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ブログ「もっと知りたい!スイス生活」


いつも一緒、1本の木から生まれたカルテット


仏語でルティエ(Luthier)という職業がある。バイオリンやチェロなどの弦楽器を作る人のことだ。元々はリュート(Luth)と呼ばれる、中世からバロック期にかけてヨーロッパで盛んに演奏された古楽器を製作する人をさしていた。近隣の村に、四重奏を奏でる4挺の弦楽器をすべて同じ1本の木から作ったルティエがいるという。早速訪ねてお話しを伺った。

 ピエール・ルイさんはビエンヌ湖を見下ろすワイン倉にアトリエを構えている。アトリエと湖の間にはぶどう畑が伸び伸びと広がる。音楽は自然を音で表現しようと試みて創られたと読んだことがあるが、ドメーヌの敷地にしばし佇んでいるとおおらかなシンフォニーが大地から湧き上がってくるような気がした。

制作中のピエール・ルイさん (swissinfo.ch)

制作中のピエール・ルイさん

(swissinfo.ch)

 ルティエといっても、弦楽器の修理やメインテナンスを主にする職人が多い中で、ピエールさんは創り出すことにこだわってきた。木が弦楽器に変容する過程を体感することがルティエの醍醐味だという。木を選び、何カ月もかけて楽器を作りミュージシャンに手渡す。それで終わりではない。その後も奏者が納得する音を出せるようになるまで根気よく付き合う。そうしてこれまで80挺あまりの弦楽器を作って来た。ピエールさん自身も弦楽器奏者で地元の室内楽団の一員でもある。それ故か、ピエールさんにはミュージシャン本人すらも気づいていない潜在能力を見抜く力があるようだ。 注文されたものよりもその隠れた才能に合う 楽器を選び「試してみたら」、と提供してミュージシャンの新しい音創りのきっかけを作ることがよくあるという。

1本の木から生まれた4弦楽器 (swissinfo.ch)

1本の木から生まれた4弦楽器

(swissinfo.ch)

 「新しい楽器がやっと聴きたい音を出してくれるようになった、とクライアントは言うけれど、それは楽器が 奏者に馴染んできたのではなく、奏者が楽器に馴染んできたということなんです。」とピエールさん。 相手を無理に変えようとするのではなく、自分が変わる、ということか。それは私がやっているコーチングと同じだ。何らかの目標を達成したいと思うなら、一番効果的な方法は自分が変わること。自分を変えることは100%自分でコントロールできるからだ。人や環境は直接変えられないけれど、自分が変わることによってその影響を受けた人や環境も変わる。そうして自分を変え周囲の環境を整えてゆけばゴールにたどり着くことができる。でも、自分を変えることは難しい。自分に対する思い込みや、常識という固定観念に縛られて、或いは安住していて変えるきっかけがつかめないからだ。「私には無理」「もう若くないからできない」「家族がいるから不可能」等々。そこに光をあてて「本当にそうですか?」とツッコミを入れるのがコーチだ。行き着きたいゴールが心からのもので、潜在的に自分を変える勇気を持つ人はそこでつと考えに耽る。そうでなければ即座に「無理」という返事が返ってくる。自分の可能性を信じずに「不可能」というレッテルを貼ってしまったら自ら足枷をつけるようなもので、何処にも行けなくなってしまう。

 そうか、ピエールさんはミュージシャンのコーチでもあるのだ。例えばあるバイオリン奏者が、自分はこの手の楽曲でこの手の弾き方が一番得意、これしかできないと思っているところに、ピエールさんが「本当にそう?こんなのもあるよ」と自分では絶対選ばないようなバイオリン数カ月貸してくれる。すると奏者は新しい経験を通して自分自身と自分の音楽をイノベートするのだ。

弦楽器製作用の小さな鉋 (swissinfo.ch)

弦楽器製作用の小さな鉋

(swissinfo.ch)

 小柄なピエールさんだが、お話しを伺っていると大地を俯瞰しているようなおおらかさを感じる。1本の木からバイオリン2挺、ビオラ、チェロからなるカルテットを創ろうという発想もピエールさんの人間の大きさの表れかも知れない。きっかけはルティエ専門学校時代の同級生だった。素晴らしい楓の木材を譲ってもいいとピエールさんに持ちかけてきた。一つの条件付きで。その木から創られた楽器は全て常に共にあること。離ればなれにしないこと。ピエールさんの心が震えた。それから数年後、1本の木から創られたカルテットができあがった。その四重奏を初めて聴いた時、えも言われぬハーモニーにピエールさんは泣いてしまったという。私は未だその音を直に聴いていない。早く聴きたくてたまらない。1本の母なる木から生まれた4兄妹はどんな物語を語ってくれるのだろう。

 ピエールさんの製作過程を追った写真集や50分のドキュメンタリーフィルムももうすぐ完成する。

 ピエールさんは今メセナを探している。大自然が育てた1本の楓が一人のスイス人ルティエによって4挺の弦楽器に生まれ変わった。そのロマンスと情熱を共有し、4挺の弦楽器がいつも一緒に奏でられるようにコンサート活動をサポートしてくれるメセナを探している。興味のある方はFaceBookB経由で私(Eli Fumoto)までご連絡下さい。

後ろ姿も美しいカルテット (swissinfo.ch)

後ろ姿も美しいカルテット

(swissinfo.ch)

 麓絵里(ふもとえり)

プロフィール:麓絵里

大阪生まれ、奈良育ち。1990年よりスイス在住。証券会社、新聞社、製薬会社勤務を経て現在、創造性やグループ・インテリジェンスを育てるコーチ、ファシリテーター。コーチング・メンタリング修士(Oxford Brookes University)、PMP (Project Management Professional)、Time to Think Ltd. (UK)  Facilitator. 



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