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地球温暖化の新しい警告

今後50年間で、気温が平均2〜3度上がるという Keystone

地球温暖化が引き起こす被害を、世界経済の観点から分析した衝撃的なレポートがこのほど発表された。スイスのエコノミストと気候学者は、この発表により地球規模での新しい対策が生まれるだろうと期待している。

このレポートは、世界銀行経済部門の前部長、ニコラ・スターン氏がまとめたもの。もし、真剣に地球規模で温室効果ガス削減に取り組まなければ、世界経済は、何兆ドルもの損出をこうむるという。

 レポートの要旨は、もし2050年までに、真剣な温室効果ガス削減対策が行われないと、世界規模で国内総生産 ( GDP ) が最高20%減少する。しかし、それは各国がGDPの1%を今、温室効果ガス削減に使うことで救われる可能性があるというもの。このレポートは、専門家たちの間で、地球温暖化対策議論の大転換点を成すものと見られている。

科学者の見方

 ジュネーブ大学気候学科のマルタン・ベニストン教授は、このスターン・レポートを、初めて地球温暖化を世界経済の観点から分析した重要なものと評価する。「もしこのまま何もしなければ、様々な地球環境に大混乱が起こると何度も繰り返し指摘してきましたが、このレポートのお陰で、科学者たちの手から、経済関係者に問題が移っていくでしょう」

 ベニストン教授はガソリンの値上げさえ、良いことだと考える。「お陰で、会社関係者はエネルギー消費の問題を以前の2倍も考えるようになったのです。地球温暖化を心配してという訳ではないのですが」

 「けれど今回、世界銀行経済部門の前部長が580ページものレポートを書いたのですから、経済、産業関係者も、真剣に地球温暖化対策に取り組まない訳にはいかないでしょう。また、もう何か対策を考えようとしている会社は、どういう方向に進むべきかというヒントを得ることでしょう」とベニストン教授。

進む研究

 連邦環境省環境局 ( BAFU/OFEV ) の科学アドバイザー、マルクス・ナウザー氏は、スターン・レポートをスイス政府も重要なものと受け取り、じっくり研究するだろうとみる。「地球温暖化対策の議論の要になっていくでしょう。いままで経済的に数字で示されたことはなかったのです。我々の研究を支えてくれることにもなると思います」

 「レポートが、経済界を動かし、新しいエネルギー源や新しい技術開発を進めてくれることを期待しています」

 「一部の産業、経済界は温暖化のリスクを十分に認識しています。大手の再保険会社は、この分野を何年も前から研究していますし、新しい技術開発、新しい商品を狙う会社もきちんと状況を判断しています」とナウザー氏は続ける。

 実は、連邦環境省も地球温暖化がスイス経済に与える打撃を、独自に研究し、まとめようとしている。「この研究は、もし政府がなにもしないと、どれ程費用がかかるか理解する助けになるし、また、温室効果ガス削減にかかる費用と温暖化の結果を緩和するのにかかる費用とどっちが得か、そのバランスを考える助けにもなるでしょう」と言う。

温室効果ガス削減

 スイスの企業連盟、エコノミースイス ( Economiesuisse) のエネルギー、環境部門の責任者、ウルス・ネフ氏もスターン・レポートの「診断」を歓迎し、今後、参加国が温室効果ガス削減にどう取り組むかが問題だという。

 「ただ、すべての国が京都議定書に調印し、地球規模で取り組まないと意味がありません。誰も自国の経済成長を妨げる単独参加はしたがらない。ある国は、議定書の目標達成のために、商品生産コストが高くつき、調印してないある国は安く生産するのでは、『貿易のひずみ』を生み出します」とネフ氏は言う。

 またネフ氏は、スイスビジネス界が自発的に創設した「気候変動・セント基金 ( Climate Cent foundation ) 」の例を上げ、こうした基金を他国も考えることを薦める。

 この基金は、昨年10月にスタートし、1億フラン ( 約95億円 ) をスイス国内外の温室効果ガス削減プロジェクトに投資してきた。この資金は、ガソリン、ディーゼルガソリンの使用1リットルにつき、1.5サンチーム ( 約14円 ) 徴収して集められたもの。


swissinfo、アダム・ボーモン 里信邦子 ( さとのぶ くにこ ) 意訳

スイスは二酸化炭素ガス排出レベルを2010年までに、10%下げる約束をしている。
スイスでは二酸化炭素ガス規制の法律が2000年に発効された。もしこの法が自発的な方法で達成されない場合、他の対策を付け加えることになっている。
昨年10月、スイス政府は二酸化炭素ガス排出税の形で、ガソリン、ディーゼルガソリンの税徴収を試みたが、反対にあった。

地球温暖化防止に失敗すると、次の世紀には、地球の平均気温は5度上がると予想されている。
温室効果ガス排出量を安定化するには、2050年までに、世界的に国内総生産の1%を使う必要がある。もし何もしないと、世界的に国内総生産は最低5%、最高20%減ると考えられている。
地球規模で低二酸化炭素ガス排出経済に移行し、政府は課税システムや諸規則で二酸化炭素ガス規制を行わなければならない。低二酸化炭素ガス排出と効率の良い新技術開発も望まれる。
京都議定書が定める2012年以降の枠組みを話し合う会議がナイロビで11月6日から行われることをレポートは前書きにうたっている。

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