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銀行業界で広がる「守秘義務」危機感   リストラも視野に

海外での金融規制強化の動きを受け、スイスの銀行の守秘義務が危ぶまれている。 Keystone

スイスの銀行の守秘義務が危ない——。スイスの大学と米民間企業の共同アンケートで、銀行員が抱く業界への危機感が明らかになった。

守秘義務を前提とするスイスの金融体制がテロ資金の温床になっているのではないかとの懸念から、国際社会からの圧力が強まっている。海外の金融当局も相次いで規制強化に乗り出すなか、守秘義務を堅持し続けるのが難しくなってきたとの意識が広がりつつある。

今回のアンケートによると、こうした金融規制強化の動きを受け、賃金カットや大規模なリストラを断行せざるを得ないだろうと大半の回答者が予想している。銀行業界も目前の嵐を予感し始めている。

激変する環境

 アンケートは、チューリヒ東部にあるザンクトガレン大学と米ITコンサルティング会社アクセンチュアが50人以上の従業員を持つスイスの金融機関幹部ら180人を対象に行った。その結果は『2010年のスイスの銀行業界』にまとめられている。

 調査では、銀行員のほとんどが2010年までに銀行の守秘義務の前提は崩れるだろうと回答している。背景には、スイスの銀行がここ最近、海外の金融政策の荒波にのまれつつあるという事情がある。

 例えば、隣国のドイツはスイスとの2国間で行われる決済関連の作業を制限する動きに出た。この結果、ドイツの銀行監督当局が発行する営業許可書がなければ、スイスの銀行はドイツで顧客へのサービスを提供することができない。引き締めは他国でも厳しくなる見通しだ。

 ザンクトガレン大学金融工学部の学部長ベアット・ベルネ教授は、「スイスの銀行は、守秘義務に頼るだけのやり方ではもうやっていけないと認識している」と指摘した上で、こう警鐘を鳴らす。

 「各国で施行され始めた金融規制強化の動きは、費用がかさみ、銀行経営を圧迫し始めるだろう。コスト増に耐え切れなくなった中小の銀行は整理される可能性が高い。守秘義務に替わる強みを銀行が見出さなくてはならない」。

 今回の調査によると、回答者の80%以上は、2002年で840あった金融機関が、2010年には約13%減の730近くまで減少するだろうと答えた。ザンクトガレン大学は、現在約16万人いる銀行員の数も2010年には約13%減の14万人に減るとみている。

 
 スイス国際放送  ロバート・ブルックス   安達聡子(あだちさとこ)意訳

スイスの銀行が扱うオフショアファンド(外国人に対して優遇税制を取る国・地域の口座や資産)は現在、世界全体の資産の3分の1を超える。

運営総額は約2兆ドル(約220兆円)に上るといわれる。

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SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

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