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スイスで福祉

研修を受ける2人のお気に入りの場所で。「スイスの方が進んでいるかという問題ではない」と語る swissinfo.ch

それは40年ほど前、日本で福祉という言葉がまだ馴染みのないころに始まった。京都国際社会福祉協力会の現理事長である所久雄氏がスイスのヌーシャテルに留学したときに浮かび上がった構想だった。

スイス人のペーター・バウマン宣教師の協力を得て、日本とスイスの福祉関係者の交流が始まったのはそれから10年ほどたってから。現在、日本から毎年、2人の福祉指導員がスイスの施設で研修を受けている。 

 4月21日から6月末までの10週間、トゥーン(Thun)市で研修を受けているのは、藪木佳子(やぶきよしこ)さん(36歳)(京都市のぞみ学園)と米山尚子(よねやまなおこ)さん(31歳)(京都市、野菊荘)の2人。藪木さんは知的障害者の施設に、米山さんは母子生活支援施設に配置された。受け入れ側で2人とスイスの施設を仲介するのは京都で福祉の勉強をし、日本語を話すエディット・エグロフさん(51歳)だ。

言葉の壁を越えて

 研修が決まってからスイスに来るまでの1年間、京都でドイツ語を学んだ2人だが、言葉の壁は厚い。「自分の専門ですから、大体のことは分かります。また、知的障害者は単純な単語で意思を伝えてくれますから理解しやすいのですが、わたしの気持ちを伝えるのが難しかった」と藪木さん。障害者が日々、抱くであろう葛藤を味わったという。また「長年現場で働いてきたため、仕事に慣れきってしまっていた面がある。研修を受けて初心に帰られた」というのは米山さん。京都市とスイスの間で、こうした研修があること自体に有意義さを感じているという。

 2人にとって毎週水曜日にあるミーティングは、重要な時間だ。ミーティングではエグロフさんの通訳を通し、その一週間に抱いた疑問を問うことができるほか、自分たちが施設に対して思ったことや提案さえできるからだ。しかし、スイスのシステムや方法をうのみにするつもりはまったくない。

取り入れたいことは時間

 スイスの福祉が進んでいるのか、日本の福祉は遅れているのか。そういった問題ではないと2人は言う。歴史、文化、生活のスタイルの違いから工夫されてそれぞれの福祉の姿があるからだ。

 スイスの母子生活支援施設では、母親の自立をのために1週間のスケジュールを立てさせ、それに従って生活をするよう指導するという。こうした支援の仕方は日本人には無理だと米山さんは感じた。

 一方で、2人が日本でも是非取り入れたいと思うのは、手軽に受けることができるセラピー。障害者や施設に住む人たちを対象としたセラピーばかりではなく、指導員の間でもするセラピーの両方だ。特に指導員のストレス解消には役に立ちそうだ。

 セラピーは、すべてにおいてスイスのほうが時間があるからこそできることでもあると2人は分析する。スイスでは、知的障害者や支援を受けている子どもたちと指導員はゆっくりと話をする。これは、ライフスタイルの違いからくると言うのは藪木さん。「日曜日に商店が閉まってしまうという不便さがあるスイスですが、時間に余裕がある生活をしていると思いました。生活が便利になると時間があるようにはなりますが日本では、時間があればあるだけ、時間を大切にしないようです」さらに、スイス人は仕事とプライベートとをはっきり分けているので、仕事に余裕が出てくるようだという。

違いにオープンなスイス

 2人がスイスのことについて質問すると、必ず日本のことを聞いてくるという。異文化に対する興味が、スイス人には特にあるからだと2人は思う。知らない人でも街中で自然に言葉を交わすのも、そうした土壌があるから。外国人としても居心地がよいが、福祉関連の仕事をごく普通の仕事として受け止めてくれるのが、日本とは違うと感じた。

 2人の研修は6月末までの2週間を残すだけになった。より多くの体験をして、日本に帰ってからの2人の仕事の取り組み方に変化は生まれるだろうか。京都市のこうした小さなプロジェクトが年々積み重なり、日本やスイスの福祉が徐々に変わっていくだろうか。

swissinfo、佐藤夕美(さとうゆうみ)

1976年から開始。
スイスの「ミッション21」ほか京都の福祉関連民間団体などの共同出資、協力で毎年日本人の研修生をスイスに派遣。
日本での給料はそのまま保証され、スイスでの住居費、旅費、交通費が支給される。

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SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

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