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アルプスの空に舞いあがる熱気球とその祭典

ベルトラン・ピカール氏の操縦によりシャトーデーの空に舞い上がるブライトリング・オービター3号 swissinfo.ch

2013年1月26日から2月3日までの9日間、第35回国際熱気球フェスティヴァルが開催されました。開催地は、スイス西部のヴォー州(Vaud)、ペイ・ダンオー地方(Pays-d’Enhaut、フランス語で「上にある地方」という意味)にあるのどかな山里、シャトーデー(Chateau d’Oex、標高1001m)です。鳥のように空を飛ぶことは、昔から人間の夢であり憧れでした。大空を風に乗って移動する熱気球の姿は、今も私たちに夢やロマン、そして感動を与えてくれますが、今回、このフェスティヴァルを訪れて、熱気球にはその外見からは想像できない意外な面があることを発見しました。また、シャトーデーの国際熱気球フェスティヴァルは、実は日本とも「関わり」があるので、その事についてもこれからご紹介します。

 その「関わり」は、まず、スポンサーシップにあります。35年という歳月が過ぎ、今や国際的なイベントとなったこの祭典は、官公庁、及びたくさんの民間団体が支援しています。2005年以降、最大のスポンサーは「パルミジャーニ(Parmigiani)」です。綴りにしても発音にしても一瞬、イタリアを代表するチーズのような響きがありますが、正式名は「パルミジャーニフルーリエ」で、1996年に創業されたスイス製高級時計のブランドです。そして、メインスポンサーの中に、「Honda(本田技研工業株式会社)」と「バンク・カントナル・ヴォードワ(BCV)」というヴォー州の銀行があります。

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 8年前の第27回国際熱気球フェスティヴァルで、「Honda」は、ヒューマノイドロボットASIMOの形をした変形熱気球を披露しました。2013年も「Honda」熱気球チームは、ASIMOを含めた2機の熱気球をアルプスの空に舞い上げました。ホンダカラーである赤、白、青と、トリコロールカラーの球皮からASIMOの上半身が覗き出し、大空から手を振る姿は愛嬌があり大変人気があります。「パルミジャーニ」に関しては、大会35周年を記念して「Time is flying(時間は飛んでいく)」と記されたパルミジャーニ・カラーのオレンジ一色でひときわ目立つ熱気球を新調しました。2013年夏のモントルー・ジャズ・フェスティヴァル開催時には、この熱気球が湖畔を飛行するそうです。そして、2つ目の「関わり」として、世界18か国から参加があった2013年の祭典には、日本からの熱気球がありました。熱気球パイロット、イチヨシ・サブ氏が率いるチームです。こちらは、赤、白、黄、オレンジ、青のストライプがアルプスの景色に映えて美しい熱気球でした。

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 私の住むヴォー州レザン(Leysin)から車を利用すると、レモス(Les Mosses)やチーズで有名なレティヴァ(l’Etivaz)など山間部の村を越え、シャトーデーまで半時間ほどで行くことができます。第35回国際熱気球フェスティヴァル開幕の日は、青空の広がる素晴らしい天気に恵まれました。この日のみで1万人もの見物客がシャトーデーを訪れました。朝9時半、熱気球が離着陸するフェスティヴァル会場に隣接する雪原駐車場に車を駐車し、一歩外に出た途端、鼻の中が凍りました。現地の気温は零下13度でした。山間にあるシャトーデーは、この時間、周囲の山に太陽が遮られているため非常に寒いのです。

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 シャトーデーが熱気球の里として多くの熱気球パイロットから好まれる理由は、安定した上昇気流、下降気流です。1999年3月1日、スイス人ベルトラン・ピカール(Bertrand Piccard)とイギリス人ブライアン・ジョーンズ(Brian Jones)の両氏が熱気球「ブライトリング・オービター3号」による世界初の無着陸世界一周旅行に成功した際の離陸地点もシャトーデーでした。トップ写真にあるように、フェスティヴァル初日、ピカール氏は会場でチームと共にせっせとこのオービター3号(完全に膨らんだ状態で全高55m)を整備し、体験搭乗者を乗せて旅立っていきました。会場では熱気球に関する情報や飛行中の熱気球の状況を伝えるアナウンスが常に流れています。朝、シャトーデーを飛び立ったイチヨシ氏の熱気球フライトについても、正確で順調な飛行をしていると案内がありました。

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 フェスティヴァル入場料は、大人10スイスフラン(約1000円)です。熱気球が離着陸するグランドには、関係者や報道陣以外は立入ることができませんが、一般の人もかなり間近で熱気球の様子を観察することができます。私は、熱気球は、のんびり、ふわふわ、空を自由に飛行しているものだと思っていたのですが、そうではなく、多種類のタスク(競技)があり、自然を相手にするパイロットには、気象条件を分析する知識や技術が求められるスカイスポーツなのです。また、熱気球を操縦するパイロットと、刻々と変化する風の動きや他のチームの行動を正確にパイロットに連絡する地上クルーとのチームワークがあってこそ良い結果が産まれる競技でもあります。第35回国際熱気球フェスティヴァルでは、飛んだ距離やスピードを競ったり、空中からマーカーをどれほどゴールに近いところに投下できるかを競ったり、12種目の競技が全て実施されました。


 無事に開会式が終わり、たくさんの熱気球やオービター3号が飛び去ってしまい、足腰のカイロの効き目が感じられないほど身体が冷えてしまったので帰途につきました。この祭典に参加される際には、ぜひ暖かい靴とスキーウエアの着用をお勧めします。帰る途中、レティヴァのチーズ屋さんに立ち寄りました。高地で夏の期間放牧した牛のミルクで作ったアルパージュチーズを2種類買いました。グリエールチーズとは異なる甘さがあり、木の実のような風味で花のような香りがあります。レティヴァチーズを作る酪農家は約80軒あまり。今も、銅鍋を使い、薪を燃やしてチーズを作ります。レティヴァチーズはワイン以外で、AOC(Appellation d’Origine Contrôlêe)の品質保証を受けたスイス初のチーズでした。熱気球の祭典と言い、レティヴァチーズと言い、スイスの大自然があってこそ生まれてくるものなのだと感じながら、ほのぼのとした一日を過ごしました。

小西なづな

1996年よりイギリス人、アイリス・ブレザー(Iris Blaser)師のもとで絵付けを学ぶ。個展を目標に作品創りに励んでいる。レザンで偶然販売した肉まん・野菜まんが好評で、機会ある毎にマルシェに出店。収益の多くはネパールやインド、カシミア地方の恵まれない環境にある子供たちのために寄付している。家族は夫、1女1男。スイス滞在16年。

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SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

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