未来の移植手術は人工臓器で


アンドレア・クレメンティ


人工心臓のモデル。ニューヨークの美術館にて

人工心臓のモデル。ニューヨークの美術館にて

(Keystone)

移植用臓器の需要が増加している。しかし全く問題のない健康な臓器を手に入れることは困難なため、人工臓器の研究が注目を浴びている。ベルン大学病院は人工臓器専門の研究所を開設した。

「なぜ人工臓器開発が重要なのか」という問いにベルン大学病院の腎臓学教授兼主任医師であり、今回の研究プロジェクトの発起人であるフェリックス・フライ氏が答える。

 

なぜ人工臓器なのか

 「人は重い病にかかると運命に逆らい、健康になりたいと思う。人間は誰もがそう考える。しかし病状が改善せず、ほかになす術がなくなると、正常に機能しない臓器を代用するという選択肢だけが残る」

 とフライ氏は説明する。

 ただ、患者が臓器移植によって健康を取り戻せばよいが、その確率はほんのわずか。患者に移植できる臓器が足りないからだ。

 「わたしの専門分野である腎臓はまさに典型的な例。人工透析のお陰で世界中で100万人の患者が生き延びている。これもある種の人工臓器。ただ、それが体の外にあるというだけだ」

 腎臓移植に関しては、ドナーが不足している点や移植後も臓器が必ずしも正常に機能しないといった点で問題が生じる。移植後に患者が服用する薬によって起こる副作用の問題については言うまでもない。

 「われわれが人工臓器研究に投資するのはこういった理由からだ」

 そこで、ベルン大学病院はわずか9カ月の間に、財団の援助により広さ1000平方メートルの研究所を設立した。ここでは講師、学生、博士号の学生など300人が研究に従事している。全員が生体臨床医学、人工臓器分野の専門家だ。

進歩を遂げる人工臓器開発

 臓器を人工的に作る際の難易度は、機能の複雑さで決まるとフライ氏は明言する。

 「例えば、人工股関節を作るには球関節が重要なポイントになるが、既に1960年代から球形の金属で代用されている。今日では、人工膝関節や人工椎骨が製造されている 」

 「関節の仕組みは単純だ。関節は自分を持ち上げ、動くことができればよい。つまり関節は比較的簡単に代用できる」

 しかし、臓器の機能が複数ある場合、その機能を代用することは困難だ。

 「例えば眼球は遠近両方の視界を可能にしなければならない。遠近どちらかが機能しない場合は、眼鏡で部分的に機能を代用する」

 

 後にコンタクトレンズが発明されたが、今日では既に、人工網膜で代用することができる。このようにして次第に個々の人工臓器開発が進歩している。

 研究所では糖尿病治療の研究も行われているという。

 「ヨーロッパで多くの人々がかかる疾患だが、血中グルコースの値を測定するセンサーが反応すると自動的にインシュリンが患者に投与され、症状を止める治療法が開発されている」

心臓は単純なポンプ

 「驚くことに、心臓はまだ人工心臓で代用することができない」とフライ氏は打ち明ける。本来、心臓は「単純なポンプ」の機能を果たすだけで、それ以上のものではない。しかも、今日のポンプ技術は非常に進歩している。飛行機も機能のほとんどがポンプシステムによって稼動していると考えてよい。

 

 心臓の研究に関しては「ポンプを動かし続けるために必要なエネルギーを確保することが課題」で、そのためには電流かガソリンが必要になる。さらに、エネルギーを蓄える装置を取り外すことができなければならない。それは車に設置されているバッテリーに類似している。

 フライ氏はエネルギー技術が進歩するよう願っている。そうすれば、人工心臓に適切なバッテリーを開発することも可能になる。バッテリーは体の中に埋め込まれたケーブルを取り外さずに、充電できるものでなくてはならない。

 フライ氏は、心臓の研究は人々が正に必要としているものだと言う。

 「スイスでは人口の3分の1が心臓疾患で死亡する恐れがある。しかし、心臓移植が行われるのは年間40件のみ。ということはほかの解決策が必要になる」

医学研究に求められる人材

 人工臓器の開発は、それぞれの学問分野が共同で研究を行って初めて進展する。

 「医学は化学と生化学の共同研究によって初めて大きな進歩を遂げることができた。今日の研究には、物理学者とエンジニアの協力が必要だ」

 

 ベルン大学病院の研究でも異なる学問分野の研究者が共同で解決策を探っている。

 「各臓器の研究に、物理学者1人、もしくはエンジニア1人を雇うことができる。ベルン大学病院は研究に関心を示すほかの病院から資金を調達し、彼らに報酬を支払う」

 とフレイ氏は意欲的だ。

 

 本来の研究目的は、ベルン大学病院で特別な人工臓器を発明することではなく、人工臓器の研究分野を総体的に進展させることだからだ。

不足するドナー

2010年、スイスにおけるドナーは100人を下回った。

508の臓器が504人 ( 2009年466人 ) の患者に移植された。ドナー登録をしていた98人 ( 同103人 ) が死亡、116人 ( 同109人 ) は生存している。

ドナーを探していた59人 ( 同67人 ) が死亡。1021人がドナーを探している。( 2011年1月1日現在 )

近隣国のドナーは100万人に20人。スイスの平均値は12.6人とかなり低いが、現在生存しているドナーを含めると平均値は14.9人。

2010年に最も多く移植された臓器は腎臓で294件。次いで肝臓100件、肺 49件、心臓35件、膵臓30件。臓器の輸出は19件 ( 2009年9件 )、輸入は18件 ( 同24件 )。


( 独語からの翻訳・編集、白崎泰子 ), swissinfo.ch



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