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クリーンテクノロジー 失われた時を求めて

ソーラーパネル スイスではまだあまり見かけないが、需要は高まっている Keystone

クリーンテクノロジー ( 環境に配慮した技術 ) の分野でスイスは、取っておきの切り札を持っている。それは、技術提供が可能なスイス企業が多いことだ。とはいえ、まずは「失われた時」を取り戻さなければならない。

「クリーンテクノロジー分野におけるスイス国内の特許申請数は、2008年だけでも人口100万人あたり20件に上った」

と言うのは、連邦知的財産権協会 ( IGE/IPI ) のハインツ・ミュラー氏だ。

 ミュラー氏はチューリヒで3月28日、初の「スイス・クリーンテック・リポート ( Swiss Cleantech Report ) 」を発表。それによると、各国を比較した場合スイスの特許申請件数を上回るのはドイツのみで、人口100万人あたり23件。

 このリポートで特筆すべきことは、スイス企業がその投資総額の平均5~7%をエネルギー効率改善の技術に投じている点だ。なかでも、製紙および電気機器産業に12%以上、電力産業に48%を投資している。

 「2008年スイスのクリーンテクノロジー分野における労働者数は16万人で、これはスイス全労働人口の4.5%にあたる。国内総生産 ( GDP ) においてクリーンテクノロジー部門が占める割合は3.5%、金額にして200億フラン ( 約1兆8600億円 ) だ」

 と、経済省経済管轄局 ( SECO ) の局長代理エリック・シャイデッガー氏は語り、この分野がスイスの観光部門を上回る業種になると指摘する。

成長市場

 クリーンテクノロジー部門は今後さらに成長するとみられている。ブルームバーグ社の「ニュー・エナジー・ファイナンス ( New Energy Finance ) 」誌の調査によれば、2010年のクリーンテクノロジー年間投資総額は、前年比で世界全体で30%、金額にして2430億ドル ( 約22兆6300億円 ) 増加した。2020年までには10倍に膨れ上がる可能性があるとみられている。

  

 スイスの医薬品およびバイオテクノロジー産業は、クリーンテクノロジー分野で世界のトップクラスだ。立地条件等に恵まれ、今後も「日の当たる特等席」を確保できるだろうとシャイデッガー氏はその成長を展望する。

 スイスはいくつかの分野で既に確立した技術的知識を持っている。例えば、ごみの分類、リサイクル、微小粒子状汚染物質の処理に関するノウハウだ。また、小規模水力発電、熱再利用、太陽熱および太陽光エネルギーも、今後の成長が有望視されている分野だ。

効率が良い太陽光発電

 太陽光発電に関していえば、とりわけ薄膜型太陽電池の分野で、スイスには優れた研究所が存在する。そのひとつ、ヌーシャテル市にあるマイクロテクノロジー研究所 ( PV-LAB ) は約60人が働く連邦工科大学ローザンヌ校 ( EPFL/ETHL ) に属する機関。スイスのみならず世界をリードしている。

 

 所長のクリストフ・バリフ氏は、太陽光発電に将来性を見出す人は数年前まではほとんどいなかった、と振り返る。しかしその後この分野は飛躍的に発展し、法制度も整った。

 他国では、例えばドイツは太陽光発電の推進に力を入れている。

 「(ドイツでは)太陽光発電による電気量が倍増するごとに、電気代が20%下がることになる」

 とバリフ氏は指摘する。一方でスイスの太陽光発電は、技術などの点では優れているが大規模市場よりもいわゆる「隙間市場」向きだ。

 マイクロテクノロジー研究所は、オーシー・オエリコン社 ( OC Oerlikon ) の太陽電池開発を支援している。オーシー・オエリコンが製造するアモルファスシリコンを応用した太陽電池は、熱効率が20%と高い。この太陽電池の製造にはかなり精密な技術を要するが、その一方で工程は簡単だといわれている。

 こうしたことから、いくつかの産業グループはこの太陽電池に関心を寄せている。例えばドイツの「ロス&ラウ ( Roth & Rau ) 」社はヌーシャテルに支社を設立し、スイスの技術をもとに新たな製造部門を開設した。1平方メートルあたりの費用がわずか約200フラン ( 約1万8600円 ) の太陽電池の製造を目指す。

失われた時を求めて

 クリーンテクノロジー分野の開発は進んでいるが、スイスが貴重な時間を失ったことを忘れてはならない。

 「スイスはいわば、(他国より)早く起き上がったものの、完全に目が覚めるのに時間がかかった国だ」

 と、ローザンヌ市発行の週刊新聞「レプド ( L’Hebdo ) 」紙は指摘している。


 「スイスで、ドイツと同じだけの太陽電池を設置した場合、およそ原子炉1基分の電力供給量にあたる」

 とバリフ氏は指摘する。スイスは、あらゆる前提条件を満たしていたにも関わらず、近年はずっと居眠りをしていたというわけだ。
  

 ドリス・ロイタルト環境・エネルギー相も、クリーンテクノロジーが1990年代に長く停滞していたことを認めざるを得ない立場だ。さまざまな要因があるが、国内市場が小規模であること、政府支援が不十分だったことなどが挙げられる。

 政府もこの分野におけるスイスの勢力挽回を目指しており、11月初旬にはクリーンテクノロジー分野の代表者たちに対して約50の提案を行っている。これをもとに、確固とした太陽光発電政策を打ち出したい考えだ。

 それには、「太陽光発電の知識・技術の宣伝に力を入れなければならない」とシャイデッガー氏はみている。

 しかし、果たしてそれで目標は達成できるのかという疑問は残る。スイスは2020年にはこの分野で再び最上位に登りつめたい構えだが、そこには一抹の不安があって当然だ。

 なぜかというと、政府による「クリーンテックの基本計画」の内容の多くは、州、産業および学術界の専門家に対する単なる提案にとどまるものだからだ。利潤追求がこのまま先行するようであれば、スイスが「失われた時」を取り戻しさらなる発展を目指すまでには、この政府提案も効果を発揮しないだろう。

クリーンテクノロジーとは、天然資源の消費を減らし、自然環境の維持に寄与する技術・製品・サービス等をいう。クリーンテクノロジーにさまざまな分野がある。例えば再生可能エネルギー、エネルギー効率、エネルギー貯蔵、再生可能資源、ごみ利用、水利用、農業、林業など。

なお、対外貿易統計によると、スイスのクリーンテクノロジー分野は1996年から2008年までの輸出総額の約15%を占めた。

出典: クリーンテック  ( www.cleantech.admin.ch )

( 独語からの翻訳、濱四津雅子 )

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SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

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