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スイスフラン高対応策、経済界や新聞各紙から賛否両論

緊急融資策を発表するヨハン・シュナイダー・アマン経財相 Keystone

スイスフラン高への対応策としてスイス政府は8月中旬、20億フラン(約1900億円)を観光業や輸出業を中心に融資すると発表。しかし各界からの相次ぐ批判を受け31日、大幅に減額した8億7000万フラン(約840億円)を最終的緊急融資額として正式に発表した。

これに対し、経済界などから対応が不十分だと不満の声が上がった。だが、新聞各紙の反応は賛否両論だ。

 今回の緊急融資策には、雇用確保を一番の目的にさまざまな補助金や助成金が組み込まれている。最も多く資金が投入されるのは、雇用を保つかわりに、期間限定で労働時間を短縮する補償制度。予算8億7000万フラン(約840億円)のうち、5億フラン(約480億円)がこの目的で失業保険基金(ALV/LACI)に投入される。

 スイスフラン高で外国人観光客が減少している観光業には、銀行の貸し渋りで改築などに投資ができないホテルを支援するため、1億フラン(約96億円)がホテル業専門の融資機関に投入される。

 また、技術革新および研究開発分野には約2億フラン(約193億円)の支援が予定されている。民間企業との共同研究や開発を行う国の研究機関「連邦技術革新委員会(KTI/CTI)」には助成金として1億フラン(約96億円)が支払われ、また連邦工科大学なども資金面で援助される。

 緊急融資策にはそのほか、輸出業や鉄道会社の一部への資金援助も含まれている。この支援策の実施には、9月の連邦議会での承認を待たなければならない。

批判の嵐

 だが、経済界からはこうした緊急融資策に対し、厳しいコメントが寄せられている。3000社以上の企業を束ねる経済連合「エコノミースイス(economiesuisse)」は、スイスで重要な研究開発分野が助成されるのは歓迎するが、今回の政策には法人税率の引き下げなど長期的な支援が欠けていると指摘。

 「この緊急融資策ですべてが解決すると思ったら大間違いだ」と批判するのは、中小企業団体の「スイス商工業連盟(SGV/USAM)」だ。スイス商工業連盟は政府がスイスフラン高に対応しようとする姿勢は評価するが、スイス国立銀行(SNB/スイス中銀)が1ユーロに対し1.4フランを上限に定めるなどの対策を講じない限り、スイスフラン高の解決にはつながらないと主張する。

 輸出業界で最大の労働組合「スイス雇用者連盟(Angestellte Schweiz/Employés Suisse)」は、「総額8億7000万フラン(約840億円)のうち5億フラン(約480億円)を失業保険基金につぎ込む姿勢そのものに、政府のスイスフラン高問題に対するお手上げ状態が見える」と酷評している。また、今回の緊急融資策は輸出業界に間接的な効果をもたらすにすぎないとも批判した。

メディアは賛否両論

 新聞各紙からは批判の声もあるが、ある程度評価はできるという声もある。フランス語圏の日刊紙「ラ・リベルテ(La Liberté)」は、今回の支援策を巡る政府の態度を「素人的」とし、「政府は問題に対処しきれず、巨額の支援金をどう使っていいのか分かっていないようだ」と否定的。

 ドイツ語圏の日刊紙「ノイエ・チュルヒャー・ツァイトゥング(NZZ)」は、連邦内閣が初めに20億フラン(約1900億円)の支援計画を公表したものの、具体的に誰がどのような形で援助を受けるのか示さず、経済界に混乱を招いたと批判。だが、輸出業界に直接助成金を配ることはせず、特定の企業だけを支援するような不平等を避けたことに一定の評価を示した。

 フランス語圏の日刊紙「ル・タン(Le temps)」も同様の意見だ。特定の企業を資金面で直接支援するのは、スイスの銀行最大手UBSの例を除けば、スイスの経済政策方針に反しているとしている。

 ドイツ語圏の大衆紙「ブリック(Blick)」は支援予算が初めより半分以上縮小されたことに対し、「政府は(多くの批判を受けて)勇気がなくなった」と批判している。だが、労働時間を短縮する代わりに雇用を確保する制度が大きく支援されることはある程度評価している。

 これと同様の意見なのはドイツ語圏の日刊紙「ターゲス・アンツァイガー(Tages Anzeiger)」で、次のように述べている。

 「労働時間をフレキシブルにすることで、雇用が確保されやすくなる。受注が多いときには、企業は短期的に労働時間を伸ばして生産性を上げ、雇用の国外流出を防げる。逆に受注が減れば、国が助成する短時間勤務制度を利用すればいい。そうすれば労働者はすぐに職を失わなくても済む」

スイスフランは「安全な通貨」と言われており、ユーロやドルなどが値下がりすると、投資家たちからのフラン買いが進む傾向にある。

過去5年間で、スイスフランはユーロとドルに対して約25%上昇。

スイス国立銀行(SNB/スイス中銀)は、為替レートを特定の値幅に固定することは避け、「経済発展を考慮しながら、価格の安定化を図る」というスイス中銀に果せられた使命を金融政策の基礎に据えていた。

だが、2009年3月に為替市場介入。2010年5月までに、国内総生産(GDP)の15%をスイスフラン高対策に用いたが、ギリシャの財政危機が起きたために思うような効果は得られず、この介入での損失は210億フラン(約2兆円)に上った。その後2010年6月には為替市場介入は中止された。

(一部情報提供、イゾベル・レイボルド・ジョンソン)

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