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イラク人虐待で、スイスの国際的な対応要求強まる

バグダッドのアブグレイグ刑務所で米軍のイラク人虐待事件が明るみになった。 Keystone

イラク駐留軍の米兵によるイラク人収容者への虐待事件をきっかけに、人権侵害を批判してきたスイス政府に対し、「口先だけ」との声が国際社会で漏れ始めた。

虐待はバグダッドのアブグレイブ刑務所に限らず、イラクの他の刑務所でも起きていたことが明らかになっている。イラクでの人権侵害の実態を把握し、国際社会の枠組みで改善できるよう積極的に対応するよう圧力が強まっている。

国際人権連盟(FIDH、本部パリ)は現在、スイス連邦外務省に対し、米英兵によるイラク人の人権侵害を協議するため国際会議を主催すること、また、逮捕や尋問の際の暴力、刑務所での虐待の有無を調査するよう要請している。

外務省は近日中に書簡でFIDHにこれらの要請について返答するとしているが、「行動を取るにはまだ時機尚早」(外務省)と話しており、現時点での行動は望み薄のようだ。

組織的関与

 スイスが米英兵のイラク人虐待に対して圧力を受けるのは、捕虜の取り扱いを定めたジュネーブ条約がスイスで採択されたことと、同条約を同国が批准していることが理由に挙げられている。

 ジュネーブ条約は批准国が同協定を遵守する義務を負うだけでなく、自国以外の批准国に対しても同協定を遵守するよう求める義務を定めている。また、批准国は同協定の違反が認められた場合には、違反者を裁判に持ち込むことが義務付けられている。

 米国、英国の両政府も虐待に関与した兵士を捜査し、また被害者にも賠償すると表明している。だが、当事国である両政府が虐待の事実をどこまで解明できるのか疑問の声が上がっている。両政府がイラク人虐待事件を一貫して一部の兵士による「個人の犯罪」として主張しており、米国防総省などの組織的な関与を否定しているためだ。
 
 イラク人虐待事件で米軍の内部調査をしたダグバ米陸軍少佐は11日、米上院軍事委員の公聴会で「同調査が刑務所の運営方法に限定されており、尋問方法については調べなかった」と述べており、組織的な関与について調査が及ばなかったことを明らかにしている。

スイスの選択

 国際的人権組織や専門家は、スイス政府に対し、イラク人虐待問題で積極的に対応するよう働きかけている。

 アムネスティ・インターナショナルは先週、ミシェリン・カルミ・レ外相にイラクでの人権侵害問題を国連拷問禁止委員会に訴えるよう書簡で提案した。また、アムネスティは、米国と英国がジュネーブ条約に違反していることから、両国に武器の輸出を止めるようスイス当局に求めている。

 ジュネーブ大学の国際法の専門家ルイジ・コンドレリ教授は、スイス政府がイラクでの人権侵害を調査するよう国際人道事実調査委員会(本部ベルン、スイス)に要請することもできると指摘する。

 同委員会は、ジュネーブ条約の違反を調査することを目的として91年に設立されたが、過去一度も調査活動の要請を受けたことがない。


 スイス国際放送 フレデリック・バーナンド    安達聡子(あだちさとこ)意訳

ジュネーブ条約は、批准国が同協定を遵守する義務を負うだけでなく、自国以外の批准国に対しても同協定を遵守するよう求める義務も定めている。

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SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

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