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盗まれたジョン・レノンの腕時計、ジュネーブで見つかる

オノ・ヨーコ氏がジョン・レノンに贈った腕時計、パテックフィリップRef.2499は数百万ドルの価値があるとされている Keystone

世界で最も注目を集めてきた盗難時計の1つの行方が明らかになった。オノ・ヨーコ氏がジョン・レノンの殺害されるわずか2カ月前に贈った、伝説のパテックフィリップだ。ニューヨークからドイツに渡り転々と持ち主を変えたあと、今はジュネーブで正当な所有者が決まるのを待っている。

全ては1980年、オノがレノンの40歳の誕生日にパテックフィリップRef.2499を贈ったことに始まる。永久カレンダーとムーンフェイズを搭載した、18Kイエローゴールドのクロノグラフだ。裏面には、別居後に2人で作曲した曲にちなんだ言葉が刻まれている。

ゴッサム・シティは、調査報道記者マリー・モーリス氏とフランソワ・ピレ氏が立ち上げた、特にホワイトカラー犯罪に関連した司法判断を監視するニュースレター。

毎週、スイスの金融市場に関係する金融詐欺、汚職、マネーロンダリング(資金洗浄)について、裁判所の公表資料に基づいて報道する。

ゴッサム・シティは毎月1本の記事を選び、追加執筆を行なった上でswissinfo.chに提供している。

Ref.2499は希少モデルだ。1950~85年の間に年間平均わずか9本しか製造されていない。そのため時計コレクターの垂涎の的になっており、購入当時は約7万5千ドルの価値だったが、2018年にサザビーズに出品された同様の時計は390万ドルで落札されている。

2014年には仏誌ル・ポワンが、「ジョン・レノンが最後にもらった誕生日プレゼントに何が起こったのか?それは謎だ」と書いている。「仮に、この伝説的アーティストの伝説的なパテックフィリップが再び姿を現す時が来るとしたら、モデルの希少性と複雑さ、そして何よりその来歴ゆえに、計り知れない価値が付くことだろう」

運転手が持ち逃げ

この伝説の時計がたどった運命は、今年6月7日のジュネーブ民事裁判所の判決で明らかになった。それによれば、レノンの死後に時計を相続したオノが、ニューヨークのダコタハウスの自宅で鍵のかかった部屋に他の遺品と共に保管していた。

そこに登場するのがコラル・カルサンだ。彫刻家オノの専属運転手を10年間務めたトルコ人で、彼女の自宅全室に出入りできる数少ない人物の1人だった。だが、2006年にオノを恐喝したことで2人の信頼関係は崩壊。米国で有罪判決を受けたカルサンはトルコに強制送還された。

現在カルサンには、日記やコンサートの音ネガ、眼鏡、そして例の時計などのレノンの貴重な私物を遺族に無断で持ち去った容疑がかけられている。これらの遺品は2010年にエルハン・Gという別のトルコ人の手に渡り、しばらくしてドイツのオークションハウス「オークショナータ」に売却された。

トルコに逃亡

長い間、オノは何も疑っていなかった。だが2017年にオークショナータが倒産。財産目録を作成していた弁護士がレノンの遺品を発見し、警察に通報した。オノはこれらの遺品をカルサンに譲渡した事実は一切ないと説明したが、カルサンは反論。司法手続きが開始される。そして2019年2月、ドイツの裁判所はエルハン・Gに「盗品授受」の罪で執行猶予付き懲役1年の判決を言い渡した。

盗難や横領の可能性が高いと認識しながら、レノンの私物86点をオークショナータに売却した事実が罪に問われた。一方、オノの元運転手カルサンは、身柄引き渡しを拒否するトルコで現在も逃亡中だ。

善意の取得か?

だがここで話は終わらなかった。有名な時計を始め、多くの遺品がまだ行方不明だったからだ。実際にレノンの時計はオークショナータにより、「時計コレクターで、『時計分野の世界的権威』を自称する長年の時計業界専門家、香港に住むイタリア国籍のA氏」という人物に60万ユーロ(現在レートで約1億円)で売却されていた。

パテックフィリップはオークションに先立ち、2013年11月にこの時計がレノンのものだと証明する鑑定書をオークショナータに提出していたが、時計を鑑定したことをオノには伝えていなかった。

オノが時計の存在を知ったのは2014年6月、A氏から査定依頼を受けたジュネーブの別の会社から連絡があった時だった。オノは即座に時計の返還請求を行った。

本物の専門家?

オノとA氏の法廷闘争が始まった。A氏は、時計は盗まれたものではなく、「仮に盗難に遭っていたとしても、ニューヨークの法律では発覚から3年以内に届け出る必要があったが、(オノは)この時計の盗難を一度も報告しておらず、この件で何らかの手続きを取ったこともなかった」と主張した。

だがジュネーブの裁判所はA氏の主張を一蹴。特に、エルハン・Gがドイツで有罪判決を受けていることを根拠とした。「時計はコラル・カルサンに譲渡されてはおらず、したがって権利なく横領されたものであり、そもそも所有自体が違法であった」とし、オノに時計の正当な所有権があると判断した。

「A氏が時計の取得時点で善意であったかを問題にする必要はない。もっとも、A氏が自身のウェブサイトで自負するように『コレクターズウォッチの世界的専門家』としての専門知識を備えているならば、疑念を持たざるを得ない。A氏は、法廷で20万~40万ユーロの価値があると主張する時計を60万ユーロで購入した一方で、専門オークションハウスはその価値を約400万ユーロと見積もっている」

時計は差押えに

イタリア人コレクターは、判決を不服として連邦裁判所に上訴した。オノの弁護人を務めるボレル&バーべー法律事務所のミシェール・ヴァスメール氏とヴァンサン・ギニエ氏は、ゴッサム・シティの取材に対し、係争中であるとしてコメントを控えた。

では時計は今、どこにあるのか?ジュネーブ民事裁判所の判決文によれば、現在ジュネーブでA氏の弁護人であるB氏に「管理され寄託に付されて」いる。「和解が成立、あるいは所有権について判決が出るまで」保管されるという。

ゴッサム・シティがこの弁護人の身元を知ることはできなかった。ジュネーブ州司法当局は、「訴訟手続きにおけるこの人物の立場に関わる理由から」、判決文では弁護人の名前が匿名にされたと説明した。

仏語からの翻訳:由比かおり

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