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歯医者に行くのはもう怖くない

この「拷問台」に座るのが好きな人もいるけれど Keystone

スイスで歯医者に行こうと思ったら虫歯だけでなく身ぐるみはがれる、といわれるほど高額な治療費を覚悟しなければならない。

痛い思いをして虫歯を治したと思ったら、今度は頭が痛くなりそうな高い請求書が届く。このため、スイスでは多くの人々が、虫歯ができても歯医者に行くのを我慢したり、国境を越えて外国まで歯を治しに行く。

 今年バーゼルで開催された「2005デンタル・メッセ」を訪れたら、どんな歯医者嫌いでも、今後は治療の痛みや飛び抜けて高い請求書に怯えなくなるだろう。

 これが、ウーリッヒ・ローバッハ・スイス歯科医師会長の切なる願いである。「私は、40年前ではなく、この現代に歯医者を職業にしていて、本当に良かったと思っています」ベルン市で歯医者を開業している同会長は話す。

 「この分野は昔に比べ、技術においても、使う材料においても、格段に進歩をとげました。そしてこれからもどんどん良くなっていくでしょう。治療の際の痛みもほとんどなくなり、歯医者に行くことを恐ろしいと思わなくなるでしょう」

 最も期待されている技術の1つが、レーザー光線で行う治療法だ。現在まだ研究途中だが、ローバッハ会長は「近い将来、皆さんにお届けできる」と自信を持っている。彼によるとこのような技術を規格化することで、「ドリルを持った機械工の仕事のような」現在の歯の治療は過去のものになるかもしれない。                                                                                          

質の高さはダントツ

 斬新な変化はすでに現れている。ローバッハ会長によると、以前は1時間以上もかかった治療が今では数分で終わってしまう。

 歯に埋め込む材質も今と昔では大違いだ。金属ベースの詰め物の代わりに使われている新素材は、金属より快適で耐用期間も長く、見た目もずっと良い。

 歯科治療で国際的に最も有名な2つの会社は両社ともスイスにある。1つは、スウェーデンのノーベル・バイオケア社であり、スイス証券取引所に上場している。もう1つはバーゼルを本拠地に置くスイスのシュトラウマン社である。

 「これは偶然ではありません」とローバッハ会長は語る。「スイスでは、豊かな生活レベルの中で、質の高い製品や治療技術に対して高い需要があります」

 「歯科治療の市場は現在、急速な成長を遂げています。高齢化に加えて、高い医療水準への要望が、スイスは他の国より強いのです」

やっぱり高い治療費

 それでも外国に治療にでかけるスイス人も多い。これについては、ローバッハ会長は以下のように答えた。「多くの患者が、お金を節約するために間違った選択をしています。安い治療費で行われたインプラント(人口歯植え込み)や歯の詰め物は、数年もすればまたやり直さなくてはならなくなることが多いのです」

 会長によると、スイスの1人あたりの歯の治療の出費は世界で最も多い。これは高い技術や材質を使うことに加え、スイスの物価水準そのものが他国より高いためである。スイス人の歯をいつも完璧な状態にしておくためにはどのくらいお金がかかるか、とそろばんをはじくと、年30億フラン(約2570億円)という天文学的な数字になる。これを毎月の出費にすると1人あたり35フラン(約3000円)だ。

 「これはタバコやアルコールに比べてずっと多い金額です。もう一つ言うとすれば、治療費は他の治療のように保険会社ではなく、患者が自分で歯医者に払わなくてはなりません。このため他の病気よりもずっと金額や質に敏感です」

歯ぎしりしたくなる問題点

 「以前から叫ばれている問題ですが、簡単な歯のケアは保険でカバーできるようにするべきです。悪くなる前にしっかり口の中を清潔にしておければ、たいていの問題を防ぐことができるのです」同会長は強調する。

 しかし科学的研究によると、毎日ちゃんと歯磨きに精を出していても虫歯になる人はいる。

 「歯科治療には多くの問題があることは認めます。私たちは特に治療費の問題について解決策を見つけなければいけません。これは現状の質を落とすのではなく、患者が選択できる治療の幅を広げることで道ができるかもしれません」

swissinfo  クリス・ルイス(バーゼルにて)、 遊佐弘美(ゆさひろみ)意訳

スイス歯科医師会は1200人の歯科医と1000人の歯科助手で構成されている。

– スイスの歯医者は質の良さと高い治療費で世界的に名高い。

– 歯科治療の分野で世界をリードしている2社、スウェーデンのノーベル・バイオケア社とスイスのシュトラウマン社は両社ともスイスにある。

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SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

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