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ソーラー・インパルス2、「うれしい驚き」になった名古屋着陸

ソーラー・インパルス2を見学し、目を輝かせる小中学生たち Solar Impulse/Pizzolante/Rezo.ch

UFOの飛来かと騒がれた電動飛行機ソーラー・インパルス2が、名古屋に着陸してはや10日。高い関心を呼び、多くの人々が県営名古屋空港を訪れた。そして昨日10日には、機体の準備が完了。天候さえ整えば、明日にでも本来の目的地ハワイに向け飛び立つ。「柔軟な対応で温かく受け入れてくれた日本に心から感謝する」というメッセージを残しながら。地上で飛行を支えるソーラー・インパルスチームの1人、広報担当エルケ・ノイマンさんに、名古屋での様子を聞いた。

 スイスで会社を経営するノイマンさんは、仕事を8カ月休んでソーラー・インパルスチームに参加している。動機は「ソーラーエネルギーだけではなく、エネルギー効率の高いクリーンテクノロジーの推進をメッセージに掲げ、世界を変えるかもしれないこのプロジェクトを支援したかったから」。ほかのスタッフも、ドイツ、イタリア、カナダなどから、ほとんどが彼女と同じ考えで参加している。

 急遽決定された名古屋着陸。そのため、日本人の高い関心と歓迎ぶりは、「うれしい驚き」になったと話すノイマンさんに、操縦士のアンドレ・ボルシュベルクさんやチームの様子、またこれから始まる「挑戦のとき」について聞いた。

 なお、最後の質問「ハワイへの飛行での一番のリスク」に関しては、モナコの司令室の広報担当コナー・レノンさんに聞いた。

swissinfo.ch : アンドレ・ボルシュベルクさんは10日前に着陸しましたが、今の日本での様子を教えて下さい。

エルケ・ノイマン: まず、普通は先発隊が大型のテントを建て、中に機体収納庫と事務所を作り、飛行機の到着を待つ。ところが今回は急に名古屋着陸が決まったので、機体が到着してから臨時のテント状の機体収納庫を空港内に設置することになった。アンドレはその設置作業に加わったり、少し破損した翼の修理をしたりするなど、はじめの3日間ハードに働いた。

その後は、数日の休暇を取り(日本に来た)彼の家族と会ったり、ヨガの練習をしたりして、次の出発に向け準備を整えている。

急に決まったのに、日本側は柔軟に対応し温かく受け入れてくれ、アンドレは感動している。小牧空港のスタッフはいろいろな便宜を図ってくれた。ソーラー・インパルスは普通の飛行機と違うので、その点を配慮してくれた。

実は、彼はずいぶん前に1年間東京で仕事をしたことがある。それで、日本の文化を理解しているし、いつか日本に戻ってみたいと思っていたので、今回こんな形で来日でき幸せだと言っている。

swissinfo.ch : ハワイへの飛行は危険なものです。精神的な準備は整っていますか?

ノイマン: 12年間も準備をした後のこの太平洋横断は、まさに「夢が現実になるときがやってきた」といえるものだ。彼は準備ができている。

今、飛行機の機能的な部分でのテストはすべて完了し、出発の準備は整っている。アンドレは、ヨガで肉体的な準備を、呼吸法や座禅で精神的な準備を行っている。こうしたトレーニングで、予期しないことが起こった場合に備えている。

健康面でも最高のコンディションにある。精神的にも強い人だ。

swissinfo.ch : 南京から名古屋への44時間のフライトで夜も飛び、自信をつけたということですが。

ノイマン: もちろんそれもあるが、彼は自分に確信を持っている人だ。軍のパイロットだったので、飛行においてさまざまな経験をしてきたし、強い性格の持ち主で、やると決心したらやり遂げるタイプだ。

そしてチームのみんなに対しても、「やってみよう。挑戦しよう」と言うのはいつも彼だ。「やってみないとわからない」という哲学を持っている。それに飛ぶことがとても好きだ。

私は、この冒険に参加し彼と一緒に移動して5カ月になるが、彼はいつもチームのみんなを信頼し、前を向いて前進していく。

ソーラー・インパルス2の機体が収納されているテント Solar Impulse | Pizzolante | Rezo.ch

swissinfo.ch : さて、チームについてですが、飛行機が名古屋に着陸したとき、みなさんはすでに名古屋にいたのですか?

ノイマン: 普通、飛行機が離陸したら、それが悪天候のために戻ってこないということを確認するまで1日か2日は現地に留まる。そのため、われわれはみな南京にいて、名古屋に飛行機が着陸した後の2日間に30人ぐらいが、南京からやってきた。一方で、何かが起こる場合をいつも想定して、航路の主要な場所に数人を送り込んでいる。そのため、3人が着陸当時すでに名古屋にいた。

swissinfo.ch : 今、名古屋に何人いますか?それぞれの仕事は何ですか?

ノイマン: 現在40人。すでにハワイに20人行って次の受け入れの準備をしている。よって、計60人のソーラー・インパルスチームが世界中を飛行機の動きに沿って移動している。

スタッフは、電気技師を含む技術者、テントを建て機体の安全性を確保し、発着を担当するメインスタッフ、私のようなメディア担当、事務関係者、パートナー担当者、マーケティング担当者などだ。

モナコには司令室もあり、そこには60人ぐらいが12時間交代で勤務し、情報・指示・提案を操縦士に送っている。司令室からはすべてが把握でき、天候や機体の状態について情報を渡すだけでなく、「今食事を取るように」、「手足のストレッチをするように」、「これから20分休憩してヨガ・座禅をするように」、といった指示も出している。飛行中、操縦士に許されているのは最大で20分間の休憩・仮眠だけなので、こうした体力維持の指示は大切だ。

よって、トータルで120人ぐらいが、地上から飛行をサポートしていることになる。

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ソーラー・インパルス 最悪の事態に備えたパイロット訓練

このコンテンツが公開されたのは、 世界一周飛行に挑戦中の電動飛行機ソーラー・インパルス2。中国からハワイまでの区間を飛行中、太平洋上の気象条件が悪化したため、急きょ名古屋の県営名古屋空港(小牧空港)に着陸し、現在は日本で天候が回復するまで待機している。今後待ち受けるのは、最大の難所と言われる太平洋および大西洋の横断だ。そこで起こりうる最悪の事態を想定したパイロット訓練とは、一体どのようなものなのか。(SRF/swissinfo.ch) ソーラー・インパルス・プロジェクトは、太陽エネルギーを主に再生可能エネルギーの普及促進をサポートするために立ち上げられた。中国の重慶市と南京市に途中着陸したのは、世界でも最も人口の多い中国で、太陽エネルギーのプロジェクトに対する意識を高める狙いがあったからだ。 この世界一周飛行は2015年3月9日、アブダビでスタートした。太陽エネルギーだけを動力とするこの飛行機は四つの大陸と二つの海を横断し、およそ500時間を掛け、3万5千キロの距離を飛行する。 その中でも極めて危険だといわれているのが、太平洋と大西洋の横断飛行だ。 そのためパイロットであるアンドレ・ボシュベルクさんとベルトラン・ピカールさんの二人は、太平洋上でコントロールを失うという最悪の事態を想定した訓練を出発前に行った。

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swissinfo.ch : 日本人の反応は?

ノイマン: たくさんの人が飛行機を見に空港に来てくれ、毎日われわれに話しかけ質問を次々に投げてきた。予定外の着陸だったので、この反応は「うれしい驚き」になった。そして今、人々は「日本を去らないで」と言ってくれている。

実際の見学者数は、セキュリティー問題もあるので機体収納庫内の飛行機を実際に見てもらえる人は、1日に100人ぐらいに限られる。9日には、小中学生が見学に来た。しかし、テントを空港の展望台から見ている人たちは、1日1千人ぐらいになるかもしれない。

メディア関係者の反応も大きかった。記者会見も開いたし、70~100社近いメディアが来て、たくさん取り上げてもらった。

プロジェクト全体に興味を持ってくれたが、特にクリーンテクノロジーに対しての関心は非常に高かった。ここでいう、クリーンテクノロジーとは、ソーラーエネルギーだけではなく、機体を軽くするために開発された強く軽い素材や、原料加工過程でエネルギーを無駄にしない技術などだ。つまり「無駄なエネルギー消費を抑えエネルギー効率を高める」ということだ。「持続可能な地球」が最終目標だ。

これを、飛行機だけではなく、車やそのほかのものに応用してほしいというメッセージを日本の人々はしっかりと受けとめてくれ、非常にうれしい。

swissinfo.ch : これから始まる太平洋横断は最も危険な飛行といわれています。一番のリスクは何でしょう?

コナー・レノン:  飛行機、操縦士、天候のどれか一つでもうまくいかないとリスクが生じる。天候においては、寒冷前線を避けることが、もっとも重要だとされている。というのも、ソーラー・インパルスは寒気に耐えるように設計されていないからだ。大体マイナス40度には耐えられるようになっている。その場合、コックピット内はマイナス20度だ。

もちろん、天候の急変で、操縦が不可能になる可能性もありうる。その場合、操縦士はパラシュートで海面に降り、パラシュートに付いているゴムボートの上で数日過ごすことになる。

救助の方法は、普通の難波船の事故の場合と同じで、一番近くを通過している商船などに連絡し、救助してもらうことになる。

しかし、まさにこうした天候の急変を避けるため5昼夜の天候が安定しているときをねらってゴーサインを出す。それに幸いなことに、南京から日本への44時間のフライトで、夜の飛行を経験し、飛行機のバッテリーも操縦士の健康状態も、すべてがうまくいったので、スタッフ全員が自信を持っている。大丈夫だ。

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