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住民と難民の共存は?

ヴァローブ町の難民受け入れ施設は2000年に開設された swissinfo.ch

若い難民希望者と昔ながらにその村に住む高齢者たちの対立が目立つようになったのは、ヴォー州ヴァローブ村だ。ここには性格をまったく異にする2つのグループが、接点を見出せないまま同居している。

エヴェリン・ヴィトマー・シュルンプフ司法相が、スイス西部ジュラ地方の町にある難民受け入れ施設のオープンハウスを訪れ、実情を見学した。難民受け入れ施設を公開したのは、住民と難民希望者の対立が激しくなることを懸念してのことだった。

小さい町に200人の難民

 スイスには難民受け入れ施設が4カ所ある。バーゼル市、クロイツリンゲン市 ( Kreuzlingen ) 、キアッソ市 ( Chiasso ) 、そしてここヴァローブ町 ( Vallorbe ) だ。人口は3200人。その8%に当る200人が難民希望者と、圧倒的に難民希望者数が多い。バーゼルの場合だと、難民希望者の全人口に対する割合は0.3%となる。

 施設は街の中心から山側へ上がった方角にあり、駅のすぐ近くだ。よって駅は、難民希望が受け入れられたかどうか、申請結果を待つ人の待合所になっている。大勢の外国人、特にアフリカ諸国やバルカン諸国の出身者が駅や町にたむろするようになり、地元の人との対立が顕著化した。このため、町議会は2007年12月、難民希望者が駅でたむろすることを禁止したが、ヴォー州の州議会がこの措置は違憲だと禁止を撤回した。
 
 一方でヴァローブ町の現状を深刻に捉えた州政府と連邦政府は、住民と難民希望者の対立を緩和する措置を取ると約束した。
「ヴァローブ町は難民受け入れ施設があるために、苦労している。両者の対立のいくつかは根源的なものであり、その他の場合は両者の理解のなさから生まれたものだ。しかし、過去5年間、駅での暴力沙汰が1件あり、店舗に泥棒が入るといったことが数件あったが、深刻な問題は起こっていない。しかし、特に高齢者や若い女性の間で不安感が高まっている」
 とローラン・フランフォール町長は語る。

 退職者のレモン・セドリック氏はその不安は根源的なものだという。
「毎日、緊張感がある。そろそろ難民希望者に慣れてはきてはいるが」

 受け入れ施設のフィリップ・エンジ館長にとって、現在の街の雰囲気は「恒常的なカルチャーショック」だ。一方、エスター・グラフさんのように
「アフリカ人はわたしの知っているほかの人たちより礼儀正しい。毎日電車に乗るが、気にならない」
 という人もいる。

 39歳のクルド人、ヌスリムさんは住人が敵対心を持っているとは感じないが
「住民と接触しようとしたら、拒否された。ぼくが難民希望者だと知っているからだろう。彼らは冷たい」
 と言う。

強まる圧力

 駅で難民希望者の世話をするボランティアのルネ・クフェラーさんは、住民の不安を感じるという。
「法の改正で難民希望者が長くヴァローブ町に滞在することになった途端に、圧力は強くなったと思う」
 と言う。新しい難民法が2008年1月から発効し、結果が出るまでにより長い時間がかかるようになった。希望者は、以前は平均10日間しかここにいなかったのが、今は平均32日間になった。クフェラーさんは住民と難民希望者の間に「壁を作るのではなく橋を渡したい」と言う。不安は本当に人を病気にするからだ。
「多くの住民が、難民がうろうろして、道にゴミを捨てていくのを見ると頭にくる」
 とクフェラーさんは言う。

 圧力を緩和させるため、町は3月からいろいろな対策を講じてきた。施設の受け入れ人数をそれまでの276人から180人に減らした。緊急事態以外、この数を上回っての受け入れはない。9月からは毎日8人から10人の難民希望者が、川岸や散歩道のゴミ収集、公共活動に参加するようになる。

 新しい提案は多くの人に支持されているものの、長期的解決にはつながらない。
「現状を変えるためにわれわれができることには限りがあると思う。現状に至ったのは、連邦の責任だ。われわれはなにもできない」
 とセドリック町長は言う。駅の近くの難民受け入れ施設からは、町の悪い雰囲気は感じられない。エリトリア出身の若者が数人集まってお茶を飲みながら、チェッカーで遊ぶ。横にはアフガニスタン人がパズルの最後のピースをはめ終えたところだ。バグダード出身のアーティスト、ツィハフ・アル・マシャダニさん ( 35歳 ) が、クフェラーさんに難民希望者とその風景の絵を見せた。
「スイスは美しく静かで清潔な国だ。イラクの状況は惨憺 ( さんたん ) たるものだ。わたしはヨーロッパに残りたい。帰れない。帰らなければならないとしたら気が変になる」

swissinfo、サイモン・ブラドレー ヴァローブにて 佐藤夕美 ( さとう ゆうみ ) 訳

各国の難民申告者数 ( 2007年 )
アメリカ 49,200人
スウェーデン 36,200人
フランス 29,900人
カナダ28,300人
イギリス 27,900人
ギリシャ 25,110人
ドイツ 19,600人
イタリア 14,050人
オーストリア 11,880人
ベルギー 11,120人
スイス 10,390人 内1561人を受け入れた。内訳 エリトリア( 1662人 ) 、セルビア ( 953人 ) 、以下イラク、トルコ、スリランカなど。
最多年は1999年で、48,000人の申請者のうち30,100人がセルビア人とコソボ人だった。

難民政策については、ヨーロッパのほかの諸国とスイスは同じような状況にある。近年になり、難民希望者の中でも難民の条件を満たさない人やスイスに滞在を認められない人たちが多く記録されるようになった。
2006年9月、新難民法が国民投票で承認された。難民に対してスイスに申請することに魅力がなくなり、悪用を避ける目的で作られた法律で、1984年に設定された難民法を改正したものだ。難民希望者で有効書類を所持しない人や、信用に足りる説明がない人は、48時間以内に国外退去となる。難民としての申告を認められなかった人は、緊急援助以外の生活保護も受けられなくなる。緊急援助とは緊急に食事、住居、衣類、医療に関する援助を指す。
国外退去をしない人は、2年間の禁固が申し渡される。

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SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

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