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アフリカ最古の土器を発見

オウンジョウゴウの土砂崩れで、3万年前の土壌が現れた ( 写真提供 : エリック・ヒュイセコム教授 )

ジュネーブ大学のエリック・ヒュイセコム教授率いる、28カ国から集まった50人の国際チームが、アフリカのマリ中部で1万1400年前の土器を発掘した。これまで発見されたアフリカの土器の中でも最古のものという。

発掘場所はユネスコ世界遺産に登録されているバンディアガラ断崖の近く、オウンジョウゴウ ( Ounjougou ) 。人類の進化と気候の変化との関係についての新理論につながる発掘でもある。

 2002〜2004年に発掘された地層から、6個の土器のかけらが発掘された。それらは最低1万1400年前のものという。これまで発掘された最古の土器は、中東およびサハラ東部から出土したもので、9000〜1万年前のものだ。

崖崩れによるメリット

 「発掘した土器の古さを知らずに、これをスケッチしようと机の上に置いたまま何年も放置していました」とヒュイセコム教授は明かす。ヒュイセコム教授と共に発掘作業に当たるのは、ドイツ、スイス、マリ、フランス、イギリスなどから集まった優秀な考古学者たちで、現在アフリカで活動する発掘隊の中では最大級である。

 「ヒト、環境、気象の関係とその進化を解明するためには、オウンジョウゴウを発掘することであるとすべての事実がわれわれに暗示したからです」と教授は言う。現場は考古学者にとって夢のような場所だ。土砂崩れによって現れた地層は、年代を確定しやすくなっているからである。

土器の発明と環境変化

 発掘隊が1997年からマリで作業を開始して以来、石切の技術とそれに使った道具など重要な発掘を通し、この地域の人類の進化を解明してきた。しかし今回の土器の発見はこれまでの活動の中でも最も重要な位置を占めるという。

 ヒュイセコム教授は、土器は西部アフリカで初めて作られたと確信している。「土器は興味深い情報をわたしたちに与えてくれます。いつ、どのような環境で土器のような新しい発明がなされたのかという情報です」。ヒュイセコム教授によると土器は、砂漠が緑化されるといった環境の変化が起こった際に発明されるという。
 
 氷河期が終わりを告げようとしている1万年ほど前、気候の変動が激しくなり、熱帯森林が800キロメートルの幅でサヘル地方から北に向けて形成された。これに伴い、人々もゆっくりと南下して来た。野生の植物や穀物が砂漠を覆うようになるが、人々がこれを食糧として摂取しようと、保存したり料理したりするようになった。「この時代に土器が発明され、新しい食糧や新しい生活様式が人類の中に受け入れられるようになった」とヒュイセコム教授は説明する。

土器と矢じりの関係

 さらに今回の発掘で解明したのは、土器の発明と矢じりの発明が同時代に起こったということだ。矢じりで草原のウサギや鳥を獲ったのだという。西部アフリカと同じ年代の土器と矢じりがシベリア、中国、日本の3点を結ぶトライアングル地帯でも発掘されている。「アフリカとアジアの2つの地域で、ほぼ同時に土器と矢じりが発明され、しかも同じような気候であったということが重要なのです。というのも、人類は気候の変化にどのように対応するのかということが、これで分かるからです」とヒュイセコム教授は説明する。

 今回の発見を公式発表する前に、ヒュイセコム教授は再びオウンジョウゴウの発掘隊に戻る予定である。発掘隊は今後、人間が住んでいた洞窟や集落を探し、土器がどこから来たのかを調査し、発掘された地層の正確な年代を定めることになる。「今のところ、これらの土器は1万1400年前のものと推定されますが、まだ50年から1000年の誤差があるので」ということだ。

swissinfo、サイモン・ブラドレイ、佐藤夕美 ( さとう ゆうみ ) 意訳

BC 9400年 マリで土器が発明される。サハラ、サエル地方で野生の穀物の試食が始まる。
BC 8000年 中東とサハラ地方で土器の発明。
BC 7500年 ブタ、ヒツジ、ヤギが中東で家畜として飼われるようになる。
BC 7000年 アフリカで牛が家畜として飼われるようになる。
BC 5700年 メソポタミアで灌漑 ( かんがい ) が始まる。
BC 3800年 車輪の利用が黒海付近とコーカサス地方で始まる。 
BC 3700年 世界で初めて都市が誕生する。現在のイラクのウルク。
BC 3400年 世界で初めて発音可能な文字がエジプトで記される。

 多くの人類学者の見解によるとアフリカ大陸は、世界で最古の人類が誕生した地域と見られている。現人類につながる類人猿の骨が多く発見され、1990年代には優秀な科学者がヒトの発祥を解明するため、東部アフリカの発掘に熱心だった。しかし、発掘が進むにつれ、ヒトの発祥地はより西方にあるのではないかということが分かってきた。
 1995年にはフランスの発掘隊が350万年前の人間の祖先のあごの骨をアフリカ中部チャドの地溝の西側で発見した。また、2001年には再びチャドで、700万年前と推定される頭蓋骨が発掘された。いわゆるトウマイ ( Toumai ) とニックネームが付いているもので、ヒトとチンパンジーの分岐した時代を解明するために重要な発掘だといわれる。

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