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初夏の大祭典!異色を楽しむ世界

メイン会場へのゲートだが、無料ゾーンなのでどこからでも出入り自由 swissinfo.ch

真夏の暑さに見舞われた6月初旬の4日間、私が住むポラントリュイの町は、スイスにいながら他の国に迷い込んでしまったのかと錯覚するような、国際色豊かな世界に染め上げられた。

2015年度版公式ポスター。毎回原色が主役、目立つデザインである swissinfo.ch

 2年に1度、ポラントリュイ市で開催されるエスニック・フェスティヴァル「モンド・ド・クラー(Monde de couleurs=色の世界」(以下、MDCと略す)。その名の通り、5大陸から異なる肌の色をした人達がカラフルな民族衣装に身をまとって集い、様々なイベントを行う。

 メイン会場は、町の中心部に位置するプレ・ド・レタン(Pré-de-l’étang)という名の公園である。直訳すれば「池の野原」。この場所には、旧市街が中世都市を形成していた時代、外敵の侵入を防ぐための水堀があった。後に埋め立てられて野原となり、市民の憩いの場へと姿を変えていった。

 公園という場所柄を活かした会場作りが功を奏し、便利な街中にありながらも緑豊かで、家族揃って寛げる空間である。

 多様なジャンルのコンサート、アマゾンの森林伐採など環境問題に関する講演会、アフリカ民話の朗読会。アジア武術のデモンストレーション、民族舞踊ワークショップなどなど…プログラムを眺めるだけでも世界一周旅行をした気分になる。

この週末、古都の城下町にある公園は、衣食住のあらゆる分野で国際交流の場となった swissinfo.ch

 新緑が美しい公園内では世界各国料理、衣服、雑貨屋など数多くの店がテントを連ね、内容は実にバラエティに富んでいる。

 購入したとしても、どうやって持ち帰ろうかと途方に暮れそうな巨大なアフリカ製の置物や民芸品が雑然と並べられていたりするのも面白い。そのような店では店主が客や仲間とおしゃべりしながらポコポコ太鼓を叩いたり、徒然なるままに歌を口ずさむといった、微笑ましい光景が見られる。

「通路に少々はみ出してもいいからとにかくありったけの商品を並べました!」というアフリカ人の店。このおおらかさ奔放さが祭りの魅力でもある swissinfo.ch

 この祭典は、毎回テーマが決まっている。過去にオセアニア、中東、アフリカなどがあり、今年はラテンアメリカ(中南米)だった。

このグループが披露してくれた「カポエイラ」は、ブラジルが発祥の、格闘技とダンスを組み合わせたスポーツ。アフリカから連れてこられた奴隷が、見張りにばれないよう、ダンスのふりをして完成させた格闘技らしい swissinfo.ch

 毎度のことながら、個性的な店がずらりと並び、お国柄を強烈に印象付けるイベントが1日中繰り広げてられているため、一見、テーマ色はかなり薄まっている。しかしそれがかえって祭りの多彩さ自由奔放さに拍車をかけている。

晴天に恵まれた週末、食事時はどこも一杯で、座る場所を見つけるのに一苦労した swissinfo.ch

 MDCの起源は2000年まで遡る。様々な国籍の若者から成るグループが、非営利かつ非政治的音楽・文化フェスティヴァルを開いたことがきっかけだった。情熱と連帯感で固く結束した彼らはイベント運営委員会のMDC協会を設立。エスニック色を前面に押し出した祭りは大好評を博した。

 2005年まで、MDCは毎年開催されていたが、その後、2年置きとなった。だが、より内容が濃くなり、ジュラのみならずスイス全土から来場者が集まるようになった。小さなグループが始めた地方の祭りは今や大規模イベントへと変貌を遂げ、世界各国からアーティストが招かれるようになった。

 2009年には当時のスイス大統領ミシュリン・カルミ・レ氏や、在スイスセネガル大使セック氏の訪問があった。

環境への配慮は並々ならないこの祭りで使われているリサイクルコップ。返却すれば2フランが戻ってくる仕組み swissinfo.ch
公園の大木を上手く利用したバー swissinfo.ch

 今年は特に蒸し暑い週末と重なり、飲み物が飛ぶように売れていたが、MDCのプリペイドカードシステムには、会計時の混雑を緩和させる効果があるに違いない。

MDC協会が直接運営しているバーやレストランでは、総合案内所でのみ取り扱っている5フランから50フランのプリペイドカードが有効で、飲んだ代金だけチェックを入れてもらう。未使用分は、受付で返金してもらえる。

 MDCの特色の1つに、「環境への配慮」がある。2009年から用いられるようになったリサイクルコップは2フランで、不要になれば受付で返金してもらえる。

特筆すべきは、2011年からスイスの電力会社(FMB)と提携し、使用電力の30%をリサイクルエネルギーから得ていることだろう。また、今年は隣村クールジュネ(Courgenay)の「KOUTEC」という太陽電池パネル設置会社とスポンサー提携を果たした。

ポラントリュイ出身のラッパー、シムス(Sim’s)が繰り出す言葉は決して暴力的ではなく、人類平等の尊さを万人に向けて訴えてくる。小さな子供にも安心して聴かせられるためか、コンサートには家族連れが多かった swissinfo.ch

 今回の新たな試みとして、有料ゾーンがメイン会場近くのショッピングセンター前に設けられ、毎日10フランから15フランという低価格で数々のコンサートが催された。私と家族は地元出身のラッパーで老若男女に愛されている「シムス(Sim’s)」のコンサートに行った。

 ラップというと様々な先入観にとらわれる人もいるかも知れないが、シムスの歌詞は罵り言葉はほぼ皆無。人種差別等の社会問題を扱っても、疑問を激しく叩きつけてくるのではなく、ユーモアを交え、かつ品良く語られる。

セネガルの町ルーガ(Louga)を健康面や教育面でサポートしていく「JAMM」(2013年創立)という協会の屋台では、アフリカの食材の名前を当てるゲームが行われていた。ちなみにオクラはフランス語で「Gombo」である swissinfo.ch

 地域同士の交流に根ざした小さな慈善団体の参加が多いのもMDCのもう1つの特徴であり、ジュラの人権意識の高さが伺える。慈善団体のブースでは、今もなお劣悪な環境での生活を余儀なくされている人々が世界のあらゆる地域にいるという現実を学ぶことができる。

 何よりも、団体にとっては来場者に自分達の存在を知ってもらう上で、祭りへの参加は非常に有意義である。私と夫も、セネガルの一地域を支援する団体のブースに知り合いの姿を見つけ、話を聴きに行った。

 次回のMDCは2017年の開催予定である。この記事を読んで興味が湧いた方、初夏を彩る「スイスの中の異色空間」を体験したい方は、是非訪れていただきたい。 

マルキ明子

大阪生まれ。イギリス語学留学を経て1993年よりスイス・ジュラ州ポラントリュイ市に在住。スイス人の夫と二人の娘の、四人家族。ポラントリュイガイド協会所属。2003年以降、「ラ・ヴィ・アン・ローズ」など、ジュラを舞台にした小説三作を発表し、執筆活動を始める。趣味は読書、音楽鑑賞。

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SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

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