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ミュスタイア谷の休日

緑豊かなミュスタイア谷を散歩。背後には谷間の村サンタマリア(Sta. Maria)が見えます。

(swissinfo.ch)

「ぱちっぱちっ」と音を立てながら夜の闇に踊る焚き火の炎。夜空一面に散りばめられた無数の星。一晩にいったいいくつの流れ星を数えたことでしょう。長い1日をこんな風に非日常的な静寂の中で締めくくれるのはキャンプの醍醐味というもの。

 ここはスイス東部のグラウビュンデン州にあるミュスタイア谷(Val Müstair/Müstertal)。高い山脈が両脇に迫る深く美しい渓谷で、その先にはイタリアの南チロル地方が続いています。今年の夏休みはこの谷のキャンプ場で過ごしました。山腹にある林に囲まれたキャンプ場は簡素だけれどゆったりとした雰囲気で、ミュスタイア谷そのものを象徴しているようでした。

 公用語が四つもあるスイスを旅行する時は毎回どの言語に出会えるのかが楽しみの一つ。このミュスタイア谷はロマンシュ語圏。ドイツ語圏のチューリヒ州に住む私は普段ほとんど耳にすることのない希少な言語です。どんな響きを持つ言葉なのかとつい耳をそばだててしまいます。

 が、観光客として訪れるてみるとドイツ語で簡単に用が足りてしまう。村の中はドイツ語の単語で溢れ、かろうじてカフェやバス停で地元の人たちの会話が聞こえてくる程度。ロマンシュ語にどっぷり浸かりたい身としては少々物足りないのですが、この地方では子どもたちは小学校からドイツ語を学ぶそうで、日常的にドイツ語が使われています。

 でも、そのおかげで地元の人と会話ができるというのは喜ばしい限り。谷の最東端の村ミュスタイア(Müstair)で木工彫刻家の店を訪れたときのこと。娘に私が日本語で、夫がドイツ語で話しかけている様子を見ていた女主人が「5歳の孫には、唯一私だけがロマンシュ語で話しかけているんです。母親はドイツ語話者だし、祖父である私の夫は南チロル方言(ドイツ語)を話すから。でも、孫はちゃんと私の言葉を理解してくれます」と嬉しそうに話してくれました。

 自分の母語を子どもが理解してくれた時の喜びは私にもよく分かります。さらに、私たちに「日本語とドイツ語で育てていけば、きっと娘さんはバイリンガルになりますよ」と女主人。ロマンシュ語とドイツ語のほかにイタリア語も話す彼女の言葉は妙に説得力がありました。

 きっと彼女は命のある限りお孫さんにはロマンシュ語で語りかけることでしょう。彼女はそこにどんな思いを託すのでしょうか。そして、自分の日本語はどうなのかとも問わずにはいられません。この女主人が教えてくれたように「あきらめない」の一言に尽きるのかもしれません。

中村クネヒト友紀

プロフィール:中村クネヒト友紀

2007年にスイスに移住。現在ドイツ人の夫と2歳の長女と共にチューリヒ州に暮らす。職業、翻訳者。趣味は染織、キャンプ、山歩き。近頃は子どもを通じてスイス人と知り合う機会が増えて嬉しいものの、スイスドイツ語には悪戦苦闘中。

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