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いじめの問題 スイスの学校でのいじめ、なぜいじめは起こるのか?そして対策は?

いじめはグループ現象。外見だけでいじめられるわけではない

(Keystone)

ここ数年、スイスのメディアでひんぱんに取り上げられる学校でのいじめの問題。目・髪・肌の色、言語、国籍、宗教、家庭など、さまざまな容姿やバックグラウンドを持つ生徒たちが集まるスイスの学校。ここではこうした多様性ゆえに、異質なものを受け入れる力が子供たちにあるのではないか?それでもいじめがあるのはなぜだろう?

言葉ひとつを取ってみても、スイスには独・仏・伊語にロマンシュ語と四つの言語があり、外国人も多く、授業で使われる言語を母語としない生徒数は、小・中学校で25%にのぼるといわれる。中には授業の言語を母語とする子供が1人もいないクラスさえある。その多文化が混在するスイスの学校で、小学校で約10%、中学校で2~5%のいじめの被害者がいるという。

子供と青少年専門の心理療法士として、スイスのドイツ語圏で活躍中のヴァルター・ミンダーさんは、これまで国や地方の団体と共にさまざまないじめに関するプロジェクトに関わってきた。スイスインフォはアールガウ州にある彼のカウンセリングセンターを訪ね、いじめの本質やその対策について聞いた。

いじめの定義

一人あるいは数人が、一人あるいは数人を、くり返し長期間にわたって、身体・言語的な暴力や、徹底的に無視することや、あるいは人前で恥ずかしい思いをさせることで、被害者をまったく価値のない人間であるかのように扱うこと。その特徴は、そこに強者と弱者がいること。また、いじめは、加害者、「共犯者」、傍観者、被害者がつくるグループの中で起こる「グループ現象」である。(ヴァルター・ミンダーさんの定義)

swissinfo.ch : ミンダーさんは「いじめはグループ現象である」と定義されますが(右欄参照)、それはどういうことなのでしょうか。

ヴァルター・ミンダー :  いじめは、被害者のまわりにいる加害者、「共犯者」、傍観者が形成するグループ内の現象。自分がいじめの対象になるのが怖くて加害者の側につく子(共犯者)や、見て見ぬふりをする子(傍観者)がいる。

つまり、グループ内に無意識のうちに成立した「暗黙の了解」のようなものがあって、皆がそれに従う。従わないものは罰せられたり、いじめの対象にされたりする。従ってグループ現象だと定義している。

swissinfo.ch : こうしたタイプの子がいじめられるといった、ある種の「タイプ」があるのでしょうか。

ミンダー : 基本的には、すべての生徒がいじめの被害者になりうる。ただ、誰が犠牲になるかは、クラスの雰囲気が大きな要因。また、犠牲になる生徒のタイプというものが多少ある。傷つきやすく抵抗することのできない子、服装とか行動がどこか違う子、気性が激しい子、クラスの仲間に溶け込んでいけない子などだ。

ヴァルター・ミンダーさん

(zVg)


swissinfo.ch : では、太っているとか違う言語を話すといった、一般的に考えられる異質性が問題ではないということですか?

ミンダー : 前述のように、いじめはその子とグループの関係による。クラスに外国人が一人だけ、またはスイス人が一人だけという場合もあるだろうが、それだけでいじめられるわけではない。同様に、太っているだけでいじめられたりはしないが、太っていて気が弱くクラスの雰囲気に溶け込めないなど、他の要因が重なるといじめられやすい。

 

それと、ある子供がいじめられるかどうかは、そのグループの中に守ってくれるような友達がいるかどうかも決定的な要因になる。

いじめの問題で学校を訪問すると、本当に異質なものを持った子がクラスにいるのだが、そういう子は逆にクラスの人気者であることが多い。いじめられるのは大抵ごく普通の子だ。メディアも、残念ながら教育の専門家さえも、いじめの被害者の異質性の問題に焦点を当てがちだが、そこで見えなくなるものがある。私が強調したいのは、いじめはグループ現象で、最大の問題は被害者にあるのではなく、グループの方にあるという点だ。

swissinfo.ch : いじめられないようにするには、どうしたらよいでしょうか。

ミンダー : 被害者の努力のみで、いじめが解決されることはまれだ。教師と親が積極的に対処し、グループの中の「暗黙の了解」を崩すことが大切だ。教師と親の力量が問われる。

例をあげると、ある小さな町に11歳の男の子がいた。家は町のはずれにあり、その子は学校で唯一の農家の子供。学校では誰もその子と口をきこうとしなかった。悩んだ両親が私のところに相談に来て、結局、春にクラスの男の子全員を農家に招いてパーティーをすることにした。春なので、動物の赤ちゃんがたくさんいた。何人かのお母さんも子供に付き添って来た。それは大成功で、その後その子が仲間外れにされることはなかった。心理学的な治療などの必要がないよい例だ。

いじめの種類

ミンダーさんによれば、いじめには大きく分けて3種類ある。まず第一は侮辱。容姿、服装、血筋、家族、気の弱さ、不器用さなどを理由に、その子の存在が不快なものであるかのように、繰り返し徹底的に攻撃すること。

第二に排除。体育の時間にチームを組むとき、誰も一緒になりたがらないなど、いわゆる仲間外れにする。それに加え、話す自由を奪うこと。その子が何か言うと、他の子どもたちが聞こえないふりをしたり、口出しするなと言ったりする。皆がその子がそこに存在しないかのようにふるまう。

最後に身体的ないじめ。ちょっと小突いたりするだけでも、毎日数人の子から何回も繰り返されると非常につらいもの。しかもその行為を周りの子が面白がったすると、その子はとてもみじめな気持になる。金銭を請求したりする脅迫もこのカテゴリーに入る。また最近、ソーシャルメディアを使ってのいじめが増えている。

いじめの一例 

13歳のある中学生は、ある生徒が長期間にわたって、多数のクラスメートにいじめられているのを見ていた。たいてい体育の後の着替え室でだ。着替え室には先生は入ってこない。数人がその子を叩いたり蹴ったり、服を濡らしたりするのを、誰かが携帯電話で写真を撮ったりした。その子は絶望しきっていたが、誰にもそのことを言わなかった。間違っていると思いながら観察していたその生徒も、担任に報告しなかった。状況が極度に悪化して初めて、いじめが明るみに出た。学校側が厳しい姿勢で対処することにより解決に至った。

swissinfo.ch : ミンダーさんはインターネットに載せた小論文の中に、「加害者が被害者の性格を定義する」と書いていますが、被害者が加害者に定義された性格を、自分でも信じてしまうことがありますか。「お前は生きる価値のない人間だ」と繰り返されると、本当にそうだと思ってしまうようなことが。

ミンダー : 残念だが、それは事実だ。それはその子に大きな傷を与え、自殺につながる危険性もある。

swissinfo.ch : いじめが原因で自殺したりするケースがスイスでもあったのでしょうか。

ミンダー :  いじめに悩む子が心身を病むのは、珍しいことではない。いじめの他にも心理的に重荷になる問題がある場合、あるいは相談できるような人がいない場合、自殺してしまうケースもある。

swissinfo.ch : ミンダーさんは心理療法士です。いじめられる子の療法として、どのような方法をとられるのですか。

ミンダー : 子供たちが回復し、強くなり、グループの攻撃の的にならないようになることが目標だ。自分の意見を主張したり、友達をつくる能力を身につけることだ。

私のカウンセリングセンターには砂場があって、そこで子供と遊びながら、学校での人間関係を砂で再現してみる。大きな子供とは普通に話をしながら、状況を分析し今後の対策について考える。気の弱い子供たちとボクシングをすることもある。ボクシングをしながら、自分で自分のために戦うことに抵抗を感じなくなることができるからだ。

swissinfo.ch : いじめっ子を殴り返して、いじめられなくなった例もあると聞きました。

ミンダー :  加害者は複数で被害者は一人であるため、暴力があっという間にエスカレートした場合、被害者がやられる危険性がある。そのため、殴り返すのは勧められない。ボクシングを一緒にするのは。加害者を殴り返すためではなく自分に自信をつけるためだ。

swissinfo.ch : いじめる方に、共通した性格がありますか。

ミンダー : 何か問題が起こったときに、腕ずくや悪知恵でそれを解決してきた子が、いじめっ子になりやすい。家庭に大きな問題のある子。いじめの動機としては、家庭でかわいがられている子供に対して感じるねたみとか、成績のいい子に対する嫉妬などが挙げられる。いじめられた子がいじめっ子になるというケースも多い。

swissinfo.ch : いじめの対策について聞かせてください。

ミンダー : 深刻ないじめが起こった場合、教師と校長は専門家に援助を求めなければならない。対策には三つのレベルがあり、ほぼ同時に進められていく。

第一は個人レベル。カウンセラーと、加害者と被害者とその保護者たちとの間で、長期間にわたる治療が行われる。

第二はクラスのレベル。カウンセラーが匿名のアンケートなどでそのクラスを調査し、担任がクラス内の力関係・人間関係を改善し、コントロールを強化しなければならない。例えば、グループ分けを生徒の意思ではなく担任が行ったりする必要がある。

第三は学校全体のレベル。学校全体が一丸となって、いじめの問題に取り組んでいくことだ。

また、いじめが起こる前に、ホームルームでいじめをテーマにするとか、いじめを予防するような規則をつくるとか、いじめがこのクラスでは許されないことをはっきりさせるのが大切。家庭でも、両親が注意深く愛情を持って子どもと話し合い、子供が自分の感情をコントロールできるような教育をするべきだ。

swissinfo.ch : いじめが起こった場合どのように対処するべきか、教師たちは十分な教育を受けているのでしょうか。

ミンダー : いじめがすでに起こった場合には、対処が難しいことが多いので、専門家に援助を求めることが勧められる。しかし、いじめの予防はクラスの担任の責任であり、どのようにクラスのマネージメントを行っていくか、あらかじめ熟考するべきだ。この点において、教師の再教育をさらに強化する可能性を探る必要もあるだろう。というのも、たとえ熟練した教師でもクラスのマネージメントは容易なものではなく、同時にこれはいじめの予防として不可欠なものだからだ。

ヴァルター・ミンダーさん(Walter Minder) 略歴

アールガウ州のバーデンにカウンセリングセンターを開設し、子供・青少年と保護者に心理療法をする傍ら、教師や教育関係の専門家たちを対象とした講習会を開く。また、いじめが発生した場合の危機介入マネージメントも行っている。2010年までスイスの連邦内務省保健局で、いろいろなリスクをはらむ成長過程にある青少年を、早期発見・早期介入によって保護する数多くのプロジェクトを提案。国や地方の団体とともにそれを実現してきた。

swissinfo.ch


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