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ユングフラウヨッホのレーザーでCO2削減

緊張を要するレーザー機器の調整

ベルナーオーバーラントの凍てつくアルプスの上で、気象学者がレーザー光線を画期的な方法で利用し、人間が環境に与える影響についてリアルタイムのデータを収集している。

メンヒとユングフラウの頂上の間にある鞍部 ( あんぶ ) のユングフラウヨッホは標高3471メートルに位置する。ここに設置されたスイス製のレーザー計測装置は、主だった温室効果ガスの二酸化炭素 ( CO2 ) の発生源を突き止めるために使われる。

量子カスケードレーザー

 標高の高いアルプスでCO2のレベルを計測する気象学者は、これまでは苦労して収集した個々のサンプルを遠く離れた研究所へ運んでテストしなければならなかった。ユングフラウヨッホではこうした測定が最近まで行われており、季節ごとの大気圏の変化だけしか分からなかった。

ヌーシャテル ( Neuchâtel ) を基盤にした「アルプス・レーザー ( Alpes Lasers ) 」 が製造した量子カスケードレーザーを搭載した新しい計測装置は、大気圏の最下部に位置する対流圏で何が起きているかを示すデータを分刻みで供給する。気象学者は、ユングフラウヨッホから何百キロメートルも離れたチューリヒやどこからでも変化を即時にモニターできる。

 「これが環境全体をもっとよく理解するのに役立つパズルの1片です。これは最終的に解決しなくてはならない温室効果ガスのモデルを作るカギとなる要素です」
 と「大気汚染と環境テクノロジー研究所 ( The Laboratory for Air Pollution and Environmental Technologies ) 」のプロジェクトに参加している科学者ルーカス・エメネッガー氏は語った。

CO2対CO2

 重さ約100キログラム、価格15万フラン ( 約1160万円 ) の計測装置の主な特徴は、装置が発射する中赤外から遠赤外域のレーザー光線だ。このレーザー光線はCO2を正確に計測するために必要な周波数を持っている。

 計測装置に組み込まれた計測室の容量は500mlで鏡張りになっている。計測室の内部に空気が定期的に送り込まれ、レーザー光線が計測室の中の空気に反射した時の反応を基に、科学者は空気中の分子が何であるかを分析できる。

 物の腐敗や海水の蒸発などによってCO2は自然発生する。それらの自然発生したCO2は、化石燃料の燃焼によって生成されるCO2よりわずかに軽い。異なる重量の分子は異なる反射をするため、レーザーはこの差を感知できるとエメネッガー氏は説明する。
「今ではそれぞれ特定の場所にある空気を測定することができるようになりました。CO2は空気中に必ず含まれていますから、分刻みで測定することによって地域レベルの、そして地球レベルでのCO2の流れが分かります」

なぜユングフラウヨッホ?

 エメネッガー氏によると、計測装置がユングフラフヨッホに設置されたのはわずか約3カ月前のため、これまでに収集したデータの分析は時期尚早だ。
「計測装置は雪の中にただ置かれているわけではありません。これは大きな研究システムというパズルの中の一片です」

 ユングフラウヨッホの凍結した大きな鞍部は、大気計測に非常に向いている。なぜならユングフラウヨッホはスイスで最も標高の高い地域の一つだが、壮観な山越えをする電車を利用できるため、計測モニターの担当者が容易にアクセスできるからだ。また標高の高い山の鞍部を移動する空気は、広い大地から集まった人工的な分子と天然の分子を幅広く含んでいるため科学者にとって貴重だ。

 ユングフラウヨッホの観測地はすでに、「国立大気汚染物質観測ネットワーク ( NABEL ) 」のための公害モニター基地、そして「世界気象機関 ( WMO ) 」の支部としての役割も果たしている。
「昔の装置は非常に大きくて移動させられませんでした。しかし、今では持ち運びと稼動が容易にできる方法を開発しました」
 とエメネッガー氏は語った。

swissinfo、トム・ネヴィル 笠原浩美 ( かさはら ひろみ ) 訳

チューリヒに基盤を置く「エンパ ( Empa ) 」は、企業と社会のニーズおよびそれらを促進する科学的方法の研究開発に焦点を合わせている。

ルーカス・エメネッガー氏は、ユングフラウヨッホで使用されているような、温室効果ガスの計測を迅速に行う高精度の分光機器の開発に携わった。同氏の研究目的は、大気の移動サイクルについての深い知識を基に、人間が作りだした大気汚染を減少させることだ。

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SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

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