スイスの視点を10言語で

グッバイ、スイス

残念、2連敗。スイスはこの先、ホスト役に徹底。 Keystone

6月11日夜の1戦は、スイス、トルコ両チームとも必ず勝たなければならない試合だった。その気概が表れるかのような1-1の同点で90分が過ぎ、ロスタイム4分に入った。だが、その2分後に決定的なゴールを決めたのはトルコチームだった。

その瞬間、スイスの予選落ちは確実となった。Aグループでは昨夜ポルトガルがチェコに3‐1で勝ち、すでに8強入りを決めた。トルコとチェコのどちらが予選を通過するかは日曜日の試合で決まる。

水浸しのバーゼル

 今回の試合では、両チームともスタメンに変更があった。スイスは、前回の対チェコ戦で負傷したキャプテンのアレックス・フライに代わってハカン・ヤキンが出場。そして、もう1人のフォワード、長身のマルコ・シュトレラーも腿の付け根の状態が悪化し、今回エレン・デルディヨクと交代した。トルコ代表チームは、ディフェンダーのゴクハン・ザンがけがのため欠場した。

 試合は8時45分開始。10分ほどで大粒の雨が降り出した。雨脚は激しくなるばかりでまもなくピッチ内には水があふれ、ボールはもうほとんど転がらない状態。そんなコンディションではほとんどパスも通らない。両チームはほぼ互角の状態で、ザンクトヤコブ・スタジアムを埋め尽くしたファンの大きな声援の中、水しぶきを上げながらの戦いが続いた。

 そして32分、デルディヨクからゴール前でパスを受けたヤキンが待望の大会初ゴールを決めた。スイスの先取点にサポーターの声援はますます大きくなる。試合中止が懸念されたほどの大雨も、前半戦が終わる頃にはだんだんと小降りになっていった。ヤキンはこの2分後にもゴールのチャンスを得たが、ボールは惜しくもコースを逸れた。

 1‐0のまま迎えた後半戦、雨はほとんど止んでピッチの状態はやや回復し、ボールも転がりやすくなったようだ。だが、前半同様、スイスのパスは全体的に甘く、一方のトルコは得点を入れようと必死。そして57分、セミー・セントュルクがついに同点のゴールを決めた。

 その後もスイスはやや押され気味で、84分、ヤキンに訪れた最後のゴールチャンスもものにできず、90分は1‐1で経過した。ロスタイムは4分。最後に決定的なゴールを入れたのはトルコ側だった。

 試合後、スイステレビ局のドイツ語放送で試合解説を務める元スイス代表サッカー選手のアラン・ズッター氏は、
「このようなハイレベルの大会ではチャンスはそう多く訪れるものではない。その少ないチャンスをいかに活かすかが問題。ほかのチームと比べてスイスの実力が特に劣るとは思わない」
 と評した。

 ヤコブ・クーン監督は対チェコ戦のときと同様、
「チームは全力を出し切った。同点で終わっていたら予選通過できたかもしれない。チャンスをつかまなかった報いが今回の敗北。でも、チームは褒めてやりたい」
 とさっぱりした表情だ。

「プレーは悪くなかった」と言うのはスイスチームで唯一得点を入れたヤキン。6月15日の対ポルトガル戦はもはや親善試合同然の試合となったが、「最後の試合でファンのために勝ちたい」と短いコメントを残した。

ジュネーブのファンゾーンでは

 ジュネーブには大会開始以来初めての夏の光が差し込み、ファンゾーンではお祭り気分が盛り上がった。今回トルコ、スイスとも国旗が偶然赤。そのため赤い大型の旗を身にまとった若者が会場を埋め尽くし、「赤の波」を形成した。

 大型スクリーンが背中合わせに2つ設置されたファンゾーンは最高6万の入場者を収容できるが、ほぼ満員。わずかに座席も設置されているが、すべて立ち見といってよい会場では、スイスが1点を入れると大騒ぎとなり、全員が両手を挙げ喜びで一体感が漂う。

 フリーキックの際には全員が両手を前方に伸ばし、指先を震わせて「手の波」を作り、ほとんどおまじないのようにエネルギーをスクリーンに送る。土砂降りでボールを蹴るたびに水しぶきが上がるバーゼルのスタジアムとは対照的に夏の宵をファンの熱気がさらに温度を上げた。

 しかし、トルコが2点目を入れた瞬間、赤い波が川の流れのように静かに出口に向かって動き始めた。全員沈黙。2~3人にコメントを聞こうとしたが、すべて「ノー」と断られた。1人だけ、「しかしスイスは良くやったよ」と大声で話す人物はフランスの国旗を身にまとっていた。

swissinfo、小山千早 ( こやま ちはや ) 里信邦子 ( さとのぶ くにこ )

今回の対トルコ戦を控え、スイスでは不憫な空気を懸念する声がマスコミなどで取り上げられていた。2005年11月にトルコのイスタンブールで行われた世界選手権 ( 2006年ドイツ開催 ) の予選で、試合終了後、ファンや選手が大きな騒ぎを引き起こして大問題になったからだ。

試合終了のホイッスルとともに、スタジアムのトルコファンがスイスの選手に向かって物を投げ始め、スイスチームは世界大会出場決定を喜ぶ間もなく走って控え室に駆け込んだ。その際、両チームの選手の間でももみ合いが起こり、病院で手当てを受けたスイス選手もいた。

この騒ぎの後、暴力行為に及んだトルコとスイスの選手は世界サッカー連盟から数試合の出場停止を言い渡された。またトルコ代表チームは、欧州選手権の予選3試合を自国以外の中立的な場所で観客を入れずに行うという処分を受けた。

しかし、6月11日の試合では、スタジアムの雰囲気は終始明るかった。試合終了後も特に大きな騒ぎは起きなかったようだ。

swissinfo.chの記者との意見交換は、こちらからアクセスしてください。

他のトピックを議論したい、あるいは記事の誤記に関しては、japanese@swissinfo.ch までご連絡ください。

SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部