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大学でコピー・貼り付け行為 蔓延

ラップトップの使用で、「コピー・貼り付け行為」はさらに蔓延 ( まんえん ) する Keystone

インターネットの普及により、ほかの人が書いたものをそのままコピーして自分の論文に使う風潮がスイスやフランスなどの大学で蔓延 ( まんえん ) している。

ジュネーブ大学の教授ミッシェル・ブラガダ氏は、この「コピー・貼り付け行為」を阻止するため、サイト上で情報提供のプラットフォームを作った。またフランスやそのほかの国でも禁止対策が取られるようになってきた。

2005年頃から始まった

 2005年修士論文に目を通しながら、パリ第8大学コミュニケーション学科の教授ジャン・ノエル・ダルドゥ氏は、「コピー・貼り付け行為」に気付いた。2本の論文がこうした行為で作成されていたのだ。

 もしやと思ったダルドゥ氏は前年の論文を読み返し、その結果30本のうち10本が「コピー・貼り付け行為」で書かれていた。
 「大学に修士号を取り消すよう掛け合ったが無駄だった。さらにこの中の1人は同じ手法で博士論文まで書いていた」

 フランスでこうした事実が発見されていたとき、ジュネーブ大学の経済・社会学の教授ブラガダ氏も、同じような現象に出くわしていた。
 「インターネットのせいで、こうした行為は爆発的に蔓延した」
 とブラガダ氏はみる。

そのまま英語にコピー

 こうして作成された論文では、ほかの人の文章を引用に使うといった程度のものではなく、まるで「工業生産のように」次々とコピーしたものの継ぎはぎだったり、ときに数ページがそのままコピーされていたりする。驚愕したブラガダ氏は、この「コピー・貼り付け行為」を阻止するため、フランス語圏向けに情報提供プラットフォームをサイト上に立ち上げた。

 最近このサイトのニュースレターでブラガダ氏は、以下のように書いている。
 「フランスの高等専門大学の副学長で、研究者でもあり、同時に科学研究雑誌の編集者を務める人物は、フランスのある出版社から出た本の一章をまったくそのまま英語に直し、自分の名でイギリスのマックグロウ・ヒル社から出版した」

 さらにこう続ける。
 「コピーされた側の研究者は報復処置を断念した。裁判のために研究時間が取られるのを恐れたためだ」
 
 結局、以上の情報が発表されたことで、コピーをした研究者は自分のことだと気付き、ブラガダ氏に謝罪の電話を入れてきた。「残念ながら、この研究者の例は、ひどいケースの51件目に当たる」とブラガダ氏は話す。

 このサイトからは毎回1万6000人にニュースレターが届けられるが、これは密告を目的にしたものではなく、あくまで情報提供のサイトだとブラガダ氏は言う。

大学研究者の非倫理性

 ブラガダ氏のサイト立ち上げに勇気付けられ、フランスのダルドゥ氏もこうした行為を摘発し始めた。

 2008年、ダルドゥ氏は同じ学部の学生の博士論文の9割が、「コピー・貼り付け行為」で作成されているのに気付き、あまりのひどさに大学の研究議会に訴えた。その結果その学生の博士号は取り上げられた。
 「これでほっとした。ところが、この学生を指導した教授もコピーで自分の論文を仕上げるタイプで、研究議会は大学の新教授指名委員会長にこの教授を任命したのには、がっかりした」
 と話す。

 しかしダルドゥ氏のお陰で、大学のほかの学部の同僚たちも「これでやっと、コピー・貼り付け行為をする研究者や学生のことを公に話せるようになった」と感謝している。ただ、公に話せる教授たちは退職を目前にした人たちが中心だということが問題だ。また、文献が多ければ多い程良いというフランスのシステムがこうした行為を促すとも指摘する。

 いずれにせよ
「コピーによる違反行為は、まだ学生の場合はある程度許せるが、大学の研究者がこれをやることは許せないことだ」
 とダルドゥ氏は結論する。

スイスの具体策

 スイスでは、大学が直接こうした行為の阻止に取り掛かっている。ジュネーブ大学の経済学部と社会学部では、公正さと著作権の尊重という観点から、大学教育倫理法のもとに、学生や研究者はこういう違反行為を行わないという証明書に署名をしなくてはならない。また、ローザンヌ大学でも同様の対策を取っている。
 
 さらに今年初めからジュネーブ大学では、違反行為を見つけ出すソフトを大学関係者に提供した。しかし残念ながらフランス製のこのソフトは、原文をそのままコピーした文章には適応できても、一部言葉を変えたりすれば、発見できなくなるという。ましてやほかの言語に翻訳した場合は、発見は不可能だ。

 カナダやベルギーでも大学がこうした違反行為の阻止に乗り出しており、特に学生や大学関係者に違反行為の存在やその非倫理性を広く知らせる方法を取っていると、ブラガダ氏は話し
 「スイスでは、ゆっくりだが、確実に阻止運動が進んでいる。プロテスタントの社会では、同僚の間でこうした話をすることはなかなか難しいが、しかしこうした行為を行った大学関係者はやがてその代償を支払うことになると思う」
 と結んだ。
 
マチュウ・ファン・ベルシェム、swissinfo.ch
( 仏語からの翻訳、里信邦子 )

(ブラガダ氏が発信した第32回ニュースレターより)

「コピー・貼り付け行為」の証明はかなり簡単だ。二つの文章を比較すればよいことだからだ。だが、考えやアイデアをコピーされた場合、問題は複雑になる。だからといって、これも解決できないわけではない。
実際、コピーされた被害者側は、自分の権利をどう主張してよいか分からない。なぜなら、コピーした側に対する反論の方法がほとんど確立されていないからだ。
コピーされた被害者側の、「盗まれた」という感覚は自然なものだ。なぜなら作品の精神が盗まれたわけで、個人的なものが盗まれたことになるからだ。これは個人の人権侵害に当たる。
従って、この行為を行った者は、民法やさらには刑法の市民権を侵害したことになる。
ところが著作者は、本、論文などの正真正銘の作者として公に再確認されるためになぜわざわざ弁護士を雇わなければならないのか理解できない。
しかし、わたしはこのニュースレターではっきりと伝えたい。個人の人権侵害で傷を負った人は自分の受けた傷を人に伝えたくなるということを。

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SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

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