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食のトレンド


社会の変化が食の意識を変える


トーマス・スティーブンス、スーザン・フォーゲル・ミシカ


スイスでは自分や家族のために料理に時間をかける女性が減っている (Ex-press)

スイスでは自分や家族のために料理に時間をかける女性が減っている

(Ex-press)

ヨーロッパでは今、食欲が失せるような食品スキャンダルが紙面をにぎわせている。スイスにおける食習慣の変化とそうしたスキャンダルが消費者態度に与える影響について探ってみた。

 スイス人の3人に1人が、食事には全く気を遣っていないばかりか、食品に関する勧告が出ても興味すら示さないことを認めている。

 これは、7年ごとに公表される「スイス食生活報告書」の驚くべき結果の一つだ。今年1月に公表された、今回が第6回目に当たるこの調査は、スイスにおける食習慣は明らかに「改善の余地あり」であることを報告している。

 主な懸念の一つに、そのまま食べられるものや、すぐに調理できるもの、いわゆるコンビニエンスフードの急激な増加が挙げられる。こうした食品の多くには脂肪分、塩分、糖分が大量に含まれている。

 しかし「最も大きな変化の一つは、女性の社会進出だ」というのは2012年に発表された、食に関する消費者動向調査の執筆者であるミリアム・ハウザーさんだ。ハウザーさんは、スイスで伝統のあるシンクタンク、ゴットリーブ・ドゥットヴァイラー研究所(Gottlieb Duttweiler Institute)のシニア研究員だ。同研究所は、スイス大手スーパーマーケットチェーンのミグロ(Migros)の創立者にちなんで命名された。

 「今の女性は忙しく、かつてのように家で食事の支度をする余裕がなくなった。特に昼食を作る時間がない。食事の支度に費やす時間は、この30年間で著しく減少し、人々はコンビニエンスフードを利用することが多くなった。パスタは自分でゆでるが、トマトソースは買ってきたものを温めるだけだ」

 また、ハウザーさんによると、通勤時間の増加により自宅で昼食をとることが出来なくなってきており、こうした状況が改善される見込みはほとんどないと言う。

 さらに「移動中や仕事中に食事を済ませることが多くなるだろう」とハウザーさんは付け加える。

地元産品を買う

ベルンのスーパーマーケットを訪れ、消費者の意見を聞いた。

ダニエラさん(45)は自分と娘のために飲み物を買いに来ただけだったが、店の品揃えには以前から懸念を抱いていたと言う。

「(コンビニエンスフードを)押し付けられているように感じる。どこを見てもそういった商品ばかりが目につく。かつてのように新鮮な材料を使って自分で料理をするべきだと思う」

ダニエラさんは、農産物がどこで収穫されたのか、また旬のものなのかを常に確認すると話す。「1月にイチゴを買ったりはしない。自然を考慮して作られたものを買うようにしている」

マキシミリアンさん(80)は、ちょうどコープ(Coop)で買い物中だった。馬肉スキャンダルをそれほど深刻には考えていないようだ。料理好きで、コンビニエンスフードなどいずれにしても買わないからだ。

買い物かごに商品を入れる前に、彼は必ず食品添加物を確認する。また、材料が地元産なのか、少なくともスイス産かどうかも確認する。スイス産なら「安心して食べられる」。

「近くに住んでいるので、基本的なものを買うには大抵ここ(コープ)に来る。しかし、小さい店で地域の生産物を買う方がいい。野菜やじゃがいもなどの農産物は農家から直接買うのが一番だ」

とはいえ、常にそうしてきたわけではない。以前はコンビニエンスフードを買うこともあったが、テレビである食品の製造過程を見て以来「批判的になった」。

無関心

 この数週間、スーパーで売られているラザニアに馬肉が混入していることが発覚したり、最近ではイケア(IKEA)のチョコレートケーキから、通常動物の糞便に存在する大腸菌が見つかったりするなど、ヨーロッパでは食品に関するスキャンダルが次から次へと明るみに出ている。

 「食品詐欺」といった見出しに消費者は過敏に反応すると思われがちだが、3月12日にスイスドイツ語圏の500人が参加したオンライン調査では、原材料に肉を含むコンビニエンスフードを食べないようにしていると答えたのは、たったの15%だった。

 しかし、ベルン大学で消費者態度を研究するクロード・メスナー教授には、この結果は予測通りだったようだ。「健康や安全性への懸念が無い限り、食品に対する消費者の購買態度はそう簡単には変わらない。狂牛病のスキャンダルがいい例だ」

 ミグロのモニカ・ヴァイベル広報担当は、今回の馬肉スキャンダルが確かに消費者を不安にしていることを認めている。ミグロは1948年にチューリヒに創立されたスイス初のスーパーマーケットだ。

 「(消費者の不安をなくすために)生産過程で環境に十分な配慮を施す必要性が増している。消費者は自分が何を食べているかを知りたがっているからだ。しかし、現在世間を騒がせている馬肉スキャンダルは、ミグロの顧客の購買態度にはほとんど影響がないだろう」

 ミグロのライバルである大手小売業者コープ(Coop)のウルス・マイヤー広報担当も同意見だ。「食品スキャンダルと人々の購買意識の間に因果関係を特定することは難しい」

 しかし、マイヤーさんはこうも話す。「顧客のニーズは、この10年の間に大きく変わった」

 「食べるということは今日、単なる食物摂取以上の意味を持つ。人々は自分たちが口にするものを意識して購入するようになり、バランスの良い健康的な食生活を心掛けるようになった。さらに、買い物客は価格に敏感になっただけでなく、選択の自由、商品の多様性、品質、新鮮さをも求めるようになった。環境に対する意識も向上し、オーガニック製品や地域の生産物に対する評価も急上昇している」

スイスの食生活

第6回スイス食生活報告書(6th Swiss Nutrition Report)によると、スイス人の多くは健康的な食生活に関する現在の勧告に部分的に従うか、あるいは全く従わないかのどちらだ。

主な調査結果は以下の通り。

果物、野菜、牛乳、乳製品の摂取量が少なすぎる。

スイス人口の3割が自らの食生活に全く関心を持っていない。そのほとんどが男性もしくは若者で、教育レベルが低いのが特徴だ。

スイス西部のフランス語圏では、ほかの二つの言語圏(ドイツ語、イタリア語)に比べ、食に関する意識が低い。

多くの消費者が、食品のラベル(栄養価表示や表面のラベルなど)は分かりにくく混乱の原因となると考えている。

食事は健康を維持するために重要であることが理解されていない。

夕食に並ぶ品々は、店頭に並んでいること(入手の可能性)、価格、そして広告によって決まることが多い。

(出典:第6回スイス食生活報告書、2013年)

オーガニック

 冷凍ピザやポテトチップスだけがヒット商品とは限らない。過去30年の間に、スイス人の魚の消費量は5割近く増加した。魚には体に良いとされる脂肪酸が多く含まれているからだ。

 しかし、健康への影響が証明できていないのにもかかわらず、合成農薬や化学製品を使用せずに作られたオーガニック製品の需要も伸びる一方だ。

 今から20年前にスイス初のオーガニックブランドを立ち上げたコープは、今や世界最大のオーガニック製品販売業者の一つだ。ミグロでも2012年、オーガニック製品の売り上げは9%伸び、年間売上高に貢献した主な製品の一つだった。

 「オーガニックは成長分野だ」とミグロのヴァイベル広報担当は言う。「顧客の多くが健康的な食生活を送ろうと努力している。そして、自分たちの健康のためだけでなく、環境と動物をも考慮した自然な形で生産された製品を高く評価している」

 また、スイス市場協会(SMV)のフィリップ・ヴィトマーさんによると、多少値段が安いからといって長距離を輸送されてきた農産物を買うことに、消費者の多くはうんざりしているという。また、新鮮な地域で採れた農産物を購入するために農家直営の市場へ行く人が増えていると話す。

価格VS産地

 「貧しければ貧しいほど、健康のためにわざわざ高い食品を買おうとは思わなくなる」。かつてそう言ったのは、イギリスの作家ジョージ・オーウェルだ。「お金持ちは、朝食にオレンジジュースとライビタ(Ryvita/英国ライビタ社製の全粒穀物を使ったクリスプブレッド)を楽しむ余裕があるだろう。しかし失業者にはない」

 大手スーパーマーケットチェーンではなく、地元のお店や農家直営の市場に行くかどうかは個人の予算が深く関係していることは、ヴィトマーさんも認識している。「産地表示より価格を重視する人々にとっては、地元産品は高すぎる。しかし、自分たちが口にするものがどこから来たのかにこだわる客も増えている。そうした人たちが地元のお店や市場に行く」

 今後スイス人の食生活はどのように変化していくのだろうか。前出のハウザーさんは、変わりゆく男女の役割に話を戻す。

 「何をどのように調理し、食するのか。それには男性の役割が大きく影響してくるだろう。なぜなら男性の間で料理に対する関心が高まっているからだ。また、男女が家事を分担するようになり、男性が料理をする機会もますます増えている。さらに、男性の方が女性よりもいろいろな食材を試してみる傾向にある」

 「今後、食習慣を変えていくのは男性なのかもしれない」

菜食主義

スイスの食事といえば、やはり肉がメインだ。しかし、ベジタリアンも増加している。スイスベジタリアン協会(SVV)のレナート・ピヒラーさんによると、30年前にも確かに多くのベジタリアンがいたが、健康的もしくは宗教的理由から肉を食べないことがほとんどだった。そして今日と大きく違うのは、彼らはその事実をあまり世間に知られないようにしていたことだ。

しかし「近年は他の理由でベジタリアンになる人が増えている。環境と動物保護だ。肉食は地球の温暖化を促進し、工場型の畜産業もさらに増えた」と、ピヒラーさんは言う。

さらに「肉食のマイナス点がメディアやインターネット上で広まり、ベジタリアンの数はここ数十年の間に着実に増えてきた」と付け加える。

ピヒラーさんによると、スイスにおけるベジタリアンの正確な人数は分からないものの、全人口800万人中約5%が肉を食べず、0.5%は卵や乳製品も食べない絶対菜食主義者だと推定される。

食品スキャンダルによってベジタリアンが増加するかに関しては、ピヒラーさんは、ある程度の影響はあるものの、一般的にはスキャンダルが原因でベジタリアンになる人は滅多にいないと考える。

「しかし、それが原因で肉食を減らそうと考える人がいるかもしれないし、スキャンダル続きの畜産・精肉業界への不満を爆発させる引き金になるかもしれない」


(英語からの翻訳 徳田貴子), swissinfo.ch



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