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国籍申請者を町民無記名投票で審査

工業の町ルツェルン州エメンブリュックで、国籍申請者の新しい審査法式が導入され、論議をよんでいる。町のスイス人住民が、パンフレットに記載された個々の国籍申請者に関する様々な情報を吟味し、国籍申請を承認するか却下するかを投票するという。

工業の町ルツェルン州エメンブリュックで、国籍申請者の新しい審査法式が導入され、論議をよんでいる。町のスイス人住民が、パンフレットに記載された個々の国籍申請者に関する様々な情報を吟味し、国籍申請を承認するか却下するかを投票するという。

スイスは外国人人口がヨーロッパ1高い。700万の全人口のうち外国人は140万人で、約20%を占める。多くは1960年代から70年代に、スイスの労働力不足を補うため、スイスに移住してきた。今後もスイスに定住する見込みで、スイス国籍を取りたいと願う人々が多い。

エメンブリュックの外国人人口は、30%を占める。ほとんどの外国人は、エメンブリュックの工場が従業員として募集し、連れて来た。エメンブリュックに住んで20年から30年。ここで生まれ育った子供達とともに、スイス社会への統合の最後のステップとして、スイス国籍を申請した。

スイスで国籍を申請するためには、スイス在住12年以上が原則だ。決定は、居住する市町村の自治体によって成される。ローズマリー・シメン連邦が異国人委員会会長は、「変則的なシステムだと思われるかもしれませんが、スイス人は自己アイデンティティーを先ずどこの町の人間かに求める。スイス人であるという意識は二の次なのです。」と言う。

他の多くの自治体と同様エメンブリュックでも、自治体の国籍審査委員会が、国籍申請者を審査し、自治体と町民に承認・却下の推薦をした。が、町の右派政党らによって今回導入された新方式では、個々の国籍申請者について町民が無記名投票で審査を下すというものだ。3月12日、56人の国籍申請者が、この方法で審査される。エメンブリュックの町議会は、個々の国籍申請者の写真、職業、収入、納税状況、趣味にいたるまでの個人的な情報を記載したパンフレットを作成、投票権を持つ全スイス人町民に無料で配付した。

今回国籍を申請した一人、ボスニアヘルツェゴビナ籍を持つサネラ・コザラクさんは「大変な辱めを受けたように感じている。全住民が私に関する全てを知っている。知られていないのは靴のサイズだけだ。」と憤る。21歳の病院助手の彼女は、幼少期に両親と一緒にボスニアから移住してきた。彼女が故郷を離れた時、ボスニアヘルツェゴビナは、ユーゴスラビアの1部だった。「ボスニアは、私にとって故郷とは思えません。私の故郷は、家はここです。でも、もし今回スイス国籍を取れなかったら、もう2度と申請する気はありません。こんな公衆の面前で恥をさらすような事は、2度とごめんです。」と言い切る。

ところが、スイス人民党エメンブリュック支部長のクルト・ポルトマンは、パンフレットにはもっと詳細について載せるべきだったと言い、エメンブリュック(スイス人)町民には知る権利があると主張する。

気の毒だが、コザラクさんら旧ユーゴスラビアから来た人々の申請は、パンフレットの情報がどうあろうと、写真写りがどんなに良かろうと、却下されるだろう。ポルトマン人民党支部長は、バルカンから来た人々への嫌悪を隠そうともせず「勤勉な外国人は歓迎するが、スイスのパスポートは与えない。バルカン人はスイス人より乱暴で、犯罪者が多い。20年前、私は家に鍵などかけた事はなかったが、今ではそんな事は想像もできない。」と言う。

旧ユーゴからの移民がスイスで犯罪を犯すというのは、事実ではある。最近では、ドュリケンでスイス人男性が射殺されたが、犯人はスイス人(スイス籍)だったものの皮肉にもボスニアヘルツェゴビナ出身者だった。これら犯罪者はもちろん少数だが、スイス人達がバルカン出身者を隣人として歓迎したくない気分にさせている。

マリアンネ・ブッヒャー・エメンブリュック住民委員は、エメンブリュックの国籍申請者がスケープゴートになるのではないかと心配している。「旧ユーゴスラビア出身者は、だれも国籍を承認されないだろう。これらの人々こそ最も長くここで生活してきた人々で、我々の助けを必要としているのだが。」と語る。

投票者らは、これら国籍申請者が、たとえ今回申請を却下されても、今後も全員ここに住み続けていくのだという事実に気付いていないようだ。彼等は永住権(永住ビサ)はすでに持っていて、ここに仕事があるのだ。それどころか、投票の結果、今までスイス及びスイス人に対して良い感情を持っていたエメンブリュックの外国人達に、未来に影響する禍根を残す危険性すらある。フリブルグのあるマケドニア人男性は、スイス国籍申請を却下され「25年間のスイス生活で、自分を外国人として意識したことなどんかったが、今思い知らされた。」と言ったように。

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