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スイス・ユーロ圏のインフレは当面続く 元スイス政府チーフエコノミスト

アイモ・ブルネッティ氏
「経済学者にとって、『意見』と『事実』を切り分けることは必ずしも簡単ではない。だが教育においては重要な点だ」――スイス政府のチーフエコノミストを務めたアイモ・ブルネッティ氏はこう話す Live Fabrik GmbH

スイス連邦政府の元チーフエコノミスト、アイモ・ブルネッティ・ベルン大学教授は、スイスやユーロ圏のインフレ率が当面は高止まりすると予想する。

「経済学者にとって、『意見』と『事実』を切り分けることは必ずしも簡単ではない。だが教育においては重要な点だ」。こう話すブルネッティ氏は、ベルン大学で経済学入門を教えて早11年になる。

この間、学生が講義に求めるものはどう変わったのか?「学生たちに最近、フェミニスト経済学やマルクス主義など、代替的な経済理論について個別に教えてほしいと言われた」。だが、それはそう簡単なことではない、と同氏は打ち明ける。

「学生はそうした理論に取り組む前に、主流派経済学を知るべきだ」。その後に、経済史的観点から代替理論を学ぶことは理にかなっているという。

インフレが定着

経済史をよりよく理解すれば、現在のインフレへの対抗力を養えるかもしれない。スイスでは物価が前年比で3.4%、ユーロ圏では8.5%上昇した。ともに中央銀行が目指すインフレ率の2%を大幅に上回っている。

ブルネッティ氏は「わずか2年前は、経済学者の大多数はインフレがすぐに収まるとみていた」と振り返る。当時、こうしたコンセンサスが出来上がったことに驚いた。「おそらく多くのエコノミストは、インフレは過去の現象だとみなしていた」。2021年6月時点でも、欧州中央銀行(ECB)は2022年のインフレ率を1.5%と予測していた。実際は8.6%だった。

ブルネッティは過去に、連邦経済省経済管轄局(SECO)のチーフエコノミストとして、政府の国内総生産(GDP)予測を率いていた。そのような経験から「予測担当者を厳しく批判しすぎないように気をつけている」。経済を予測するのはとても難しく、およそ予測というものは過去の統計的な予測に基づいていることには注意しなければならないと語る。

特にパンデミックなど長い期間発生しなかったことが起きたときに問題になる。「2021年から22年にかけて、中央銀行は直近のデータを信頼しすぎた」

カギはインフレ期待

今後の経済はどうなるのか?ブルネッティ氏は「ユーロ圏のインフレ率が2%に戻るまでには長い時間がかかるだろう」とみる。現在最も重要なことは、インフレ期待(人々の「今後も物価上昇が続くだろう」という予想)が安定していることだという。「もしインフレ期待が強まれば、中銀は深刻な景気後退が起こるのをいとわずにインフレと戦わなければならなくなる」からだ。このためブルネッティ氏は、利上げを続ける方針を明確に示すECBの姿勢を評価する。

スイスでも利上げが続く公算が大きい。またスイス国立銀行(中央銀行、SNB)は輸入インフレを防ぐため、通貨フランの上昇を容認するとみられる。このためSNBの収支はさらに損失が拡大しそうだ。昨年は1325億フラン(約1兆円)と過去最大の赤字を計上した。

中銀への信頼は失われやすい

SNBの赤字にはどんな問題がるのか。ブルネッティ氏は「もちろん中銀が破産することはない」と説明する。構造的には利益を生む可能性があり、自己資本がマイナスになっても即破産というわけではない。とはいえ、「適切な資金繰り」も中銀に対する信頼の源泉になっていることは認識しておく必要がある。

議会の金融族はSNBに対し、連邦・州政府への配当金(日本の国庫納付金に相当)を収めるよう圧力をかけている。SNBの自己資本比率は19%から7%に低下したことは、この点で危険だとブルネッティ氏は語る。「中銀に対する信頼は簡単に失われる」

独語からの翻訳:ムートゥ朋子

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