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「バーガーキング、ついに抗議に屈す!」~畜産動物とスイスの動物保護法~

blog jpn Maedchen und Ziege

(swissinfo.ch)

先日、某フリーペーパーを読んでいると「バーガーキング、ついに抗議に屈す」という大見出しが目についた。それは世界2番手のハンガーガーチェン「バーガーキング」が、2017年以降、大量飼育(Massenhaltung)された畜産物(豚肉、鶏卵)の使用を中止するという記事だった。バーガーキングは、かねてから大量飼育された畜産物の使用に関して、各国の動物愛護団体や消費者に強い批判を受けていたようだ。アメリカの動物保護団体代表は「2017年以降、何万匹もの動物達がよりよい環境のもとで生きられるようになる。畜産家にとって大手取引先であるバーガーキングの決定は、今後の畜産のあり方について世界的に大きな影響をもたらすだろう。」と喜んでいる。

 さて、ここで問題になった「大量飼育」はコストダウンを第一目的としている。「できるだけ狭い面積」で「できるだけ多くの肉や卵」を「できるだけ短期間で生産すること」が最優先されるため、多くの動物達が劣悪な環境で苦しんでいるのだ。(右リンク参照「大量飼育」)先日買った雑誌「GEO」(2011、No.30) に、全く窓のない鶏舎で1㎡あたり20羽以上の鶏を詰め込み飼育している鶏舎の写真が掲載されていた。鶏はコンピューター制御された人工の光で朝と夜を自覚し、一生太陽の光を見ることはない。自由に身動きできないストレスが原因で自分の羽をむしったり、他の鶏を攻撃し傷つけたりする。それを防ぐために幼鳥の段階でくちばしを焼き切られることが多い。(スイスでは禁止)。自由に動けない状態で過剰な餌を与えられるので、急成長が原因で骨格が変形したり、心臓発作を起こしたりして死亡する鶏も少なくない。そして病気の発生や伝染を防ぐために大量の抗生物質が投与されるのだ。

 豚の場合、方向転換もできないほど狭い鉄ケージに閉じ込められたり、コンクリートの巨大豚舎に数千頭も詰めこんで飼育されたりする。一頭当たりの面積はわずか0.75㎡足らず。本来の習性として、豚はエサを探すために常時動きまわり鼻で地面を掘り返す行動があるため、コンクリート張りの狭い場所に押し込まれると極度のストレスで凶暴化し、お互いの尻尾や耳を咬み切ったり、共食いをしたりし始める。咬み傷が原因で病気になるのを防ぐため、子豚の頃に歯を折ったり尻尾を切り落としたりすることが多い。(スイスでは禁止)。早期出荷のため過剰な餌を与えて急激に太らせるため、足の関節に異常をきたして立ち上がれなくなる豚もいる。極度のストレスに加え、安価な飼料や劣悪な衛生状態で飼育されることが多いので病気も多い。鶏と同じく病気の予防のために全頭に抗生物質が投与されるのだが、最近、抗生物質に汚染された食肉の長期摂取による健康被害(耐性菌の発生)が大きな問題となっている。(スイスでは抗生物質の投与は、病気にかかった動物に対してのみ使用が許可) 

(swissinfo.ch)

 大量飼育の問題に関しては色々な考え方の人がいる。「安い方がいい。安値でなければ肉が食べられなくなる。」「家畜は食べられるために生まれてきたんだし、どうせ最後は殺して食べるんだからどうでもいい」等々。しかし、抗生物質を大量に投与され、異常行動が起こるほど苦しい一生を送った動物の肉は本当に「安くて」「安全」で「美味しい」のだろうか。私にはどうしてもそう思えない。つまるところ畜産の今後のあり方の問題は、畜産業者に任されているのではなく、消費者に大きく委ねられているのではないか。消費者が変わらぬ限り、これからも大量飼育は続くだろう。

 実は「スイスの」マクドナルドでは、すでに大分前からこの問題に関して前向きに取り組んでいる。使用される肉類の80%はスイス独自の厳しい基準をクリアした国産肉であり、鶏卵も放し飼い(Freilandhaltung)のものだけを使用。当然そのコストは値段に跳ね返り、日本と比較するとスイスのマクドナルドはずっと高価なのだが(例えばチーズバーガーのバリューセットが12フラン=1000円程度)、その原因はスイスの高い人件費のみではなく、スイス国民の動物物性食品に対する品質・安全性へのこだわり、そして動物保護への関心の強さの表れとも言えるだろう。ちなみに隣国ドイツでは、肉も卵もスイスより30~50%近く安いが、GEOによると98%は大量飼育によるものである。

(swissinfo.ch)

 スイスでは1981年に動物保護法を制定。ヨーロッパ内ではトップレベルの厳しさだ。例えば牛を牛舎に常時つなぎっぱなしにすることを禁止し、年に最低90回は外に出すことが義務づけられている。有機(BIO)牛は天気さえ良ければ毎日放牧されて牧草を食べ、牛舎への出入りも自由という理想的な条件で育てられている。また1991年に鶏のケージ飼いも禁止され、許可されているのは「平飼い」(Bodenhaltung=地面の上で飼われているが、鶏舎の外には出られない。)と「放し飼い」(Freilandhaltung=毎日一定の時間は鶏舎の外に放牧される。)のみだ。屠殺場への運搬の距離や方法に加えて、なるべく苦しみの少ない屠殺の仕方に至るまで細かい規定がある。スイスのスーパーで安い輸入肉や輸入卵を買うことは可能だが、大方のスイス人は地元農家への支援、安全性、動物保護の観点から輸入肉や輸入卵をあまり買わないようだ。国民の多くがごく身近に家畜を見たり触れたりできる環境で暮らしていることも、動物保護の精神に強い影響を与えていると思う。

 スイスに遅れること20年、EUでも今年1月から鶏のケージ飼いが法律上禁止され、徐々にケージ飼いを減らしていく方向である。 しかし、日本では未だにケージ飼いが主流だ。かくいう私も昔は何の疑問も持たず「本日特売! お一人様千円お買い上げで、卵1パック3円」という宣伝文句につられ、近所のスーパーで卵を買っていたし、肉を食べたりする時も、飼育環境までほとんど意識していなかった。現在の日本の畜産現場はどうなのかというと、残念ながらごく一部を除いてかなりひどい状況であると言われている。(右リンク参照「ブラックボックスの中の日本の畜産」) また、日本の畜産現場は「衛生上関係者以外立ち入り禁止」という理由で一般に公開されているところはほとんどないため、大方の消費者は関心が薄く、今まで家畜の「権利」や「自由」にスポットが当てられることもなかったように思う。

 最近、ベジタリアンになったり肉の消費量を減らしたりする人が増えているという。チューリッヒの大手のベジタリアンレストラン(HILTLや Tibits)は大繁盛しているし、会社や大学の食堂でもベジタリアン・メニューを置くところが多い。その理由は、動物保護の観点からだけではなく、健康面でも「肉の消費量と癌の発生率」に相関関係が発見されたことや、家畜の数が減少すれば二酸化炭素の排出量が大幅に減らせるという環境面でのメリットも大きく影響しているようだ。私は子供の頃から肉類があまり好きではなく「8割ベジタリアン」だが、完全なベジタリアンになるつもりはないし、人間が肉を食べること自体を否定しようとは思わない。しかし、せめて人間のために命を捧げる動物達にできるだけ痛みや苦しみのない環境を提供することは人間の義務ではなかろうか。今回のバーガーキングの決定がきっかけとなり、生産者、消費者の双方で畜産動物の「福祉」に対する意識が高まって欲しいと願っている。

森竹コットナウ由佳

プロフィール:森竹コットナウ由佳

2004年9月よりチューリッヒ州に在住。静岡市出身の元高校英語教師。スイス人の夫と黒猫と共にエグリザウで暮らしている。チューリッヒの言語学校で日本語教師として働くかたわら、自宅を本拠に日本語学校(JPU Zürich) を運営し個人指導にあたる。趣味は旅行、ガーデニング、温泉、フィットネス。好物は赤ワインと柿の種せんべいで、スイスに来てからは家庭菜園で野菜作りに精をだしている。長所は明朗快活で前向きな点。短所はうっかりものでミスが多いこと。現在の夢は北欧をキャンピングカーで周遊することである。

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