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スイスの2011年を振り返る

東日本大震災と原発事故は、スイス人にとっても今年最大の出来事の一つとなった。4月9日、福島県南相馬市で自宅跡に花を供える女性 Keystone

2011年は激動の年となった。「アラブの春」に次ぎ、3月11日の東日本大震災と福島原発事故。円高、スイスフラン高に加え、欧州債務問題が解決されないまま新しい年を迎えようとしている。

スイスもこうした世界の動きの中で大きく揺れた。福島原発事故を受け、スイス政府と連邦議会は段階的脱原発を決定。また、ほかの欧州諸国に比べ失業率は低いものの、スイスフラン高で中小企業の輸出が打撃を受けている。大手銀行のUBSやクレディ・スイスの長期信用格付けの引き下げも行われた。

 しかし、スポーツ界では明るいニュースもあった。2011年始め「ヨーロッパフィギュアスケート選手権」で、スイスのサラ・マイアー選手が女子シングルスで初優勝を飾り、年の終わりにはテニス界の王者ロジャー・フェデラーが年間最終戦ATPワールドツアー・ファイナルで優勝した。以下、スイスの2011年の出来事を振り返ってみた。

1月19日

 23年間続いたチュニジアのベンアリ政権が16日崩壊。その結果を受け、スイス政府はベンアリ前大統領の資産凍結を発表。

1月29日

 ベルンで1月24日から30日まで開催された「ヨーロッパフィギュアスケート選手権」で、スイスのサラ・マイアー選手が女子シングルスで初優勝。

 長期にわたる不調のため、静かに競技生活から引退しようとしたマイアー選手だが、同大会がスイスで開催されたため最後のチャレンジを決意。特にフリーは完璧で、スイス国民は「ベルンの奇跡」と呼び心からマイアー選手に拍手を贈った。なお、同じく競技生活に終止符を打ったステファン・ランビエールは、同選手権でスイス国営テレビの解説者を務めた。

2月7日

 「ローザンヌ国際バレエコンクール」の決勝で、日本の加藤静流 ( しずる ) 君と堀沢悠子 さんが入賞。

2月11日

 エジプトのホスニ・ムバラク大統領 が18日間にわたる民衆の反政府デモの後、辞任を決意し全権限を軍の最高評議会に委譲。

2月13日

 国民投票で銃器の入手と保管規制を求めるイニシアチブ「銃器による事故防止のために」が否決され、スイス国民は家庭での銃器保管の伝統を選択した。しかし、今年の秋にも、スイス軍の銃器による2件の殺人事件が起こっており、スイス国防省は規制強化を表明している。

3月11日

 東日本大震災、福島原発事故発生。12日、スイス連邦外務省 ( EDA/DFAE ) は、被災地への捜索・究明チーム派遣を決定。13日朝、日本に到着した22人の専門家と9匹の捜索犬は、2グループに分かれて14日から宮城県南三陸町で救助活動を行った。

4月6日

 福島原発事故の影響を受け、およそ1000人の若者を中心にした反原発集会がベルンの連邦議会前の広場で行われた。

5月1日

 バラク・オバマ米大統領はアメリカ時間の5月1日夕刻、オサマ・ビンラディン容疑者を殺害したと発表。スイス政府もこれにコメントを寄せ、ミシュリン・カルミ・レ大統領は、「アルカイダが実質的に崩壊するというニュースは歓迎すべきものだ」と述べた。

5月19日

 武田薬品工業はナイコメッド( Nycomed ) を98億ユーロ(約1兆1400億円)で買収したと発表。これで武田は世界の医薬品売上高で13位から10位に浮上。また、このM&A(合弁・買収 )は両社にとって理想の組み合わせを形成するといわれている。

5月25日

 福島原発事故を受けスイス政府は、「2034年までの段階的脱原発」を政府案として発表した。

7月8日

 スイスは2009年の国民投票で、ミナレット(イスラム寺院の尖塔)の建設禁止を憲法に盛り込んだ。それに対し欧州人権裁判所は「人権条約に違反しない」との判決を下した。

8月13日

 第64回ロカルノ国際映画祭で青山真治監督の「東京公園」が最高賞の金豹賞(グランプリ)と同格の「金豹賞審査員特別賞」を獲得。なお、前日の12日、8000人の観客が集まったピアッツァ・グランデ広場で松本人志監督作「さや侍」が熱い拍手に迎えられ上映された。

9月6日

 スイス国立銀行(SNB/スイス中銀)は、スイスフランへの「過大評価」を阻止するため、対ユーロ相場で1ユーロ=1.20フランを上限に設定し、為替介入をすると発表した。

9月7日

 ミシュリン・カルミ・レ大統領兼外相は、今年12月末で9年に及んだ外務大臣の任務に終止符を打つと発表。初の女性外務大臣として、小国スイスの存在を国際的に高めたカルミ・レ大統領の功績は高く評価されている。

9月15日

 スイスの銀行最大手UBSは、投資銀行部門のトレーダーによる不正取引で約20億ドル(約1530億円)を損失したと発表。これは、スイスの金融史上最大の不正事件に当たり、この31歳のトレーダーは、ただちにロンドンで逮捕された。

 なお、この事件を受けUBSのオズワルド・グリューベル前CEOは、引責辞任を表明した。

9月28日

 全州議会(上院)は、2034年までにスイス国内の全ての原発を廃止し、再生可能エネルギーの支援強化を行うと決定。これでスイスは政府の提案通り、2034年までの段階的脱原発に舵を切った。

10月20日

 リビアの元最高指導者ムアンマル・カダフィ大佐、死亡。スイスとリビアの関係は、息子のハンニバル・カダフィ氏が2008年にジュネーブで警察に拘束されて以来悪化の一途をたどっていた。
 
 しかし、今年8月にカダフィ政権が倒れて以来、関係は徐々に好転。スイスは革命初期にカダフィ大佐の資産およそ6億5000万フラン(約562億円)を凍結し、カダフィ政権の関連企業や関連組織に制裁措置を加えた。

 カダフィ大佐の死後、スイスのリビア専門家の多くは大佐が死亡せずに、ハーグ国際司法裁判所などの法廷で裁かれべきであったとする一方で、今はリビアがスイスに対して行った報復行為などを許し、今後の発展に期待を寄せるという立場を取っている。

10月23日

 4年に1度の連邦議会の総選挙で、まず国民議会(下院)選挙が行われた。第1党の右派国民党(SVP/UDC)が8議席、第3党の急進民主党(FDP/PLR)も5議席を失い、大政党の後退が目立った。

 一方、エコロジーと経済発展を目指す中道の自由緑の党(GLP/PVL)が9議席を、中道右派の市民民主党(BDP/PBD)も9議席を新たに獲得。中道の小政党の躍進が際立った。こうした背景には、福島原発事故による国民の意識の変化が大きく影響しているといわれている。

11月2日

 第3四半期、スイスの銀行最大手UBSは10億2000万フラン(約905億円)、第2大手のクレディ・スイス(Credit Suisse)は6億8300万フラン(約606億円)の純利益を計上。しかし同時に、クレディ・スイスは1500人の人員削減を発表。UBSも夏に3500人の削減を発表した。

11月5日

 バーゼルのテニス大会、「スイス・インドアーズ(Swiss Indoors)」で日本のエース、錦織圭(にしこり けい)が準決勝でノバク・ジョコビッチに勝つという快挙を成し遂げた。しかし、翌日の決勝ではロジャー・フェデラーに敗れた。

11月27日

 テニスの年間最終戦ATPワールドツアー・ファイナルでロジャー・フェデラーが優勝。この試合はフェデラーにとって100回目の決勝戦だった。ATP世界ランクは4位から3位に上がった。

12月14日

 閣僚選挙で6人の現閣僚が再選され、退任するミシュリン・カルミ・レ現外相の後任に、同じ社会民主党のアラン・ベルセ氏が選出された。ベルセ氏は、2012年から内務大臣を務める。

12月16日

 国際的な格付け機関フィッチ・レーティングス(Fitch Ratings)が、欧米の大手銀行の長期信用格付けを一斉に引き下げた。それによるとスイスの第2大手クレディ・スイス(Credit Suisse)の格付けは、「AA-」から「A」に。スイス最大手のUBSはすでに10月に「A」に格下げ済み。なお、UBSの今後の評価は「変わらず安定」とされている。

12月19日

 北朝鮮の金正日 (キム・ジョンイル)総書記の死去が発表される。スイスと北朝鮮の関係は深く、スウェーデンと共に南北朝鮮間の休戦を監視する「中立国監視委員会」のメンバー。また1990年代、北朝鮮の飢餓状況に対し、連邦外務省開発協力局(DEZA/DDC)はいち早く人道的援助を開始。その後農業を中心とした開発援助を継続した。しかし、援助は連邦議会の反対を受け、2011年末で終了の予定。

 なお、金正日(キム・ジョンイル)氏の3男で後継者の金正恩(キム・ジョンウン)氏は、10代にベルン近郊の学校に通っていたことがある。

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SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

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