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チェルノブイリ原発事故から17年、放射線汚染は今 ?

ウクライナでは1986年から1999年の間に爆発時に子供だった約1200人の患者が甲状腺癌の手術を受けた。 Keystone

旧ソ連の、チェルノブイリ原子力発電所事故(1986年)以来、17年経つが定数量放射線による被害は続いている。国連人道問題調整事務所(OCHA)とスイス開発協力庁(SDC)は「国際チェルノブイリ研究情報ネットワーク(ICRIN)」の開始を27日、ジュネーブでの会見で発表。

ICRINは被害を受けたウクライナ、ロシア連邦、ベラルーシの3ヶ国の被害者を直接支援するネットワーク。経済、社会、環境、健康などに関する国際的科学者専門チームによる確かな情報提供を行うプロジェクトでOCHA内に事務局が作られる予定だ。

広島と長崎の研究

 同プロジェクト発起人であるOCHAの大島賢三国連事務次長は「広島と長崎の原爆投下とチェルノブイリ原発事故は全く違った質のものだが、長年、広島、長崎で行われてきた研究はチェルノブイリの放射能被害の理解にも大変役に立つ」と語り、科学者チームに長崎や広島の研究員が参加する予定であることを明らかにした。

どのように役立つ?

 スイス政府は同プロジェクトに50万フラン(約4千5百万円/初年度予算の4分の3に当る)を出資するがSDCのウォルター・フスト所長は「いくら、研究しても地元の人々に役立たなければ意味がない」と語り、「どこの湖で釣りができるのか、どこでとった茸を売っていいかといった日常生活の回復につながるものにしたい」と語る。また、大島事務次長は「国土の23%が放射線汚染されたベラルーシの人々が、水や牛乳が飲めるのか、伐採された木の放射濃度はどうなのかといった地元の詳細な情報を入手できるようになるほか、どのような条件なら住み慣れた土地に戻れるのかといったことも分かる」と説明する。

 ロシアの汚染地域の代表者は「放射線が環境に放出されてからの大きな問題は、入手できる情報がどのくらい確かなのか分からないことだ。当初は被害地域出身の人間の隣に座るのも嫌がるといった無知さだった」という。SDCのフスト所長は「将来、万が一どこかで事故が起こった場合もこのような情報ネットワークは科学的に大変役に立つことになる」と加えた。

 「小さな予算で大きな希望が与えられる」と大島氏が語るICRINプロジェクトの対象はおよそ20万人(最悪の被害者数)。予算は毎年50万ドル(約6千万円)程度でスイスの他、日本なども出資する予定だという。


スイス国際放送、屋山明乃

<キーファクト>
‐1986年4月26日にウクライナ(旧ソ連)キエフ州北部のチェルノブイリ原子力発電所で発生した4号原子炉の爆発・火災事故。2000年、ロシア政府の発表によると事故処理に当った従業員の5万5千人以上が死亡、放射能の被爆者総数はウクライナだけでも347万7千人。時間が経ってからも甲状腺癌、白血病や家畜の奇形などが現れている。2000年末、事故後唯一稼動していた3号炉を停止し、チェルノブイリ原子力発電所は完全閉鎖された。

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SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

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