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頭毛と歯の関係

無毛犬は3700年以上も前から存在している

無毛犬から見つかった突然変異遺伝子が、人間の抜け毛の治療法を見つける手掛かりになるかもしれないと、スイス人グループが主導する研究が明らかにした。

無毛犬と有毛犬のDNAを科学者が比較したところ、突然変異遺伝子が発見された。このほど、権威ある科学雑誌サイエンスに研究報告が発表された。

無毛犬の突然変異遺伝子

 無毛犬はおよそ3700年前から知られ、死者の魂に付き添って天国まで行く犬として、メキシコのアステカ族から神聖視されていた。紀元前1700年には無毛犬の像まで作られた。通常、無毛犬にはほとんど、あるいは全く毛がなく、歯の本数が普通の犬よりも少ない。例えば、チャイニーズ・クレステッド・ドッグは足や尾に毛の房があり、頭部には長い毛が生えているだけだ。このチャイニーズ・クレステッド・ドッグは、メキシカン・へアレス・ドッグとペルービアン・ヘアレス・ドッグと並んで、今回、ベルン大学の遺伝学研究所の科学者と国際的な研究者仲間によって調査された犬種の1つだ。

 最新技術を用い、研究チームは無毛犬20匹と有毛犬20匹から取り出され等間隔に並べられた5万個のDNAマーカー ( 配列 ) を比較し、変異を探り当てようとした。
「実験は素晴らしい成果をみせました」
 と、ベルン大学の獣医遺伝学と動物育種のトッソー・レープ教授は言う。ゲノムにあるたった1つのマーカーが違いを示した。
「このマーカーがある場所は、まだ特性化されていない遺伝子の隣だったので、この遺伝子をさらに詳しく調べ、原因となる突然変異を見つけ、この遺伝子を『FOXI3』と名づけました」
 とレープ氏は語った。

深まる理解

 実験に用いたマウスの胚を成長させる過程で、このFOXI3遺伝子は毛穴と歯の発達の際に特に大きな働きを見せた。これにより、FOXI3遺伝子が毛と歯の成長に深く関わっていることが明らかになった。
「この発見によって、現段階ではまだ完全に解明されていない毛穴と歯の発達の理解が深まります」
 とリープ氏は説明する。
「胚の形成中に毛穴や歯がどのように作られるかということは、まだはっきり分かっていませんが、今回の結果から言えることは、毛穴と歯の発達に関する理解を深めると共に、人間の脱毛症のより効果的でより具体的な治療法の実現が可能になるかもしれないということです」

 抜け毛の極端な形は無汗性外胚葉性形成異常という非常にまれな遺伝的なケースで、薄毛や無毛だけでなく、通常よりも歯の本数が少ないのが特徴だ。一部の脱毛症にはこの遺伝子異常が確認されているが、ほかのケースに関しては、FOXI3が答えを出してくれるかもしれないと、リープ氏は言う。

脱毛症の治療法につながる?

 今回の発見は、一般的な脱毛症の治療法をつかむ際のヒントになるかもしれない。
「男性は老いと共に特に脱毛症になりがちです。一部の人にとってはかなり深刻な問題です」
 とリープ氏は言う。現在、製薬会社が競ってこの治療法の発見に努めているが、いずれ新治療の実現は可能になるだろう。
「毛穴は非常に特別な器官です。人間が生きている間、絶えず成長と収縮を繰り返しています。また、常に毛穴を作れる幹細胞が毛穴の脇にあります。もし、この髪の毛のサイクルを促進する方法が分かり、この幹細胞をどう刺激したら新しい毛穴を成長させられるかが分かれば、おそらく脱毛症に悩む人を助けられるでしょう」
 とリープ氏は言う。

 犬に関しても、科学者たちはさらに興味深いことを発見をした。メキシコにある無毛犬の像から分かるように、遺伝子の突然変異は3700年以上も前からあるはずだと、リープ氏は言う。今回の研究チームの分子遺伝学的研究が、この突然変異が非常に古いものであるという見方を裏付けている。事実、無毛犬の祖先を辿っていくと、たった1匹の無毛犬に行き当たると、リープ氏は言う。

swissinfo、 イソベル・レイボルド・ジョンソン 中村友紀 ( なかむら ゆき ) 訳

チャイニーズ・クレステッド・ドッグ
小型犬で細身。足と尾に毛の房があり、頭部には長く垂れた毛が生えている。

メキシカン・へアレス・ドッグ
希少な犬種でサイズは3つに分けられる。別名「ショロイェツクウィントリ ( xoloitzcuintli ) 」。皮膚の色はピンク、グレー、スレート・グレー。アステカ族にとって神聖な犬だった。

ペルービアン・ヘアレス・ドッグ
前インカ時代のペールに起源を持つ犬種。メキシカン・へアレス・ドッグと似ている。皮膚の色はチョコレート・ブラウン、エレファント・グレイ、銅色で、斑があるものもある。

参照 ブリタニカ オンラインなど

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