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ソーラーインパルス


ソーラー・インパルス2 世界を一周しながら技術革新の推進 !




2013年に行われたコックピット内のテスト。ソーラー・インパルスでは、現在の飛行機とは全く関係のない分野で、数多くの技術革新が行われた (Fred Merz/Rezo/SolarImpulse/Polaris)

2013年に行われたコックピット内のテスト。ソーラー・インパルスでは、現在の飛行機とは全く関係のない分野で、数多くの技術革新が行われた

(Fred Merz/Rezo/SolarImpulse/Polaris)

世界一周のチャレンジを続けるソーラー・インパルス2。数日後には南京からハワイに向け、連続5昼夜という最長の飛行を行う。この間、操縦士が眠り込まないように「目覚まし装置」が開発されている。この太陽エネルギーだけで飛ぶ電動飛行機は、その名「インパスル(推進)」のように、技術革新を進めることが目的で、今の飛行に取って代わることではない。他にどんな技術革新があるのか?探ってみた。

 翼幅はボーイング747より 広いが、重量は自家用車程度のソーラー・インパルス2(Si2)は、天候が良いときだけに飛行する。速度は時速90キロを超えることはない。

 従って、これより10倍の速度で年間50億人以上の客を運ぶ航空会社が、太陽エネルギーだけに頼る飛行機に転換することはあり得ない。たとえ、世界中の航空機のガソリン消費量が現在、毎秒1万1500リットルに上るとしてもだ。

 この冒険を思いたった精神科医で操縦士のベルトラン・ピカールさんは、2003年にプロジェクトを開始した時から、次のように言い続けている。「このプロジェクトの目的は、革新的なパイオニアの精神をもっと推進することだ。そして人々が、特に再生可能エネルギーやクリーン技術の分野で意欲的な目標を掲げ、問題意識を持ちながら前進するよう勇気づけることだ」

限界を超えて

 「革新、開発」という言葉を聞くと、スイスではまず二つの国立工科大学が頭に浮かぶ。その一つの連邦工科大学ローザンヌ校(EPFL)では、20の研究室がソーラー・インパルスのプロジェクトに初期から協力した。 

 「このタイプのプロジェクトは、非常に刺激的なため研究者が限界を超えて前進し、それまで存在しなかったものを作り出す」とこのプロジェクトに関わる研究者たちを指揮するパスカル・ヴィヨムネ氏は言う。「それに、異なる研究室の教授、助手、学生が一緒に仕事し、以前は存在しなかった協力関係が生まれる。さらに、材料工学のイメージがつかみにくい(将来同校を目指す)高校生たちに、具体的なものを提示して説明できる」

 では、材料工学で作り出されたものとは何だろう?ソーラー・インパルスは非常に軽くかつ頑丈でなければならなかったが、そのための「新材料開発」が一つの例になる。EPFLのすぐ近くに、複合材料の製造で先端を行く企業North TPTがある。ここは、炭素繊維と樹脂を混合して作る「炭素繊維複合材料」を製造し、もう一つの企業Decision SAは、それを使って形に仕上げる。

 「EPFLの二つの研究所が、こうした複合材料をまずは開発し、二つの企業に製造を依頼した。開発は、まるで料理を作るみたいなもの。この温度で、これだけの圧力で、これだけの時間で炭素を『蒸す』という工程の設定を、作り出したい部品によって変えていった」とヴィヨムネさんは説明する。

 こうした研究の結果、ソーラー・インパルスは前例のないほど軽く、頑丈に出来上がった。また、製造を行った二つの企業は、この工程で得たノウ・ハウを使って、船舶や宇宙船に応用していくことができる。

軽量とエネルギー効率

 ところで動力は、1万7248枚の太陽電池パネルからの発電だが、このパネル自体は革新的なものではない。ここで再び重要になるのが、いかにこの既存のパネルを軽くするかだ。パネルを屋根に設置するときのように外装をガラスにするのは、問題外だ。そこでEPFLは、非常に軽く、柔軟性もある透明なプラスティックをパネルに使ってみた。これはベルギーの化学大手ソルベイが開発した製品だ。

 また、ソーラー・インパルスがなるべく少ないエネルギーを使って飛ぶには、エネルギー効率を高めなくてはならない。そこで、EPFLのいくつかの研究室が共同で開発した結果をヌーシャテルの企業Etelに提案。Etelは電気モーターのエネルギー効率が96%のものを製造した。

 「確かに、96%の効率は現在すでに使用されている電気モーターに比べ、少しの向上でしかないかもしれない。しかし、ソーラー・インパルスのようなプロジェクトがなければ、このためにエネルギーも時間も費やさなかっただろうし、わずかな向上でも、それは非常に重要だ。もしかしたら飛行機以外のものに応用できるかもしれない」(ヴィヨムネさん) 

 この応用が、時に意外なところに現れる場合がある。実は、ソーラー・インパルスのパートナーである、エレベータ製造大手シンドラーエレベータは、EPFLの研究室との協力で、「初めてのソーラー・エレベータ」を開発している。

眠らないで !

 コックピット内でも多くの技術的革新が使われている。時計大手のオメガは、コックピット内に電気を供給する変換器を特別に開発し、「市場に出回っているどれよりも、軽くコンパクトで効率の良いもの」を作り上げた。

 コックピット内で一番心配されるのは、操縦士が「起きている状態」であることだ。コックピット内は1人しか入れない。そこでは2人の操縦士ピカールさんとアンドレ・ボルシュベルクさんのどちらか1人が、長くて今回の南京からハワイに向けての飛行のように5昼夜の連続飛行を行う場合もある。そうした場合、彼らはヨガや催眠術で約20分間の休息を取りながら(その間は自動操縦に切り替えて)飛行を続けるが、眠り込んではいけない。

 そこで、「目覚まし装置」が開発された。「この装置は、呼吸や心臓の鼓動、脳の機能をキャッチし、カメラが目とあごの筋肉の動きを捉える」とEPFLのスポークスマン、エマニュエル・バロウさんは解説する。「ここで、さらに開発されたのが、軽くて電力消費が少ない超小型のコンピューター。これが、様々なデータを複合して分析し、操縦士が眠り込もうとしている状態であるかを、正確に伝達する」

 ただ瞼が動いているだけなら、太陽の光がまぶしいのか空気が乾いているせいかもしれない。しかし、もしあごの筋肉が緩み、心臓の鼓動がゆっくりしてきたら、それは操縦士が眠り込もうとしている証拠だ。そうすると、装置は警告を発する。

 「この技術は、自動車の運転にも応用できるかもしれない。もちろん、電線が詰まったヘルメットを運転のたびにかぶるわけにいかない。しかし、目の動きの方に集中して研究を進めれば、自動車の居眠り運転の予防に使えるかもしれない」(バロウさん)

 自動車、太陽電池パネル、建築、船舶、宇宙船、エレベータ、バッテリー、電気モーター、コンピューター。こうしたものすべての技術革新をソーラー・インパルスは推進したことになる。ただし、飛行機そのものの技術革新を除いて…

数字で見るソーラー・インパルス

飛行距離 3万5千キロメートル

合計飛行時間 500時間

最高巡航高度 8500メートル

速度 毎時36〜140キロメートル(高度による)

プロジェクト期間 5カ月(2015年3〜8月)

コックピット容積 3.8立方メートル

1人乗り 最長で5〜6昼夜連続で飛行

天候条件 マイナス40〜プラス40℃

酸素ボンベ 6台搭載

パラシュート 1台

救命ボート 1台

1日に食料2.4キログラム、水2.5リットル、スポーツドリンク1リットル

翼幅 72メートル(ボーイング747より広い)

平均的自家用車と同程度の重量(2300キログラム)

リチウム電池 633キログラム

太陽電池パネル 1万7千枚(厚さは各135ミクロン)

構想開始 2003年

チーム構成員 70人

パートナー企業 80社

予算 1億5千万ドル(約178億円)


(仏語からの翻訳・編集 里信邦子), swissinfo.ch

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