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スイスの日本人ロボット研究者


脳ではなく、体が理解する世界に挑む


鹿島田 芙美(かしまだ ふみ)


ひざ型ロボットを紹介する飯田史也さん (swissinfo.ch)

ひざ型ロボットを紹介する飯田史也さん

(swissinfo.ch)

チェスで人間を負かすなど、コンピューターの計算処理能力はここ数十年で格段に進歩した。だが、人間の動きができるロボットはまだ実現していない。そんな中「知能は脳ではなく、実は体にあるのではないか」と、逆説の発想からロボット研究に取り組む日本人研究者がチューリヒにいる。

 スイス最大の都市チューリヒの中心街に位置し、スイス国内外から世界トップクラスの人材が集まる連邦工科大学チューリヒ校(ETHZ/EPFZ)。ここに、東京都出身の飯田史也助教(38)が室長を務めるバイオロボティクス研究室がある。

 構内の地下にひっそりと隠れるようにある研究室では、一見「これはロボットなのか?」と疑ってしまうほどシンプルな構造のロボットが数多く開発されている。例えば、跳ねながら前進するカンガルー型のロボットや、犬のような滑らかな動きをする4足だけでできたロボットなどだ。

 そのどれにも共通するのが、「シンプルな体の構造を生かして動く」ということ。体にセンサーもついてなければ、体の動きを事細かに計算するコンピューターも装備されていない。「面白い体があれば、頭がなくても面白い動きができるんですよ」と飯田さんは言う。

頭が先か、体が先か

 過去50年間、ロボット工学では「頭(コンピューター)」が良ければ良いほど、つまり計算処理能力が高いほど、ロボットはさまざまなことができると考えられてきた。コンピューターの進歩は目覚ましく、今ではチェスで人間を打ち負かせるほどのコンピューターも存在する。

 しかし、飯田さんに言わせれば「今までのロボットは、頭だけ育って、体は赤ちゃんのまま」。どんなに性能が向上しても、人間のように滑らかに歩くロボットの開発はおろか、アリのようにほんのわずかな脳みそを持つ生物すら、ロボットとして再現できていない。

 「頭」を重視した研究に疑問を持った飯田さんは、東京理科大学で修士号を取得後、ロボット工学の権威であるロルフ・プファイファー教授(チューリヒ大学)の下で博士課程に進む。

 「初めてのプロジェクトは、生物学者と一緒にミツバチの生態を観察するということでした」

 目の形やレンズ、骨格の構造。こうした特別な体の構造のおかげで、ミツバチは人間の1万分の1ぐらいの大きさしか脳がなくても、自分の場所や、巣から現在地までの距離を把握していることを突き止めた。「大発見だったのは、彼らは目をよく使っているということ。空間や地形を限定しない環境でエサを探して巣に戻ってくるなんて、どんなロボットにもできません」

自分の体=自分の世界

 スイスで博士研究を進めていく中で、ミツバチなどの自然を観察することの大切さを実感した。「ヨーロッパは科学の歴史の重みが違う。米国だと効率重視で、基礎研究に重点が置かれていない。その点、スイスのロボット学者は生物をよく観察して、基礎研究を大事にする。自分の研究はここスイスでしかできないと思います」

 生物を観察していくうちに、自分の位置を特定するなどの「知的」な行動は、体の構造が特別だからできるのでは、と飯田さんは考えるようになった。そこで注目したのが、脳から最も離れた足だった。「足って面白いんですよ。例えば、ひざの反射では脳に関係なく足が勝手に動く。足が軽くないと、移動する際コントロールが難しいっていうことも、ロボットを作っていく上で分かってきました」。木でできたひざ型ロボットのけい骨部分を上下に動かしながら、飯田さんは説明する。

 頭で考えなくても、体は動く。つまり、体の構造が、私たちのできる動きを決める。そこで、飯田さんは「体がなければ頭(知能)は発達できないのでは」と仮定した。

 人間には人間の体を通さないと理解できない「世界」があり、空を飛ぶ生物もまたその独特な体で独自の「世界」を理解している。人間の赤ちゃんが見る世界も、大人が見る世界もまた異なる。つまり、体が変形(成長)することが知能に大いに関わっていると、飯田さんは言う。

 「そもそも『知っている』って何だろう?っていうことにすべてが行き着くんですよね。例えば、我々の知っている『水』。これをロボットに見せて、ロボットがこれを『水』だと答えたとしても、本当にロボットがそれを『我々が知っている水』だと知っているかどうか、分からない」

「知能」はどこに?

 飯田さんがロボット工学の道に進んだそもそものきっかけは、「知的であるとはどういうことなのか」という謎を明らかにしたかったからだ。

 人は大昔から、知能について考えてきた。「中世の人は、『知能』は血流の中にあると考えていたんです。血がなくなると人は死ぬから。だけど、解剖学が発展していくにつれて、『知能』はどうやら心臓にあるようだと人は考えた。さらに時代が進むと、心臓ではなく脳ではないかと。そこで今度は我々が、『脳ではなく体そのもの』ではないかと仮定してみたんです」

 では一体「知能」とは何なのだろうか?「答えはないですよ」。飯田さんはあっけらかんと答える。「『知能は定義ができないものである』というのが我々の立場です。時代によっても、文化によっても定義が違ってきますから」

 さらにこう続ける。「そもそも、『知能って何だ?』ってみんな分かっていない。分かっていないのだから、分からないでもよしとした方がいい。むしろ分からないからこそ、新しい発想が生まれる。昔から知能について考えてきた哲学だってそんなものです」

飯田史也氏略歴

1974年生まれ。

1999年、東京理科大学工学研究科修士課程修了。

2006年、チューリヒ大学理学部博士課程修了(理学博士)。同年から2009年まで、米マサチューセッツ工科大学ポスドク研究員。

2009年から現在、連邦工科大学チューリヒ校(ETHZ/EPFZ)で助教を務める。同大学バイオロボティクス研究室の室長を務める傍ら、スイス連邦基金(SNF/FNS)のもとで生物をまねたロボット研究にも励む。

現在は特に、「グローイング・ロボット(Growing Robot)」という成長できるアーム型ロボットに情熱を注いでいる。これは熱可塑性のプラスチックを使って、自分に必要な部品を自分で考え、それを自分で作って装着するロボット。「知能」の発達プロセスの解明に役立つと期待される。


チューリヒにて, swissinfo.ch



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