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国連エイズ合同計画の目標達成ならず

ウガンダの感染病施設の病棟で横たわるエイズ患者 Reuters

HIV/エイズとの戦いは現在も進行中だが、連邦保健局のトーマス・ツェルトナー局長によると、2001年に国連で設定された目標は予定期限の2010年までには達成できないもようだ。

6月10日、11日にニューヨークの国連総会で行われた、世界各国の政府代表者や専門家によるエイズについての会議に出席したツェルトナー氏は、HIV感染予防のためにより一層の努力が必要だと語った。

 潘基文 ( パン・ギムン )国連事務総長、各国国家元首および80人以上の大臣、高級官僚、国際機関とNGOの代表者が、「HIV/エイズに関する誓約宣言 ( 2001 Declaration of Commitment on HIV/Aids ) 」と「HIV/エイズに関する国連政治宣言 ( 2006 Political Declaration on HIV/Aids ) 」で決議された目標の進捗状況を審査した。

 国連エイズ合同計画 ( UNAIDS ) の目標の1つは、2010年までに若年層の男女のHIV感染率を25%減らすことだ。

 11日の夜終了した2日間にわたる総会では、未解決の問題と、それらの問題の持続可能な解決方法についても話し合われた。また潘事務総長は世界規模でのエイズ対策についてのレポートを発表した。このレポートは、国連エイズプログラムの「UNAIDS」に提出された、2008年1月末付けの147カ国の進捗状況の報告に基づいている。

swissinfo : ニューヨークでの会議での主要な議題は何ですか?

ツェルトナー : 2001年から、いくつかの目標に関してはかなりの向上が遂げられました。しかし今日明らかになったことは、2001年から2010年までの期間の目標は達成できないだろうということです。同じ目標に向けて努力を続けるべきですが、期限を再設定する必要があります。

swissinfo : なぜ目標が達成されないのでしょうか?

ツェルトナー : まず第1に資金不足が挙げられます。そして第2に、多くの国々ではまだプログラムを推進するための基礎構造ができていないことでしょう。例えば、それぞれの国が自国のプランを作るといったプログラムの基本的な条件や進捗状況をモニターするためのシステムと国の構造がまだできていないことなどが挙げられます。こういった基本的なインフラが無い限り、プログラムに基づいた活動を行うことはできません。

swissinfo : 世界規模でエイズ対策を行っているにもかかわらず、HIVの新たな感染者数は、抗エイズ薬による被治療者の数を上回っていると国連は報告しています。状況は改善しているのでしょうか?

ツェルトナー : はい、その点に関しては間違いありません。事務総長がレポートで述べたように、今日HIVに感染しているか、エイズを発症している人々の3分の1がプログラムによる抗エイズ治療を受けており、これは大きな前進です。また、多くの国で、母親から子供への感染がかなり減少しました。目標に反して、問題があるか前進が見られないと思われる分野は感染の予防です。

swissinfo : エイズとの戦いは、どこまでが製薬という科学的な問題で、どこまでが抗エイズ薬を必要とする人々へ薬の供給という政治的問題なのでしょうか?

ツェルトナー : 両方です。現時点における感染症の問題は、男性より女性に多発していることです。これはやはり性の不平等という問題からきているため、予防用のワクチンの開発が望まれます。これは未解決の医学的な問題です。

現在取り組んでいる課題はエイズウイルスを殺す女性用のジェルです。これは画期的な選択肢で、異性愛社会に現状打破をもたらすかもしれません。

swissinfo : 気候変動の影響はもちろんのこと、原油価格と食品価格の高騰はエイズで苦しむ人々にも影響を与えています。エイズ問題は国連と各国政府の優先順位の上位に入っているのでしょうか?

ツェルトナー : 5年前、10年前には、エイズは途上国、先進国の両方にとって最優先問題でした。しかし、現在ではほかの問題が浮上しています。

ピーター・ピオット( 13年間UNAIDSのエグゼクティブ・ディレクターを務め、離職予定 ) が昨日、エイズという感染症は「ヘルス・クライシス」であると上手く表現しました。確かにエイズはまだヘルス・クライシスですが、それと同時に今後30年から40年の間に投資が必要な慢性病になりつつあります。

swissinfo : ニューヨークでの会議とエイズとの戦い一般におけるスイスの貢献は何でしょうか?  

ツェルトナー : 財政面におけるわれわれの貢献度はそう大きくありません。しかしスイスはUNAIDSと「エイズ、結核、マラリア対策グローバル基金 ( The Global Fund to Fight Aids, Tuberculosis and Malaria ) 」の議会メンバーです。それら2つの組織のメンバーとして優先順位を設定するのは非常に重要なことだと考えています。

抗エイズ薬の問題に関して、スイスは知的所有権と抗エイズ薬へのアクセスについて積極的に活動してきました。5月にジュネーブで2つの利害関係者の仲介をした際には、大きな成果を上げたと思います。

swissinfo、トーマス・ステファンズ 笠原浩美 ( かさはら ひろみ ) 訳

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