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スノーデン事件後の波紋 スイスの巨大アンテナ、NSAに協力か?

「巨大な耳」は二つのゾーンに分かれる。一つのゾーンは連邦国防省によって、もう一つはドイツの企業によって管理されている

「巨大な耳」は二つのゾーンに分かれる。一つのゾーンは連邦国防省によって、もう一つはドイツの企業によって管理されている

(Keystone)

米国家安全保障局(NSA)による世界的なプライバシー侵害が次々に明るみに出ている今日。このスキャンダルにより、スイスにある巨大アンテナが、実はNSAに協力するために使われているのではないかという疑惑が浮上している。

 ヴァレー州のブリークからシオンに抜ける高速を通ると、ロエッシュ(Loèche)村の丘に立ち並ぶ巨大アンテナ群が姿を見せる。スイス領内の青空をバックに白く浮かぶ、お椀型のパラボラアンテナの数は十数個。「巨大な耳」とニックネームで呼ばれている。

 米中央情報局(CIA)のエドワード・スノーデン元職員が暴露した英米による個人情報収集により、以前からNSAへの協力が疑われていたこの「巨大な耳」に再びスポットが当たっている。「スイスがNSAと情報交換協定を結んでいると確信している。米国は、『巨大な耳』にかなり関与している」と断言するのは、個人情報収集の調査を行っている英国の、ダンカン・キャンブル記者だ。

 「巨大な耳」は二つのゾーンに分かれる。一つのゾーンは連邦国防省(VBS/DDPS)によって管理され、スイスの情報収集プログラム「オニキス(Onyx)」の一旦を担う。つまり、通信衛星を通過する軍事的な、または一般市民の国際的コミュニケーションを盗聴するこのプログラムを、「巨大な耳」もパラボラアンテナで一部行っているのだ。

スイスはどこまで協力しているのか?

「NSAとはいかなるコンタクトもないし、データ交換も行っていない」と10月末に、ウエリ・マウラー国防大臣は明言した。

しかし、スペインのエル・ムンド紙が明らかにしたリストはこの発言を完全に否定するものだ。リストは米国の情報収集に対する協力の度合いによって国を列挙しており、スイスは英国の次席を占め、次いでオーストラリア、カナダ、ニュージーランドが続く。

また、マウラー大臣の発言とは裏腹にクリストフ・ブロッハー前司法警察相は「スイスが米国の情報収集に協力していることは明白だ」とシュヴァイツ・アム・ゾンターク紙で述べ、バルタザール・グレットリ下院議員も「すでに数年前に、国防省の広報担当官がスイスと外国の極秘情報部門とはある種の協力を行っていると発言している。協力は当たり前のことだ。だが、今我々が知りたいのは、どこまでこの協力関係があるかということだ」と話す。

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ドイツの会社が運営

 一方、もしNSAが「巨大な耳」を使って直接に情報を収集しているとしたら、それは第2ゾーンからだ。およそ50基のアンテナが15万平方メートルの面積を覆うこのゾーンは、ドイツの会社シグナルホルン(Signalhorn)が運営している。

 スイスの連邦国防省は、同社が管理するサイトと国防省のサイトには何の関係もないとスイスインフォに対し断言した。唯一の関係といえば、同社が国防省のアンテナの技術的なメンテナンスを行っていることだ。

 シグナルホルンのアンヴェール・アンダーソン広報担当は、スイスインフォに対し同社の活動を多少明らかにし次のように書いてきた。

 「我が社は広い範囲でサービスを行っている。例えば、遠隔地の孤立した多くのオフイスをインターネットでつなぎ、また孤立した場所からクレジットカードでの支払いを保証している。約1万社のビジネスサイトを管理。それは、スカンジナビア半島、ヨーロッパ、中東、アフリカに広がる。さらに、エネルギー分野のサービスも行っている。例えば、石油、ガス、風力発電、電力の生産者のサイトを管理している。クライアントの中にはメディアや海運業者も含まれており、海運業では航海中の船をインターネットでつないでいる」

 さらにこう書く。「もちろん、様々な国の防衛にも関係している。特に、それらの国の外務省と在外大使館との間のコミュニケーションを管理している。NGOにも協力し、災害や緊急時の救援や物資の支給の伝達を行う。こうしたサービスを含め、われわれのクライアントは約130カ国に及ぶ。多くがヨーロッパだが、中東やアフリカさらに世界の他の地域に急速に展開している」

 こうした上で、シグナルホルンはNSAとの関係をはっきりと否定する。「我々の知る限り、NSAはビジネス用の通信衛星は利用しないと聞いている。メディアによると、NSAは情報収集には米国政府が所有するインフラだけを利用している」

疑惑は2002年当時からあった

 2012年に創設されたシグナルホルンは、実際には長い歴史を持つ。2002年にスイスの通信最大手スイスコムからこの巨大アンテナを購入したとき、同社はヴェレスターという名前だった。その後、何度も社名を変えている。

 しかし、シグナルホルンの最大株主は2002年から一貫して変わらず、米アメリカン・タワー(AMT)だ。アメリカン・タワーは、携帯電話の基地局用施設を所有・運営する米大手でボストンを本拠地にしている。

 すでに2002年当時、シグナルホルンに対する疑惑は始まっており、1970年代に米国、英国、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドによって開始された電話の盗聴プログラム、「エシェロン(ECHELON)」の一部として利用されていると噂された。

 エシェロンは、スノーデン元職員が暴露した情報収集プログラム「プリズム(PRISM)」のいわば前身にあたる。

 さらに当時の噂には、NSAが私企業に情報収集活動の一部を委託する「グランドブレイカー(Groundbreaker)」というプログラムの一環に、シグナルホルンを組み込んでいたというものもあった。

オニキス(Onyx)

1997年、スイス政府は通信衛星を通過する軍事的な、または一般市民の国際的コミュニケーションを盗聴するプログラムの開始を決定。

このシステムは「オニキス(Onyx)」と名付けられ、2000年にスタート。2006年から本格稼働している。さらに、ベルン州ツィマーヴァルト(Zimmerwald)、ハイメンシュヴァント(Heimenschwand)およびヴァレー/ヴァリス州のロエッシュ/ロイク(Loèche/Leuk)のパラボラアンテナも使用している。

会話やメッセージをフィルターにかけ、探している情報をより簡単に見つけられるキーワードリストを使っている。

2009年、リビアに拘束されていた2人のスイス人の救出作戦で、スイス政府は軍を投入する計画だった。ところが、リビア側はこの作戦をすでに知っていた。このことを、スイス政府は、オニキスが収集した情報のお蔭で確認した。

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スイス政府は、「巨大な耳」のNSAへの協力を否定し続ける

 これに関して、かつてスイス連邦議会でも複数の質疑が出された。スイス政府はその返答として、シグナルホルンが純粋に商業目的の会社であること、NSAがかつて同社の顧客だったという事実はないこと、また同社の第一の任務は内容には関知せず、ただデータを移送することだという説明を行い、問題を丸く収めようとした。

 その後、この「巨大な耳」が話題に上ることはほとんどなかった。最近になって、NSAの世界的なプライバシー侵害が一つまた一つと明るみに出るまでは。

 ドイツ語圏の日曜紙シュヴァイツ・アム・ゾンタークは11月初旬、シグナルホルンがNSAと関わっていたという、NSAの元高位職員の証言を掲載した。

 シグナルホルンの現職幹部の履歴を見ると、米軍需産業と密接なビジネス関係にあった人物が複数いる。例えば最高経営責任者(CEO)のジェームス・クッバーヌス氏はつい数カ月前まで、テキサス州の空軍基地に本拠を置く大手遠距離通信企業トラストコム(TrustComm)を率いていた。

 また、クッバーヌス氏の右腕のリック・ミンター氏は以前、SESガバメント・ソルーションズ(SES Government Solutions)の最高執行責任者(COO)だった。同社は軍事衛星と遠距離通信を専門とする企業で、米政府や米軍と密接な共同作業を行っている。

 しかし、スイス連邦国防省は「シグナルホルンとその設備がプリズムと関わっていると考える理由は見当たらない」と楽観視。この10年、変わったのは米情報収集プログラムの名称だけで、スイス政府の態度は全く変わっていない。

法の抜け穴では?

 さらにスイス連邦国防省は、次のようにスイスインフォへのメールで説明する。「シグナルホルンが実際に、外国の諜報機関のためにデータ移送管理を行っていたとしても、当局としては会話やデータがスイス国外に出たときか、国内で交換されたときにしか手を出すことができない。外国のデータをめぐる問題は事実上、スイスの法律を犯したことにはならない」

 これに対し、緑の党のバルタザール・グレットリ下院議員は次のように話す。「外国の秘密情報機関の支部であると分かっている企業がこのような活動をしたとき、スイスは法的な対抗手段を持たない。これは少々問題だ」

 グレットリ議員は国防政策委員会のメンバーでもあり、スノーデン元職員の暴露に関する議題も複数、連邦議会に提出している。「これはスイスの中立性にも関わる問題である」と言う。

 スイスの秘密情報機関の責任者を次の会議に呼んで説明してもらうことも考えられる。「委員会では、外国の諜報機関がスイスでどんな活動をしているのか、はっきり説明してもらいたいと考えている」とグレットリ議員。

 「『巨大な耳』も議題に上るだろう。また、企業の盗聴が全く合法的だと言うのなら、そのことをきちんと(法的に)再確認すべきだ。なぜならこれは、法の抜け穴に見えるからだ」


(仏・独語から翻訳・編集 里信邦子&小山千早), swissinfo.ch


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