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美しき街? チューリヒ

「シティ・キャッツ」は、バックするのもお手の物 swissinfo.ch

街の各所に置かれたゴミ箱にゴミを捨てず、道にポイッとゴミを投げる。家庭から出るゴミを公共のゴミ箱に捨てる人。タバコの吸殻が道端に落ちているのを見るのも日常茶飯事。スイスの街はこのごろ汚れが目立ってきた。特にチューリヒの汚さは目にあまる。

チューリヒ市清掃局が道路や公園などを清掃して1年間に掃き集めるゴミの量は、およそ8600トン。市民1人当たり24キログラムになる。

 チューリヒには日中、郊外に住むビジネスマン、観光客など多くの人が集まってくる。毎日街に流れ込む人の数は30万人。人の集まる所にはゴミが出る。街の中心街に当たる1区では、早朝4時から夜の8時まで、1年365日、30人の清掃員が掃除をしているが、ゴミとの戦いは終わりを知らない。

手作業の多い、障害物競走

 白い小さな清掃車「シティ・キャッツ」を運転するのは、ポルトガル人のジュゼッペ・ペドロ・デ・マトさん(38歳)車の前方に付いている巨大な丸いブラシをくるくる回して、ゴミを吸い取る。

 デ・マトさんはチューリヒのメインストリート、バーンホフ通りのすべてを熟知している。回転するブラシが道路と歩道の段差に当たるように、小回りを利かせて車の「シティ・キャッツ」を運転する。車の下に集められたゴミは、吸引口からタンクに吸い取られていく。広い通りの両側にあるブティックの入り口は奥まっている。店の壁はまっすぐではない。植え込みもあるしベンチもある。思ったより障害物が多いのだ。中央駅に電車が到着すると、駅から大勢の人が清掃車に向かって歩いてくる。そんな時は時速3キロしか出せない。路面電車を邪魔するのも禁物だ。およそ200メートルを3往復してきれいにするのに30分以上かかった。

 清掃車は何でも吸い込むが「シャンペンのボトルは重くて車が故障するので、手で拾う。ダンボールも曲者。無料で配布される新聞も困り者だね」と言う。音を出してくるくる回る巨大ブラシはすぐに磨り減り、2週間もすればお役御免となる。

 旧市街は清掃車が入れないほど狭い道もあり、車から降りて箒で掃く。デ・マトさんの両手の親指にはタコができている。「朝は、人がいないので仕事がしやすいよ。デパートの前の芝生は、午後1時過ぎに汚れがピークになる」いつ、どこに、どんなゴミが散らかっているか、「考えて仕事しているのさ」と自分の頭を指で指した。

 デ・マトさんの後を追うようにして水で道をきれいにするのは、アントニオ・フェレイラさん(36歳)。前記注意書き参照同じくポルトガル人だ。こちらの車の愛称は「ポニー」。車の下からカーテンのように圧力の強い水が出てきて、道路を洗うのが仕事。階段のある場所に来ると、車から降りておもむろに長いホースを出す。車では階段の掃除はできないからだ。

 フェレイラさんの耳は、地獄耳のようだ。ホースから出る水の音と人の足音を聞き分ける。後ろからジョギングする人やバギーに子どもを乗せた女性が来ると、水が掛からないようにホースを脇にやる。「感謝してくれる人もいるけど、水をかけられたと怒る人もいるからね」橋の下は水で洗うのが一番。し尿の臭いを消す。2000リットル入るタンクは30分で空っぽになる。

きつい労働でも満足

 フェレイラさんには5歳の子どもがいる。もうすぐ夏休み。「チューリヒから故郷のポルトまで車で帰省するつもり」と顔をほころばせる。フェレイラさんの基本給は1カ月4500フラン(約42万円)。「給料には満足している」。以前コックをしていたが、結婚して辞めた。「夜の仕事は家族のためにならないからね」と、清掃員はマイペースで仕事ができるのが嬉しいという。

 デ・マトさんやフェレイラさんのボスはフランツ・ヴェルシュさん。スイス人だ。ポルトガル人、イタリア人、ギリシャ人、旧ユーゴスラビア人など多くの外国人の部下の働き具合を見て回るのが仕事だ。
 
 従業員の定着率は高い。「民間企業と違って、社会福祉が充実しているからだと思う」と、清掃員の安全と健康管理が充実していることに胸を張る。定年前に辞めるのは外国人で、祖国に帰るという人に限られるという。大半が定年まで働く。

人あるところにゴミあり

 吸殻、ソックス、新聞紙、ガラス瓶、ペットボトル、テレビ、コンピュータ、ソファー…。ヴェルシュさんが担当する1区には、ありとあらゆるゴミが、ごちゃ混ぜで捨てられるので分別は不可能。すべて焼却処分されるという。街の住宅街など別の区では、ガラス瓶や鉄くず、落ち葉まで分別されてリサイクルされる。

 オフィスで働く人の昼食は、テイクアウトが多くなった。天気が良いと公園などの芝生で食べる。昼食が終わった芝生の上には、テイクアウトのパッケージがそのまま残される。何の後ろめたさもなく、ゴミを道に捨てる人を見かけるようになった。最近、多くの若者が集まるようになった流行のレストランや巨大な映画館など娯楽施設のある5区は、毎晩の汚れが特にひどいという。「最近の人は『イージー』で、楽しいことにしか興味がない」とヴェルシュさん。「人が集まるところにゴミありき。すべてのファクターがごみにつながる」という。

 街のゴミ箱の中身の2割強が家庭から出るゴミ。家庭のゴミ捨てが有料になって以来の現象だ。路面電車の停留所に買い物袋いっぱいの家庭のゴミが「忘れ置かれている」こともあるという。故意に捨てていくのだとヴェルシュさんは言う。チューリヒ市清掃・リサイクリング局(ERZ)のレタ・フィリ広報担当は「ポイ捨てに罰金を科す市町村もあるようですが、チューリヒ市は、ゴミの日を知らせるパンフレットを多国語で出すなどの情報で意識を向上させています。市民に強制することなどできません」と言う。
 
 街のきれいさを問う5年前のアンケートでは、不満だと言う人は1%以下だった。「市民は街が清潔に保たれることが重要なことだと思い、チューリヒはきれいだと思っている」とフィリさんは言う。チューリヒを訪れる観光客がどう感じるかは、別の問題かもしれない。

swissinfo、佐藤夕美(さとう ゆうみ)

<チューリヒ市の1年間のゴミ>

街の清掃で集められたゴミなど 8600トン
所有者のわからない自転車 3250台
街のゴミ箱と犬の糞入れから集められたゴミ 3600トン
清掃員 210人
清掃車 134台
清掃地域の広さ 8011 平方キロメートル
道路の長さ 720 キロメートル
歩道の長さ 1000 キロメートル

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