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2016年6月5日の国民投票


ベーシック・インカム スイスで実現するか?




「最低生活保障」(ベーシック・インカム)の導入。これはまったくの夢物語か、それとも労働における自動化が進む社会での問題の解決か。スイスの有権者は6月5日、この案件について投票する (Keystone)

「最低生活保障」(ベーシック・インカム)の導入。これはまったくの夢物語か、それとも労働における自動化が進む社会での問題の解決か。スイスの有権者は6月5日、この案件について投票する

(Keystone)

まもなくスイスでは、世界初となる決定が国民に委ねられる。果たして政府は、国民一人ひとりに、その収入に関係なく生涯にわたって月々のベーシックな所得を無条件に給付していくことになるのか。「最低生活保障」(ベーシック・インカム)の導入をめぐり、賛成派は、「資本主義が支配し、労働において自動化が進む社会が生み出す問題への解決策だ」と主張。だが、反対派にとっては非現実的で危険な夢物語だ。

  6月5日に国民投票にかけられる「無条件の最低生活保障(ベーシック・インカム)イニシアチブ」は、給与格差が拡大し続ける現代の社会構造にまで論議が及ぶ。また、以前のイニシアチブに比べると、デジタル化によって多数の解雇者を生み出す新しい社会現象の中で提案されたイニシアチブでもある。

 賛成派は、生活に不可欠な基本的欲求を満たせるベーシック・インカムを無条件で国民全員に給付すれば、社会福祉への依存や貧困を無くすことができるという考えだ。また、ベーシック・インカムがあれば、国民は皆それぞれやりたい仕事に没頭でき、教育、創造性、ボランティア活動が促進されるほか、高齢や病気の家族の世話や育児にもより多くの時間を費やせると主張する。

政党ではなく、一般市民によるイニシアチブ

 これは独立した一般市民からなるグループから生まれたアイデアだ。政党はまったく関心を示していない。連邦議会でも右派や中道派の政治家は全員拒否の姿勢を示し、わずかな支持が左派や環境派で見られたのみ。下院では反対157、賛成19、白票16で否決され、上院では唯一バーゼル選出のアニータ・フェッツ社会民主党議員が賛成票を投じた。

 このフェッツ議員は、「この案件は、熟考し議論する価値がある」と言う。「おそらく20年後か30年後、仕事のデジタル化によって大規模な解雇が発生したときに具体的な解決策になるアイデアだと思う」

 それに対し、ヌーシャテル選出のレイモンド・クロットゥ国民党下院議員は「むしろ、実現不可能なアイデアだ」と反論し、「膨大な費用がかかる」と指摘する。

 連邦憲法に明記する文案は次の通りだ。「ベーシック・インカムは、国民全員に人間らしい生活と公的生活への参加を可能にするものである」。金額設定は立法機関に委ねられるが、賛成派は議論の基礎になる金額として、成人に月々2500フラン(約29万円)、未成年に同625フランを想定している。

 「2012年の人口統計を基にすると、国家の負担は年間2080億フラン。国内総生産(GDP)の約35%に当たるすごい金額だ!」とは、クロットゥ議員のコメントだ。

 イニシアチブは財源についても何も定めていない。可決された後、これを実現するための法律で決めることとしている。賛成派は、給与天引きと社会保障の給付金からの振り替えで大半を賄うのがよいとの見解を示す。推計250億フランに上る不足分は、国家予算の積み替えもしくは税金で補完可能だという。

 「こんな時期に、250億もの追加税収はまず得られないだろう」とクロットゥ議員は言う。発起者は付加価値税の引き上げを提案しているが、実現すれば物価は継続的に8%上昇する。「そうなればスイスの購買力は落ち、国家経済が衰弱してしまう」

 フェッツ議員も付加価値税(消費税)の引き上げには反対だ。「だが、これは数ある提案の一つに過ぎない。財務取引にミニ税金をかけるという意見も、ある程度支持されている。私もこれはいい案だと思う。コンピュータに税金をかけるのもいい。労働がデジタル化していくという観点から議論が行われているのだから、財源もこの方向で探すべきだ」

先手を打つ。でもどうやって?

 フェッツ議員はまた次のようにも述べる。「今から財源について議論するのは間違いだ。ベーシック・インカムは今日や明日のためのものではない。問題は、伝統的な収入が労働から得られなくなったときに社会が何をするか、ということだ。自動化や綿密に作られたコンピュータプログラムが、ごく単純な仕事から非常に優秀な能力を必要とする仕事まで、すべての職業において雇用の大部分を不要にしてしまったら、私たちはいやが応でも答えを見つけ出さなくてはならない。それなら守りに入るより先手を打った方がよいというのが私の意見だ」。

 一方のクロットゥ議員は、「これは先手ではなく、本末転倒だ」と切り返す。「どうやって収入を作り出すかは、いずれはよく考えなければならないだろうが、偽ロボット化が進んでも、人の手はこれからもずっと必要とされる。コンピュータの後ろにいるのは原則的に人間だ。消滅してしまう職もあるだろうが、新しく生まれる職もあるはず。私にしてみれば、先手を打つというのであれば、教育と経済の関係を強化することだ。特に教育は、社会の変化を注意深く見つめ、技術の発展や経済の要求と足並みをそろえたものにしなくてはならない」

 左右両派から出ている批判もある。「これはスイスの社会制度全体にかかわってくる問題」という声だ。だがフェッツ議員は、「ベーシック・インカムはすべての社会保険に取って代わるものではない」と抗弁する。「現在、社会保険はすべて合わせて13ある。その数を削減することになれば、それは社会制度を今後の新しい取り組みに適応させるよいチャンスになるかもしれない」。大きな変化の兆しがそこに見えているのに、完全雇用という原則に基づく制度を今後も続けていくには無理があるというのがフェッツ議員の考えだ。

 対するクロットゥ議員は、次のようなリスクを指摘する。「完璧ではないがとてもよく機能し、労働や継続教育への意欲をかき立てている制度を破壊してしまうかもしれない。そうならないように、この制度を改善し強化する必要がある。そして、給与をもらって生活している人や企業に大きな負担をかけ、労働の意欲を失わせるような給付の導入も阻止しなくてはならない」

「最低生活保障」(ベーシック・インカム)の仕組み

発起者の提案は次の通り。非就業者にはベーシック・インカムを無条件で給付する。就業による収入がある人の場合、給与の中からベーシック・インカムに相当する金額が吸い上げられ、その代わりに、ベーシック・インカムが給付されるので、収入に変化はない。

具体的な例を示すと、月1500フラン(約17万円)の収入がある人は、ベーシック・インカムを仮に2500フランと設定すると、千フランの追加収入を得る。給与が2500フランの場合は、収入に変化はない。

6500フランの収入がある場合は、2500フランがベーシック・インカムの財源としてすい取られ、給与の金額は4000フランとなる。だが、ここにベーシック・インカムとして2500フランが支払われるため、最終的には合計6500フランの収入となる。

社会保障の給付金にもこれと同じ方法が適用される。上限の2500フランまではベーシック・インカムによって補償され、それ以上の分はこれまで通り社会保障制度から給付される。

この方法で、ベーシック・インカムに必要な財源の約88%をカバーできる。残りの12%については、新しい税金を導入するなどして別の財源を確保しなければならない。

あなたならどうする?

最低生活保障額として国が月々2500フランを無条件に給付することになったら仕事を辞めるという人はわずか2%。状況によっては辞めるかもしれないという人は8%。

これは、発起者の依頼により世論調査機関デモスコープが行ったアンケート調査の結果で、昨年11月末にドイツ語圏とフランス語圏の有権者1076人が回答した。(出典:スイス通信SDA/ATS)


(独語からの翻訳・小山千早 編集・スイスインフォ), SWI swissinfo.ch

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