スイスの中立はどこへ向かうのか?
地政学的対立が深まるなか、中立国は難しい対応を迫られている。世界の分断が進み、中立国が取れる選択肢も狭まっている。スイスの中立も、そのあり方をめぐってさまざまな議論が起きている。
2026年9月27日、スイスの「永世武装中立」を連邦憲法に明記することを目指すイニシアチブ(国民発議)「スイスの中立維持(通称:中立イニシアチブ)」の是非が国民投票で問われる。
現行憲法で中立について言及されているのはわずか2カ所。永世中立国の定義を定めているのではなく、議会、政府の責務に言及しているだけだ。
Art. 173 Abs. 1 Bst. a
Sie trifft Massnahmen zur Wahrung der äusseren Sicherheit, der Unabhängigkeit und der Neutralität der Schweiz.
連邦議会は、スイスの対外的安全、独立および中立を守るための措置を講じる。
Art. 185 Abs. 1
Der Bundesrat trifft Massnahmen zur Wahrung der äusseren Sicherheit, der Unabhängigkeit und der Neutralität der Schweiz.
連邦参事会(内閣)は、スイスの対外的安全、独立および中立を守るための措置を講じる。
イニシアチブ発起人委員会は10万筆を超える有権者の署名を集め、国民投票に持ち込んだ。
イニシアチブの焦点の1つが、ロシアによるウクライナ侵攻を受けて導入された制裁をめぐる問題だ。イニシアチブが可決されれば、スイスのあらゆる外交政策に影響を及ぼすことになる。
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スイスの「中立イニシアチブ」って何?
ロシアのウクライナ侵攻をきっかけに、スイスでは中立のあり方をめぐる議論が再び活発になった。スイスが対ロ制裁に加わったことで、「中立を放棄した」との批判も出ている。ロシア政府もスイスを「非友好国」に指定した。
スイス国内でも、中立に対する見方は分かれている。世論調査によると、基本的に国民の80%は中立を維持したいと考えている。しかし、スイスの中立が何を意味し、どのような形で運用されるべきかについては、意見が大きく分かれている。
そのため連邦議会では、国外からはわかりにくい議論が交わされることもある。例えば、スイスの中立の原則に照らして、ウクライナへの制裁を科すべきかどうか、などだ。
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中立とはそもそも何か?
スイスは他の多くの中立国と同様、かなり以前から厳格な中立の概念から離れ、国際社会との関係を重視してきた。2002年に国連に加盟して以降、スイスは国連の制裁措置を行う義務を負っている。長年にわたり平和維持活動にも参加してきた。そして、中立性はスイスの「仲介外交」と密接に結びついている。
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それでもスイスは、国外に向けて自国の中立のあり方を繰り返し説明しなければならない。「中立性」がしばしば誤解されるためだ。
スイスの中立の根底にあるのは、「国際法(中立法)」と「中立政策」の区別だ。
1815年のウィーン会議で戦勝国がスイスに永世中立を認めた際の「取引」は、スイスが戦争に参加せず、戦争当事国のいずれにも傭兵を提供しない代わりに、スイス領内では戦争を行わないというものだった。
この原則は今もほとんど変わっていない。今日も国際法(中立法)は、直接・間接的を問わず戦争に参加しないことを義務づけている。連邦外務省(EDA)は中立を次のように定義している。
中立国には以下の義務がある。
- 戦争への参加を避けること
- 自衛を確実にする
- 軍事装備の輸出に関してすべての戦争当事国を平等に扱うこと
- 戦争当事者に傭兵を提供しないこと
- 戦争当事国に自国の領土を利用させないこと
こうした狭義の義務は、スイス国内で広く受け入れられている。
スイスは明らかに西側陣営との結びつきを持ちながらも、例えば米国によるイラク侵攻や、ウクライナへの武器輸送、米国とイスラエルによるイランへの攻撃の際には、北大西洋条約機構(NATO)加盟国に対してスイス上空の飛行を繰り返し認めなかった。
またドイツやスペイン、デンマークがスイスから輸入した戦車や弾薬をウクライナに再輸出することも禁じた。これによりスイスは欧州のパートナーから多くの批判を受け、取り戻すのが難しいほどの信頼を失った。
一方、「中立政策」は柔軟に運用される。中立政策は法的枠組みではなく、連邦外務省(EDA)の言葉を借りれば、「永世中立の予見可能性と信頼性を確保するため、中立国が自ら講じる措置の総体」だからだ。こうした措置は、その時々の地政学的・政治的状況に応じて調整される。
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中立国スイスの自己イメージの中核を成すのは、人道支援の伝統と「仲介外交」だ。これは貿易政策とともに、スイス外交政策の重点分野となっている。
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こうした議論が起きているのはスイスだけではない。スウェーデンとフィンランドは安全保障政策を転換し、長年維持してきた非同盟・中立政策を放棄してNATOに加盟した。欧州内外の他の中立国も、変化する世界情勢のなかで、自国の中立をどこに位置づけるべきかを模索している。
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NATOとの関係も、スイス国内で大きな議論を呼んでいる。連邦工科大学チューリヒ校(ETHZ)が定期的に実施している世論調査によると、世界の政治情勢を悲観的に捉えるスイス国民が増えている。しかし、国内の安全に対する感覚は損なわれておらず、今なおスイスに住む大多数の人が自国を安全だと感じている。
一方、NATOへの接近に対する抵抗感は薄れており、回答者の半数以上がより緊密な関係を支持している。スイスのNATO加盟については依然として過半数の支持を得ておらず、政治的な議論の対象にもなっていない。しかし、制度面・技術面でNATOとの協力を深めることには幅広い支持がある。
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今後重要性を増すとみられる安全保障上の問題もある。スイスは自らを「ロボット工学のシリコンバレー」と称し、ドローン技術の分野で重要な役割を担っている。しかし、ドローンやその部品が繰り返し戦争地域に持ち込まれており、中立性をめぐる火種となる可能性がある。
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宇宙空間での政治的対立も、中立をめぐる問題を生む可能性がある。軌道はますます競争の激しい空間となっており、国際的なルールづくりの重要性はこれまで以上に高まっている。スイスはここでも「橋渡し役」としての立場を確立しようとしている。
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近年、さまざまな主体が多国間主義に公然と異議を唱えてきた。ロシア、イラン、中国などの権威主義国家だけでなく、米国やイスラエルなど西側諸国もその傾向を強めている。多国間体制がきしむと、スイスのような小国が追い込まれることになる。ルールに基づいた秩序のもとでは、最も強い者だけが我を通すことはない。
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その一例が国際刑事裁判所(ICC)だ。複数の国がICCを「解体」しようとするなか、同裁判所がこうした攻撃に耐えられるのかが問われている。一方で、世界中で機能しているとは言い難いものの、最も重大な犯罪を起訴し訴追する権限を全ての国家に与えるという普遍的管轄権が広がりつつある。国際都市ジュネーブでは普遍的管轄権を行使した事件が多く、この点においてスイスの担う役割は大きい。
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1つ確かなのは、スイスの中立はまだ終焉を迎えていないということだ。だが将来どの方向に向かうのかは、なお激しい議論の的となっている。
編集:Mark Livingston、独語からの翻訳:大野瑠衣子、校正:宇田薫
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