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スイスの司法 まるで宗教裁判?検察官が判決を下せるスイス

司法手続き

ドイツの公判手続きの様子。公判は被告人にとって気まずいこともあるが、スイスの略式命令なら判決の内容を他人に知られることがほとんどないという利点がある

(Keystone)

スイスでは有罪判決の9割以上を裁判官ではなく、検察官が下している。その理由はスイス式の「略式命令」にある。この制度には賛否両論あるが、コストが圧倒的に低いのが特徴的だ。

 スイスのメディアには最近、こんな見出し他のサイトへが躍った。「連邦検察官、『イスラム国(IS)』信奉者に執行猶予付き実刑判決を下す」。外国人なら驚いて目をこすったかもしれない。事件を調査し、被疑者を起訴するのは検察官、そして判決を下すのが裁判官というのが三権分立の原則ではなかっただろうか?

 ただ、この原則はスイスではフレキシブルに解釈される。スイスの刑事訴訟法他のサイトへでは、検察官(連邦検察官他のサイトへを含む)は最長6カ月の禁固刑および罰金刑または科料を言い渡せる上、没収できる財産額に上限はないと定めている。判決は書面で伝えられ、判決理由は記載されない。スイスでは犯罪事案の90~98%がこの略式手続きに則り、略式命令という形で刑罰が言い渡される。

Strafbefehl

ラジオ放送

スイス公共放送(SRF)、2017年9月23日放送の「Echo der Zeit」

 略式命令に関する詳細な数字はない。そのため、チューリヒ大学のマルク・トメン教授他のサイトへ(法学)とヌーシャテル大学のアンドレ・クーン教授他のサイトへ(法学)はスイス連邦科学基金の研究プロジェクトとして「略式手続きの統計データ」をまとめようとしている。

世界的傾向の先を行くスイス

 トメン教授によれば、他の国々も同じ問題、つまり司法界の人材・財源問題に頭を悩ませている。検察官と被告人の間の司法取引や起訴猶予処分を採用する国は多い。「判決の権限を検察官に委ねることが世界的な傾向になっている」とトメン教授は言う。

実例1

血液型の違う心臓を移植して患者を死亡させたとして、ある男性医師が起訴された。この医師には業務上過失致死罪で約4万フラン(約440万円)の執行猶予付き罰金刑および5千フランの科料が略式命令で言い渡された。

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 略式命令に関してはスイスは世界的傾向の先端を行っている。検察官が裁判官の介入なしに量刑を定められるのはスイスだけだ。このスイス式の略式手続きは1919年にチューリヒ州で採用され、2011年には連邦レベルで導入された。連邦議会では法律上の観点から懸念の声が挙がったが、連邦議会議員の過半数および関係団体の代表者らは「略式命令に不服申立てができれば十分」との考えだった。これが実際、略式命令を正当化する理由としてたびたび登場する。被告人に不服申し立ての権利がある限り、略式命令は単に「判決の提案」であって「判決」ではないとされる。

殺人罪の量刑も検察官が判断

 スイスの法律では検察官が決められる量刑には上限があるが、対象は全ての犯罪に及ぶ。法律に定められた量刑を検察官自身が「十分」だと判断する限り、微罪だけでなく軽犯罪や重い犯罪も裁くことができる。

実例2

ある男がフェイスブック上に「イスラム国」の宣伝動画と写真を載せた。連邦検察官はこの男に執行猶予付き懲役6カ月、科料2千フランの略式命令を下した。

インフォボックス終わり

 略式手続きの対象は元々、万引きや軽い器物破損などの軽犯罪を想定していた。トメン教授は、敵対する勢力を懐柔などによって少しずつ滅ぼしていく「サラミ戦術」がスイスの立法手続きではよく見られるといい、「略式手続きはその典型例」と話す。当初は軽犯罪だけが対象だったはずなのに、今ではそれより程度の重い犯罪も含まれているからだ。

 スイスの刑法他のサイトへによれば、最も軽い刑罰の対象となる犯罪には窃盗罪、横領罪、重傷害罪、嘱託殺人罪、子殺し(母親が出産直後に自分の子を殺害した場合)、陵辱罪、人身売買罪、過失致死罪などがある。マルティン・シューバルト元連邦最高裁判事によれば、被告が心神耗弱と認められる場合、殺人罪も略式命令の対象になりえる。つまり略式命令の対象は「軽い犯罪」に限られているとは言えない。

Strafbefehl (1)

ビデオ

スイス公共放送(SRF)、2016年4月22日放送「Schweiz aktuell」

不服申し立てで、再び検察官の元に

 スイスの学界は略式命令に批判的だ。シューバルト氏は「略式手続きは宗教裁判時代への逆戻りにならないだろうか?」と疑問を投げかける。またフランツ・リクリン名誉教授(刑法)はこの制度を「異端審問のように迅速な裁判手続き」と評する。チューリヒ州の略式手続きに関しては、すでに1919年にある学者が「(検察官は)原告、弁護人、裁判官を兼ねていた宗教裁判の審判と同等だ」と不満を述べている。

実例3

アルゼンチンのサッカー業界の幹部が使用する銀行口座を不法に開設し、賄賂の振込先だったアルゼンチンのスポーツ系広告会社の銀行口座を管理していたとして、スイスの銀行員の男が文書偽造罪および資金洗浄防止法の申告義務違反で起訴された。連邦検察官は行員に対し、執行猶予付きの罰金3万フランと科料8千フランを言い渡し、さらに65万ドル(約7100万円)を没収した。

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 教授資格論文で略式命令について執筆したトメン教授も「略式命令の不服申立て先が検察官であることは問題」とし、改善の余地があると考える。検察を監視下に置くには、略式命令に不服がある場合は裁判所に申し立てが出来るようにするべきだという。

 また「透明性の欠如」は特にジャーナリストたちが批判している点だ。略式命令は一般公開されず、閲覧は出来るものの、手続きには数々の障害がある。これは政府の司法介入他のサイトへ(秘密裁判)と言える。

略式手続きには利点も

 一方で、略式手続きには圧倒的な利点がある。それは被告人にとっても迅速で費用が安いという点だ。さらに被告人には非公開というボーナスまでついてくると、トメン教授は言う。「被告人には略式命令は魅力的だろう。裁判手続きが公開されることはなく、判決の詳しい内容を知られることがないからだ」。略式命令は検察で数日間公表されるが、それをわざわざ見に来る人はほとんどいないという。

 こうしたことから、略式手続きがすぐに廃止されることはないだろうと、トメン教授は予想する。「他の手段はコストが高すぎる」と教授。「略式命令はすでに現実として存在する。私たちはこの制度と折り合っていかなければならない」

Gewaltenteilung

ビデオ

スイス公共放送(SRF)、2017年11月12日放送「mySchool」

他国では?

スイスと同様の略式命令制度がある国はまず聞かない。しかし別の方法で裁判の迅速化を目指す国は多い。

ドイツ:略式手続きはあるが、軽犯罪だけが対象という点はスイスと異なる。また略式命令を出すのは裁判官で、検察は単にそれを請求するのみとなっている。

オーストリア:裁判官は「委任手続き(Mandatsverfahren)」の下、裁判手続きなしに量刑を定めることが出来る。軽犯罪のみが対象。

日本:簡易裁判所が検察官の請求に基づき、公判手続きによらず刑罰を決める。100万円以下の罰金・科料に相当する事件が対象。6月1日には、他人の罪を明かす見返りに求刑の軽減などを受ける日本版の司法取引制度が始まる。

ブラジル:軽犯罪は特別民事裁判所(Juizado Especial)が口頭の迅速手続きで審判する。

イギリス:固定罰金通知(fixed penalty notice)がある。元々は駐車違反が対象だったが、現在では道路交通法違反、規律違反で多く適用されている。刑は罰金のみ。

米国:この国で伝統的に採用されている司法取引は他国にも広まっている。自分の罪を認める代わりに、検察官が求刑の軽減または罪状の取り下げを行う。

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(独語からの翻訳・鹿島田芙美)

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