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ヨーロッパの15%をまかなう太陽光発電

Keystone

スイスの重工業大手「ABB」を含む欧州の12の大企業が協力して、ヨーロッパの電力需要の15%をまかなう大型太陽光発電計画がスタートした。

この「デゼルテック計画 ( Desertec ) 」の代表者、ゲハルト・クニー氏は「北アフリカの砂漠など、発電所が設置される全地帯が6時間で受け取る太陽エネルギーの総量は、人類が消費する1年分のエネルギーに相当する」と同計画の規模をたとえた。

デゼルテック計画

 デゼルテック計画の構想は、2003年に地中海周辺52カ国の科学者、政治関係者、産業界のメンバーからなる民間のシンクタンク「ローマクラブ ( Club of Rome ) 」で始まり、特に同クラブのドイツ支部が計画をまとめた。

 目的は、2050年にヨーロッパ電力需要の15%を太陽光発電を基本とする再生可能エネルギーでまかない、また発電所周辺諸国に需要電力の大半を供給するというものだ。総事業費は4000億ユーロ ( 約50兆円) 。送電開始は10年後に見込まれている。

 具体的計画の第1歩は、7月13日ドイツ企業を多く含む12の欧州大手企業が計画実行のための研究機関創設に同意する議定書に調印することでスタートした。

 ドイツの「ミュンヘン再保険グループ ( Munich Re Group ) 」が中心にまとめた12の大手企業には、電力大手「E.ON」、「RWE」、「ドイツ銀行 ( Deutsche Bank ) 」、「シーメンス ( Siemens ) 」、スペインのアベンゴア・ソーラール ( Abengoa Solar ) 」、そしてスイスの重工業大手「ABB」などが含まれている。

損失の少ない送電

 「デゼルテック計画は太陽光発電では、世界最大規模だ。また、技術、産業系の企業だけでなく、再保険会社や銀行がグループに入っているため、計画を長期的に実行していく保障がある」
 とABBのヴォルフラム・エバーハルト氏は言う。さらに、
「この計画の挑戦の1つは、いかに電力を安全にヨーロッパまで送電するかということだ。わが社はこの分野においてかなりの経験を持っている」
 と続ける。ABBは2000キロメートルの送電をわずか10%の損失だけで行えるという。

 しかしエバーハルト氏は、
 「同計画の第1の問題は、巨額の資金だ。太陽光発電は、風力発電より費用がかかり過ぎる」
 という意見だ。

ほかの再生可能エネルギーと連結

 一方、スイスの太陽光発電専門企業の協会「スイスソーラー ( Swisssolar ) 」はデゼルテック計画に積極的な関心を寄せる。
「この計画で、ようやく太陽光発電はマイナーな発電方法ではなくなる。さらに、この計画は太陽光発電だけに限らず、風力発電やバイオマスなどほかの再生可能エネルギーと連結できる」
 と同協会のイブ・クリステン氏は説明する。というのも、
「デゼルテック計画では、ほかの企業や個人が生産する再生可能エネルギー電力を、デゼルテックの送電網の中に送り込むことができるからだ」

 「スイスには太陽光発電の専門家が多く存在し、この分野ではかなり先を行っていたにもかかわらず、このタイプのエネルギーを援助する計画が進まなかった。そのため周辺の国がスイスの技術を利用して先に進み、結果的に遅れを取ってしまった」
 と後悔するクリステン氏は、デゼルテック計画がスイスの太陽光発電に刺激を与えてくれると見ている。

 しかし、スタートしたばかりのデゼルテック計画には、まだ多くの課題が残されている。太陽光発電所用地の決定、電力の値段、場所を提供するアフリカ、アラブ諸国への貢献、発電所周辺のいくつかの国々の政治的不安定さなどだ。さらに、欧州連合 ( EU ) のどの国がドイツに追従してくるかがまだ不透明で、それが計画の主導的存在であるドイツのもっぱらの関心事になっている。

swissinfo.ch、フレデリック・ブュルナン、モハメッド・シェリフ           
( 仏語からの翻訳、里信邦子 )

目的は、ヨーロッパの電力需要の15%と発電所地帯諸国の大半の電力需要をまかなうというもの。2050年からの発電を目指している。

太陽光発電所地帯は、サハラ砂漠など北アフリカ、中東の広い地域に及ぶ。

何キロメートルにも渡って並ぶ、太陽光を集める放射面鏡が、太陽の動きに従って動く。

太陽光によって暖められた400度の合成油を触媒として、高温になった水が水蒸気となりタービンを回し、電力を生み出す。

その後、地中海の水中を通る高圧直流の送電技術により、ヨーロッパまで送られる。

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SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

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