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モンスターペアレントとの付き合い方を学ぶ

教師の頭痛の種は生徒だけではない。最近では要求のうるさい親も増えてきたからだ。そんな中、スイス教職員連盟外部リンクが増加するモンスターペアレントとどう付き合えばいいか、教師へのアドバイスをまとめた指針を出した。


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 ベアート W. ツェンプ会長はその序文で、昔の保護者は教職員や学校の決定を全面的に受け入れてくれたと振り返る。

 だが、今日の保護者との関係は以前よりも「複雑で繊細に」なり、摩擦が生じれば教師にとって非常にストレスがかかるだけでなく、それが数年間続くこともあるという。「初めての保護者面談や宗教的な理由でトラブルが生じたときに、弁護士を連れてくる『ヘリコプターペアレント』などのケースをあらゆるメディアで目にするようになった」

 経済協力開発機構(OECD)外部リンクなどの国際比較では、スイスの状況は英語圏の国々に比べるとまだ良い方だ。それでも、ドイツ語圏をカバーする連盟が、学校と保護者間の協力関係に関する指針を作成するまでに至った。その内容を先月、日曜紙ゾンタークス・ブリック外部リンクが取り上げた。

 連盟の指針は、圧力をかけてくる保護者はごく一部だが、それが教師のバーンアウトや辞職の原因になると強調している。

 この指針は2004年版を改正したものだ。全52ページの中で、さまざまな事例を紹介し、教育および法律的な観点からも考察している。また、保護者とのトラブルを緩和する方法や教師へのサポート体制など、重要なポイントもリスト化されている。

 事例の中には、自分の娘に出された宿題は理屈に合わないと親が学校に苦情を出し、これを受けた学校評議会が、家庭内の雰囲気が「過度に張り詰める」との理由で宿題をなくすよう求めたというものもある。

親からのプレッシャー

 ゾンタークス・ブリックに対し、チューリヒ州学校長連盟外部リンクのサラ・クニューゼル会長は「学校で起こる出来事に対して、ことごとく口を挟む権利があると思っている親は多い」と語る。

 ツーク州学校長連盟外部リンクのジョージ・レミー会長も「ほんのささいなことにまで問い合わせが来る」と同調する。森林への遠足に同意しない親もいれば、子供の誕生日なのにきちんと祝ってもらえなかったとクレームをつける親まで、実にさまざまだ。 

 レミー会長はまた「教師が説明を求められる場は増えるばかり。コミュニケーションが非常に重要になった」と述べ、教員の養成課程でコミュニケーションにより力を入れるべきだと指摘した。

 スイスでは、大学進学を目指す生徒はまず、ドイツ語でギムナジウムと呼ばれる中・高等学校に入学するが、子供の成績がその入学レベルに達しないと、状況はまさに地雷原の様相を呈する。そうなれば裁判に発展することもある。実際に裁判になった例はまれだが、教育行政を管轄する州法務課の報告によると、法的な問題に関する学校や保護者からの問い合わせは増えている。

 例えばチューリヒ州義務教育局のマリオン・フェルガー局長がゾンタークス・ブリックに語ったところによると、同局には年間およそ3千件の問い合わせが来る。うち約400件は親からだ。

 チューリヒ州教職員連盟外部リンクのクリスティアン・フギ会長は、モンスターペアレントの増加は、国の機関に対する敬意が失われつつあることの表れだと言う。また、グローバル化やデジタル化、労働市場の競争が進み、親自身もプレッシャーを抱えていると指摘する。「親は、このような世の中でも子供が生き残れる確信を求めている」とフギ会長は話す。

国際比較

 このような親の圧力は多くの先進国に見られる現象だ。先進国の15歳の子供を対象としたOECDの学習到達度調査(PISA)外部リンクは2012年、学校の成績に関して校長がどれだけ親から圧力を受けているかの聞き取り調査を行った。

 それによると、OECD加盟国の平均では、校長が多数の親の圧力を感じていると報告した学校に通う生徒は全体の21%、圧力をかける親は少数派という学校の生徒は46%だった。

 英語圏のシンガポール、英国、米国、オーストラリアでは、少なくとも3人に1人の生徒が学校の成績に関して親からとても強い圧力を感じていると答えた。シンガポールは全体の6割に上った。

 一方、スイスの数値は1割に満たない。隣国ドイツとオーストリア、また最近は少し順位を下げているものの、PISA調査で常に好成績を収めているフィンランドも同レベルだ。

 スイス教職員連盟の役員を務めるベアート A. シュヴェンディマン氏は、PISAの調査結果では、親の学校への圧力と子供の成績の間に明白な相関関係がないと指摘する。フィンランドやスイスは親の圧力が少ないが、PISA調査の成績は常に上位だからだ。

 シュヴェンディマン氏はスイスインフォの取材に対し、電子メールで次のように回答した。「校長に対して親がそれほど圧力をかけないのは、教育制度への信頼が厚く、教職員の質も高いからではないか。法的措置も含め、親から圧力がかかることはまれで、あったとしてもほとんどは進学に関わる最終試験の成績に絡む内容だ。スイスの学校は、活発で生産的な関係を保護者と築き、それを維持すべく努力している」

 同氏はまた、圧力よりも、信頼とコミュニケーションに基づいた生産的な協力体制を目指すべきだと述べた。

(英語からの翻訳・小山千早)

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SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

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