚合法化の可決を喜んだに違いない © Keystone / Christian Beutler

スイスが26日の国民投票で同性婚合法化を可決した。可決までにかかった7年という年月も歴史的ながら、投票で集まった賛成票64.1%という数字も記録的だった。スイスを代表する政治学者クロード・ロンシャン氏がその背景を分析した。

このコンテンツは 2021/09/29 13:00
Claude Longchamp, Politikwissenschafter

民法典改正案「全ての人に結婚の自由を」では有権者の64.1%が賛成票を投じ、全26州で賛成が反対を上回った。賛成割合は「世界記録」と言える。これまでに同性婚合法化を国民投票で決めた世界の国々では、アイルランド(2015年)の62%が最高だった。

欧州の真ん中からスイスがトップに躍り出たのだ。

地理的な溝はないが…

全ての言語圏で賛成が過半数を得た。ドイツ語圏では65%、フランス語圏では63%。イタリア語圏だけ53%とやや遅れを取った。新型コロナウイルス対策を巡るあらゆる分裂を経て、スイスは再び一致団結して明確な賛意を示した。

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スイスの言語圏間に見られる支持率のわずかな違いは、各言語を国語とする隣国の動向を反映している。フランスは2013年、ドイツは17年、オーストリアは19年に同性婚を合法化している。イタリアは今のところ登録パートナーシップ制度しかなく、合法化に消極的だ。

スイスで散々指摘されてきた都市・地方間の溝も、今回ばかりは開かなかった。中核都市では72%が法改正を支持し、地方でも58%が賛成に回った。

それでもスイス西部のテレビ局の特番では、地域間の溝が1つ発見された。チューリヒではほぼ8割が合法化に賛成したのに対し、スイス南東部のグラウビュンデン州ベルニナ地方ではその半分ほどだったという。

ベルニナ地方は、年金受給者の比率がスイスで最も高いという点が関係していると考えられる。そしてチューリヒは40歳未満の若年層が、スイスで最も多い。

…代わりに年代交代が

今回、長い年月を経て起きた歴史的変化の理由は、恐らくこの世代交代だろう。同性婚合法化の影響を受けるのは、年配の人ではなく若い世代だ。自由に人生設計を描きたいと考えており、下の世代になるほど現行法への理解は小さくなっていく。スイス公共放送協会(SRG SSR)が投票前に実施した世論調査にもその傾向は見て取れた。若い回答者ほど合法化への賛成意見が多かった。

レファレンダムがブレーキ役に

だがスイスの水車が回るのはどこよりも遅い。政治学はその背景に「拒否権現象」があると説明する。スイスはレファレンダムが政治的な変化にブレーキをかける。この制度が存在するというだけで、先行して抑止効果を生む。国民投票で否決されたくなければ、妥協しなければならない。しかしそれには時間がかかる。レファレンダムの存在が、現行に固執する保守的な政治勢力を強め、変化を求める勢力を弱める方向に機能する。

同性婚合法化案でもそうだった。議論の発端は1998年、緑の党の国民議会(下院)議員による動議だった。だが動議を受けた連邦議会は2005年、同性婚の代わりに登録パートナーシップ制度を導入した。

次に機運が高まったのは2013年だ。進歩系中道・自由緑の党による提案が、左派・中道政党を口説き倒した。この時点で反対派は国民党、福音国民党、スイス民主同盟という超保守政党だけになった。

連邦制度も理論上、拒否権の役割を発揮する。州や都市で問題になるようなことは、全国的な意見統一は必要でなく、より進歩的な結論にまとまりやすい。だが国としての決定は、各地域の利益や価値、感性を合わせたものでなければならない。

多様性が勝つ

だが実現しなかった「変化」は拒否権では十分に説明できない。政治家やその生息空間の問題でもある。政治家の在職期間が長いから、イデオロギーの方向性が同じだから、いつも同じ属性の政治家ばかり出てくるから――それこそが今日の政治的な動きの遅さを助長しているとも考えられる。

そのうちのごく一部は変化しようとしている。官庁の在職期間は短くなり、多極化が進み、政治家のプロフィールも多様化しつつある。

最も分かりやすいのは議会の女性比率だ。2019年以降、下院の42%を女性議員が占める。上院では今も26%だ。

目に見える熱意

LGBTIQ運動のような少数派からの要求は、これからも顕在化していくだろう。彼らとその自己理解はどんどん目に見えるようになっている。過去数週間、LGBTIQの活動家の持つ多大な熱意や、スイス全土を網羅したネットワークが存在感を示した。あらゆる政治要素を動員していた。

メディア上の公共空間では、市民社会が最も重要なアクターとなった―。同性婚合法化の投票キャンペーンを分析したチューリヒ大学の研究はこう分析する。オクシデンタルのフィリップ・M・アユーブ教授(政治学)の言葉を借りれば、「国家のカミングアウトは個人に先行しなければならない」。その声が力強いほど、個人が得る実りも大きい。それはいくらか歩みの遅いスイスでも同じだといえる。

(独語からの翻訳・ムートゥ朋子)

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