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スイスの食卓に昆虫が登場する日は近い?

スイスの食卓に昆虫がのぼるときが、もうじきやってくるかもしれない Reuters

スイスでは来年からスーパーなどの小売店でコオロギ、ミールワーム、トビバッタなどの昆虫を食材として販売できるようになるかもしれない。生産者は解禁に向けて準備を整えているが、課題は残る。

 トレンディなチューリヒ5区にある鉄道高架下の新しいショッピングセンター。そこにある社会福祉関連の企業家向け共同作業所で座っているのは、クリスティアン・ベルチュさんだ。ここでスイスの食卓の未来が作られているとは感じられないが、ベルチュさんの話に耳を傾けると、この若者が昆虫に燃えていることがよく分かる。

 ベルチュさんは、昆虫を原料とした食品製造企業「エッセント外部リンク」の共同設立者だ。「当社のおいしい製品が3、4年後に商店の棚に並ぶ」と信じてやまない。 

スイスで認可が検討されている昆虫の一つが、ミールワーム sartore

 これまで同社が製造してきたものには、ミールワームから作ったハンバーガーのパティ(菜食主義者やビーガン向けのパティとは味が違うという)、パンに塗るミールワーム・ペースト、チップス、ラビオリ、パスタ、パンなどさまざまだ。「栄養価の高いこれらの食材には非常に多くの使い道がある」とベルチュさん。取材した日はあいにく「試供品」はなかった。

 エッセントの柱は昆虫の飼育ではなく、飼育した昆虫を原料とした食品開発、製造、マーケティングだ。スイスでは昆虫の生産者があまりいないため、同社は当面は欧州の供給業者に頼るつもりだが、供給業者に対しては「昆虫に敬意を持って飼育する」(ベルチュさん)ような、高いスタンダードを求めている。

コオロギも新たな食品に数えられるかもしれない aquaportail.com

 スイスで数少ない昆虫養殖企業の一つは、ウルス・ファンガーさんが営むエントモス外部リンクだ。植物を保護する益虫を27年間、大量に養殖してきた。6年前からはペット向けにも昆虫を養殖している。人が食べるための昆虫については「準備に時間はかからないだろう。(販売解禁に向けて)手はずを整えている」という。

議会で推進

 連邦議会で昆虫食を推進しているのが、イサベル・シュヴァレー下院議員(自由緑の党)だ。昆虫食に関して今までにいくつかの案を提言してきた。最近の質疑では「なぜスイスでは他国で食されている昆虫を販売できないのか?」との問いを政府に投げかけた。

 シュヴァレー氏が初めて昆虫を食べたのは、西アフリカのブルキナファソの首都ワガドゥグでストリートチルドレン保護施設を訪れたときだ。「子どもたちが昼食に招待してくれた。シーバターの木についた芋虫を焼いたものを子どもたちが食べていたので、私も食べてみた。とてもおいしかった」

トビバッタはスイスで食品として認められるかもしれない wikipedia

政令改正

 スイスでももうじき昆虫を味わえるかもしれない。連邦政府は食品関連法の政令改正に着手しており、今後はミールワーム、コオロギ、トビバッタの3種類が食品として認められる予定だ。この件に関し、今年10月末まで利害関係者から意見聴取が行われる。

 なぜ昆虫を食品とみなす方向に国が動いたのだろうか?「これまでは健康不安があった」と連邦内務省食品安全・獣医局(BLV)は説明する。だが、上記の昆虫3種類に関しては「良い経験が得られた」ため、摂取しても問題ないと判断したという。

 実際に昆虫が食品として認可されるかどうか、またいつ認可されるかどうかは、意見聴取の結果次第だ。BLVは来年上半期までに新政令が施行されると見込んでおり、現在は総合リスク評価を行っている。

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昆虫食のリスク

 リスク評価では、リスクを四つのカテゴリーに分ける。一つ目は病原体。養殖の場合は昆虫が病原菌に感染する可能性があるため、熱殺菌が必要だと専門家は指摘する。二つ目は化学的な危険、つまり毒だ。昆虫の中には自己防衛のために毒をもっているものもある。三つ目はアレルギー誘発の可能性。甲殻類にアレルギーのある人は、昆虫に対してもアレルギー反応を起こすことがある。四つ目は物質的な危険。昆虫の足や羽はときに鋭利なため、食べるときに怪我をする場合がある。

 そのため、BLVは政令改正案に関する説明の中で、昆虫は販売前に冷凍し、加熱処理をしなければならないとしている。昆虫に寄生虫や病原菌がついている可能性があるためだ。さらに、スイスでは消費者は昆虫を害虫としてみる傾向があるので、害虫と区別がつくよう加工せずに、きちんとそれが昆虫だと分かるように販売しなければならないとしている。

丸ごと、それとも加工?

 昆虫食推進派は、昆虫を食品とする国の政令改正案に満足しているが、ある問題に頭を抱えている。それは、スイスでは加工された昆虫食品の方が消費者の受けが圧倒的に良いという点だ(下記の囲み記事参照)。

 そのため、エッセントではまず加工食品を市場に投入する計画を立てているが、ベルチュさんは政令改正案に批判をぶつける。「この分野はまだ新しい。我々はさまざまな関係者と話をつめ、変更案を作成しているところだ」

 加工食品に昆虫が含まれているかどうかを消費者が知っていることは、生産者にとってもメリットがあるという。「そのため、消費者団体と密接に連絡を取り合っている。基本的に前向きに検討されている」(ベルチュさん)。生産者側と消費者団体は現在、食品表示や原産地表示に関して議論を行っている。

 下院議員のシュヴァレー氏は政令改正案に今のところ納得しているが、国が認可予定の食用昆虫の種類は「少なすぎる」と考える。今後は、昆虫食品に関心のある団体や企業の統括組織を立ち上げ、昆虫の養殖、殺傷、衛生の基準を定めたいとしている。

 ちなみに、個人がプライベートのパーティーなどで昆虫を食卓に並べることは今でも可能だ。BLVによれば、こうした個人的なケースは食品関連法の規制外だ。さあ、召し上がれ。

昆虫食に低い関心

ベルンの消費者に関する研究によると、スイスでは昆虫食に対する関心がさほど高くないことが分かった。

ベルンの農林食品大学は電話帳から国内のドイツ語圏・フランス語圏に住む人を無作為に抽出し、548人に昆虫を食べる気があるかについてのアンケートをとった。

昆虫を食べてもよいと答えた人の多くが、持続可能性や健康面をその理由に挙げた。

しかし全体的には昆虫を食べることに躊躇する人は多かった。主な理由は、気持ちの悪さ(回答者44%)。一方、これまで昆虫を食べたことがあると答えた人は16%。食べた理由は好奇心からだった。その中で、もう昆虫を食べる気がないと回答した人は4分の1いた。

フランス語圏の西スイスでは昆虫食についてあまり知られていないが、ドイツ語圏に比べ、見た目が分からないよう加工されたミールワームなら食べてもよいと答えた人が多かった。どちらの言語圏でも、見た目が分かる昆虫はどちらかといえば食べたくないとした人が多かった。

結論として、昆虫食品を売り出す際は、慎重に考え、第一段階として虫には見えない製品を提供することだと、研究者は締めくくっている。

(出典:スイス通信)

豊富なプロテイン

アジアでは昆虫が食べられることが多い。またアフリカや南米、特にメキシコには甲殻類の昆虫を使った料理がある。料理法は焼く、ゆでる、衣をつける、生きたまま食べるなどさまざま。国連食糧農業機関(FAO)によれば、昆虫を日常的に食べている人は世界中で20億人いる。

昆虫はブタやウシなどの脊柱動物に比べ、食べるエサの量がかなり少ない。また水や土地もあまり必要ではなく、養殖の際に出る温暖化ガスはウシに比べ少ない。そのため、昆虫は環境に優しい肉の代替品とされる。

昆虫には肉や魚に比べて高品質なプロテインや栄養素が含まれており、健康的だとFAOは説明する。また、昆虫が鳥インフルエンザや牛海綿状脳症(BSE)などの病原菌を媒介するリスクは低い。食をテーマの一つとするミラノ国際博覧会でも、昆虫食を大いに取り上げている。

(独語からの翻訳・編集 鹿島田芙美)

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